第4話
アントンは寮に帰ってきてはいなかった。
リオ達は不安に苛まれながら、それでも浅はかな希望を持って、夕食を食べ、シャワーを浴び、ベットに入った。
夜は更け、もうじき朝がやってくる。
まんじりともせずに、リオがベットに横たわっていると、ギシリと軋む音がした。眠れないとわかっていても一応、閉じていた目を開くと、黒いシルエットとなったパブロがベットから身を起こしているのが見えた。
「眠れないの?」
リオが声を掛けると、薄闇の中で黒い影がビクリとして頭を掻いた。
「あぁ……うん」
「クビンはもっと眠れないだろうね」
クビンとアントンは同室だ。いつまでも隣のベットが空っぽなのは、さぞかし落ち着かないことだろう。
「リオ」
「何?」
「そっちに行っていいか」
影が俯いている。
リオは無言のままベットの端に寄ってスペースを空けた。キシキシとベットが鳴く。
それに気づいて、影はベッドを軋ませて立ち上がる。ひたひたと足音が近付き、触れ合わないギリギリの距離でパブロはリオのベットに体を横たえた。
何を言うでもなく、リオは天井を見つめた。
「あの噂」
「うん?」
横を向くと、パブロの後頭部があった。
「あの噂」とパブロは再び言った。
「本当だったんだな」
「まだわからないよ……」
そうは言ってみたけど、リオにも自信はなかった。
ひんやりとしたものが足に触れて、リオの心臓が跳ねる。何かと思ったら、パブロが足を絡めてきているのだった。
「冷たいよ」
抗議の声を上げると、パブロは寝返りを打って、顔をリオの方に向けた。いつも自信満々で強気なパブロだけど、薄暗い部屋のベットの上で見る彼は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「オレのせい、だよな……」
伏せられた長い睫毛が微かに震えている。
「オレが丘に行こうなんて、言い出したから」
リオは咄嗟にパブロを抱きしめていた。胸の辺りにパブロの頭を抱える。「リオ」と呟くパブロの口から熱い呼気が漏れ、リオの胸元をくすぐった。
足先はあんなに冷たかったのに、パブロの息は炎を孕んでいるかのように熱い。腕の中に他人の体温を感じながら、リオは思い返していた。
靴箱から取り出したブーツの重み。靴紐を結ぶ器用な指先。
『来ないのは君だけみたい』
怪しげな噂のたつ丘に登ることを渋るアントンに言った、リオの一言。その一言が彼を丘に登らせた。アントンが仲間はずれを嫌うことを知っていて、リオはあの言葉を無責任に放ったのだ。
まさかこんなことになるなんて、思わずに。
「僕も同罪だ……」
もしかしたら、僕の方が罪深いのかもしれないーーその言葉を飲み込んで、リオは強くパブロの頭を抱いた。もがく様にパブロの腕がリオの腰に絡みつく。
リオとパブロは太陽が昇るまでの短い時間、互いを慰め合う様に身を寄せ合っていた。
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