第12話
学園が休みになる週末は、キルヒナーの家に泊まりに行く。それが、リオの毎週の決まった予定なのだが、次の日曜は早々にキルヒナーからキャンセルの連絡が入り、寮に留まることとなった。
この所、キルヒナーは仕事ばかりで、2人はまともに会えていない。
日曜の朝は静かだった。
リオは寮の暮らし慣れた部屋で目覚め、のんびりと起床する。普段なら、見かけによらず朝に強いパブロに無理やり起こされるのだが、パブロはパブロで毎週末、ガブリエレの家に泊まりに行っているので、今日は馴染みのベットで自然に目が覚めるまで眠るという幸福な時間が持てたのだった。
最近のパブロは、例の畑の世話もあって、週末以外も頻繁にガブリエレの家へ行っている。ガブリエレからプレゼントされた畑と言う名の小さな荒地は、リオの手伝いもあって、今や畑の名に相応しい体裁になった。
その畑でパブロは苺を育てている。苺を植えるというのはリオの案だったが、まさか本当に植えるとは思っていなかった。
まだ先だろうが、リオは収穫できる日を心待ちにしている。
寮の食堂で朝食をとった後、リオは特にすることもないので真面目ぶって、月曜に予定されている小テストの予習をすることにした。が、少し問題を解いて、すぐに飽きた。
さんざん寝て、眠くもないのに、ベッドに横になってみる。リオは暫く目を閉じて、眠ろうと試みたが、やはり眠気はやってこなかった。
仕方がないので、仰向けに寝転がったまま、枕を天井に向かって投げてはキャッチするということを、リオは何回か繰り返した。
寮の中は静かだった。
みんな婚約者に会いに行ったり、友人と出掛けているのだろう。せっかくの休日に、寮の部屋でこんな風に無為な時間を過ごしているのなんて、たぶんリオくらいだろう。何だか無性に腹立たしくなって、リオは枕を力いっぱい投げ上げた。
その時、何の前触れもなく、ドアが開いた。
まさか誰かが入ってくるとは思ってもいなかったリオは、落下してきた枕を掴み損ね、顔面でキャッチする破目になった。
「何してんだ? リオ」
顔から枕をどけると、ベットの横にパブロが立っていた。ボーダーの長袖Tシャツに綿パンというラフな格好に、肩掛け鞄をたすき掛けにしている。前髪はいつも通り、ピンで頭のてっぺんに止めていた。
枕を顔面で受け止めたリオを心配している様子などはなく、むしろ少し笑いながら、パブロは間抜けな友人の顔を覗き込んだ。
リオはムッとしながらも、鼻をさすりつつ訊く。
「パブロこそ、今日はガブリエレのところじゃなかったの?」
「それがさ、ちょっと凄い話を聞いて帰ってきた」
「何? 凄い話って」
「まずは起きろって」
言われて、リオはベットから起き上がる。
パブロはリオのベットの横に備え付けられている共用のクローゼットを開けて、ごそごそと何かを探し始めた。
「お、あったあった」
そう言って、クローゼットから取り出したものを肩掛け鞄に入れると、リオを振り返る。
「ほら、リオも出かける準備しろよ」
「どこに行くの?」
「いいからいいから」
パブロは意味ありげにニヤニヤ笑いをしている。何だか気持ちが悪い。
どこに行くのか言ってくれないと準備のしようがないんだけどーーとリオは思う。取りあえず、椅子に掛けてあった茶褐色のジャケットをシャツの上に羽織った。
「うわっ、お前、勉強なんかしてたの?」
机の上に広げたままになっていた教科書とノートを見つけて、パブロがヒステリックに声を上げた。
「明日、小テストがあるでしょ。その予習だよ」
途中で投げ出したことは言わないでおく。
「小テスト? そんなのあったっけ? ま、いいや。早く行こうぜ」
せっかちそうにドアを開け、パブロは体半分を廊下に出しながら言う。リオはポケットに財布を突っ込んで、慌ててパブロの後を追いかけた。
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