第188話 付与魔法の極意 後半
-20℃を体感してもらった後。
「んで、今何をしたんだ?」
「自分の固有魔法と言えばいいですかね、熱の与奪魔法と言えばいいんですかね」
「熱の与奪?4元素と光と闇じゃないのか?」
「ですよ、自分は、その6属性はほとんど使えませんけどね」
その代わりに熱の与奪と水分の与奪を貰っている。
「精霊契約なのか?」
ヒスイとは契約しているけど、レムは一緒に居るけど契約していないな。
「あ~自分も精霊契約はしてますけど、関係はないですね、固有魔法なんですよ、自分だけが使える魔法と言ったところです。その対価として、6属性魔法はほとんど使えませんけど」
とりあえず、魔石を液体にする為に改めてアイテムボックスから魔石を出し直し、金属のボウルも出し、その中に魔石を入れた。
「はいはい、んじゃ続けますよ、この魔石を冷やすと…… こんな感じで液体になります。」
一瞬で液体になった。
自分の中ではじわりじわりと変化するものだと思っていたが。
「これは、温まったら、魔石になるのか?」
「ならないですね、魔石は温度云々じゃなくて、圧縮とからしいので、温めると魔石にはならないけど、気体にはなりますね」
「そうか、それでその液体をどうするんだ?」
『どうするの?』
『イメージしながら塗るのさ、刃の部分に塗るとすぐ効果なくなっちゃうから柄の部分とかにやるといいよ』
なるほど、少し工夫が必要だけどこれなら簡単に付与できるのか。
「これをですね、付与したい武器に思いを込めながら塗るんですよ」
「塗るのか、いつか剥げそうだな……」
『この鍛冶師さん結構頭いいね~』
すぐに連想できるあたりさすがプロと言ったところだな。
「正解!正直、刃の部分に塗ったりすると、直ぐに効果なくなりますね、まぁ柄の部分に塗っておけば、柄を外して掃除とかしない限りって感じですけどね」
「なるほどな、その技術は、秘術とかそういうレベルだと思うのだが、ワシに教えてよかったのか?」
「構いませんよ、そもそも魔素液自体が簡単に手に入らないですからね」
「そうだな、あんなに寒い所は、この大陸にはないだろうからな……」
「まぁ、水系魔法の使い手に、氷部屋を作ってもらうとかすれば……」
「現実的じゃないな、だがそれしか方法がないのか……」
『魔素液が地上に噴出している所があるけど、この大陸にはないね~』
それは見て見たいな、世界遺産で見られるような自然豊かな所を連想した。
『地脈が浅い所を走っていると魔素が異常なくらい濃い場所があって、噴出していなくても薄い魔素液が入手できるところがあるよ』
『どっちらにしろ、この大陸じゃとれないよね~』
『だね』
ヒスイとレムが何やら会話している。
「あとは、魔素液が、地上に噴出している所ですかね」
「どういうことだ?」
「魔素の濃いエリアってありますよね?」
「あぁ、このあたりだとリズベン火山だな」
「魔素の濃い所って、地下の浅い所に魔素の地脈が走っていて、その魔素が、気体か液体のどちらかなんですよ」
「なるほどな、リズベン火山はどうなんだ?」
『あそこは気体だね~』
残念、魔石があればいくらでも調達できるし、少し分けてあげるか。
「さぁ、火山だし、おそらくは気体でしょうね…… まぁ、鍜治場を借りた、お礼って事で分けますよ、自分は、いくらでも調達できるしね」
ガッザラは少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「すまんな、色々な事を教わった身としては、こちらがお礼をしなければならんのだが」
「構いませんよ、それじゃあ、もう1つの方法ですよ」
「お、おう」
「こっちは、魔素液を使う方法とは違って、永続的です。と言っても気づいてそうですが、今の状態を完成としない事です。さらに手を加えて、その際に想いを込めればいいんです」
「なるほど、完成としないで手を加えればいいのか」
「そうです、まだ作業工程なので、いくらでもね」
「だがこの刀身は、これで完成のように思えるんだが、他にどうやって手を加えるんだ?」
「簡単な話、刀身に彫刻を施したり、柄の部分に自分の名を刻んだり、銘を刻むんですよ」
「なるほどな、刀身を作り終わってから一度鑑定して、不足分があれば、名や銘を刻む際に追加できるのか」
「ですね、まぁ1工程ごとに鑑定して調整してもいいし、ただまぁ、簡単に付与効果は、つかないんですけどね」
「そこら辺は自分で色々やってみよう」
「えぇ、色々やってみてください」
職人として生きている彼ならきっといつかは付与の極意を掴んでくれるだろう。
「ところで師匠、その熱の与奪の固有魔法があるんだったら、鍜治場で鍛冶をする必要があるのか?道具もそろってるようだし、どこでもできそうだが」
それは正解、鍜治場の雰囲気とかを味わいたくてお願いしただけだし。
「それは、ちゃんとした場所でやるほうが、集中できるし、身が引き締まるんですよ」
「なるほど、言わんとしてる事は理解した」
話に区切りがついたので、思い切って聞いてみることにした。
「ガッザラさん、一つ聞いても良いですか?」
「なんだ?」
「ガッザラさんに、刀の制作を依頼したのは、どんな方ですか?黒髪の女性じゃありませんか?」
「っ!?なぜそう思った?」
反応を見る限り図星かな?
