第14話

 夢を、見た。


 霧がかかる丘を、僕は歩いている。


 歩きながら『これは夢だ』と考える、妙に冷めた自分がいた。


 ふと気が付くと、目の前を誰かが歩いている。


 それが誰なのか僕にはわからない。


 霧に見え隠れする少年の背中。


 見覚えのあるセーラー服の襟は学園の制服だ。


 アントンではない。


 彼の後姿はこんなにすらっとはしていなかった。


 身長からしてもパブロやクビンではないように思える。


 前を行く少年はちらちらと僕の方を気にしながら、何事か言っている。


 だけど声は聞こえない。


 顔も良くは見えない。


 霧に霞む少年の顔は、しかし口元が笑っているように見えた。


 僕たちは歩く。


 丘を登って、下って、また登って。


 丘はいくつも連なり、どこまでも続いていた。


「あっ」


 急にスイッチが入れられたように音声がオンになって、目の前の少年の声が聞こえた。


 と思ったら、少年はバランスを崩して前のめりに倒れこむ。


 僕は助けようと手を伸ばす。


 掴んだ手を辿って、不安定に身体を支えている少年の顔を見た。


 大きな空色の瞳に、短く切り揃えられた似紫色の髪。


 僕だった。


 驚いて手を離すと、もう1人の僕はそのまま霧の中に消えてしまった。


 いつの間にか霧は闇に取って代わり、辺りは真っ暗。


 どこにいるのかわからず、上も下もわからない。


 僕は闇に飲まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る