「そうですね、刀を使うのは、秋津出身の剣士が多い、ただ秋津出身の人がこちらの大陸まで来る事は少ない、理由は、刀を作る技術が無い為、もし刀に何かあった時の事を考えると……」
「そうだな、このあたりじゃ、刀を作る技術に関しては、知っている者は居ないと言ってもいいからな……この大陸に1人いるのか怪しい所だ……」
やっぱりそういうレベルなんだ。
『この大陸に作れる人いるの?』
『いないんじゃない?』
『ドワーフ達の国と言っていたハーブティッサには?』
『いない、いない、秋津ならいっぱいいるだろうけどね~』
鍛冶師として生計を立てれる人が外の大陸に行くものだろうか?
もしかしたら、秋津にしかいないのかな?
「そうですね、ドワーフ国のハーブティッサにも行きましたが、作れる人は居ませんでした」
「だろうな……秋津の国の秘技なのか?」
秘技って程ではないと思うが、刀を作る際に鉄を冷やす水の温度も秘伝扱いだった流派もあったと聞いた事がある。
それを知りたいがために触れた弟子の腕を切り落とした話をどこかで聞いた事がある。
「どうでしょう、刀匠によると思いますが一子相伝とか、弟子の数は絞ってると思いますよ」
「秋津の国に行った事があるのか?」
「秋津の国に行った事はないです、ただ知り合いに、秋津出身の冒険者がいますね」
秋津の冒険者となると、リースと兼定だな2人とも元気だろうか?
ガッザラの表情が疑問に思っているような表情に変わった。
「師匠は、いったい何者なんだ……?秋津に行ったこともないのに、何故作り方を知っている?」
「ん~そこで、質問した黒髪の女性の話になるんですが、自分が違う世界から来たと言えば信じますか?」
「っ!?もしや…… 師匠も使徒様ですか?」
“も”と言ったか、確実に茜君の事で間違いなさそうだ。
「まぁ、ネア様の加護は持ってますよ、それでその女性を自分は、探してるんですよ」
「理由を聞いても?」
理由か、ここはちゃんと答えておくべきだろうが、赤の他人にこの話をするのは結構恥ずかしい。
「あはは、恥ずかしながら、前の世界で、最愛の恋人だったんですよ。彼女を追ってこの世界に来たんです」
「なるほどな、師匠とは言え、客人の個人情報は渡せんが」
だろうね、顧客の信頼を得るためには個人情報保護は大事ですよね。
「が?」
「その客人に師匠の話をする事はできる。ただ嬢ちゃんは気まぐれな風のような人だからな、いつ来るかわからん」
茜君って気まぐれな子だったっけ?
まぁでも、これを見てくれれば自分がこの世界に来ていることを気づいてくれるはず。
何度もキャンプで自分が作っているのを見ている茜君ならきっと気づいてくれるはず。
「そうですか、じゃあこれを見える所に置いておいてもらっていいですか?」
暇なときに薪で作った阿修羅像をアイテムボックスから取り出しガッザラに手渡した。
「これは?」
「自分が居た世界の、戦神と言ったところですかね、自分が思ってる人なら、何らかの反応があると思います」
「わかった、カウンターの上に置いておくとしよう」
「ありがとうございます。そうと決まったら、ダマスカスの刀に彫刻をしよう!」
「ワシはどうすればいい?」
「この魔素液を使って2本の刀身に付与の練習をしてみては?」
「お、おぅ」
何を彫刻しようかな、茜君が好きだった彼岸花を掘るか、殆どの人が縁起が良くないと嫌う花だったが、“この儚さがいいのに”なんて言っていたのを覚えている。
夕暮れ時、彼岸花が咲き乱れる平原や畑を歩く茜君をイメージしながら、刀身に彼岸花を彫刻していった。
彫刻が終わったら、白木の柄と鞘を準備しておしまい。
「出来た!ガッザラさん、これ鑑定して!」
『わ~初めてだね特殊効果なんてついてる!』
『へぇ~凄いね』
ヒスイとレムが反応してくれたが、特殊効果ってなに?
「銘が、彼岸花になっとる、おまけに、すべての付与効果が10になっとる、特殊効果で、振るうと彼岸花の花びらが舞い散る幻を見せると出ているんだが……」
銘が彼岸花ってのはイメージしていたからかな?花びらが舞い散る幻……、少しふってみたい!
「お!イメージ通りの効果が出ましたね!」
「特殊効果ってなんだ……?」
「ん~なんなんでしょうね?遊び心が反映されたやつですかね?ちょっと貸してください」
ガッザラから刀を受け取り、軽く振ってみた。
すると、振った軌道上赤い彼岸花の花びらが舞い始め、地面までひらひらと舞い落ちていき、地面の落ちると消えた。
思っていた以上に幻想的な光景だった。
「やばいな……こんなことができるのか……」
「なんだ、師匠も初めてやったのか?」
「えぇ、これまで特殊効果なんてついたことなないですね~ただ、花の彫刻しているときに、彼女が、風が吹く彼岸花畑を思い浮べて掘っていたんですよ。」
「イメージか……」
「ですね、それじゃあ、ガッザラさん、先の像に何らかの反応を示したら、茜という名前も出してください!前の世界での名前です。自分は秋津直人、この世界では、ナットという名前を両親から貰っています。そして自分が思っている子なら、この刀を渡してください、彼女の為の刀だから」
必ずこの刀は茜君の手に渡るだろう、きっともうすぐ会える。
その後は、ガッザラと魔素を込めながら鍛錬すると付与が出来る等の話をして過ごした。
翌日、約束の一週間がすぎ、鍜治場を後にする日がきた。
「用事が済んだら、また、ここにきます!そのときは、修行の成果を見せてくださいね!」
「あぁ、世話になったな。また来てくれ」
「えぇ、それでは」
ガッザラと別れた。
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