第174話 20年後の首都ヴォーネス リコリス

 オスカーと共に元王城跡地に行くことになった。


 王城跡地まで来ると、城というよりは神殿みたいな外見の建物があった。


「もしかして、リコリスと半蔵はここに?」

「お?二人が結婚してるの知ってるのか?」

「ヴォーネスまでの道中でその話を聞きました」

「ほぉ~半蔵は今や暗部のエースだよ」


 まさかの暗部所属!?


「もしかしてオスカーの部下になってるので?」

「あぁ、リースから狼衆全員預かってる。殆どはリンクル族と結婚してるぞ」


 まさかの半蔵だけじゃなかった。皆それぞれ自分との約束を守ってくれていた。


「そっか……」

「あぁ、それからだな、お前さんの下についていた狼達だが殆どの者が寿命を迎え亡くなってる。今やオーレリア女王の元に1匹だけ残ってる位だな」


 絶対健康は永遠の命ってわけじゃないのか、最期まで元気に生きることが出来たかな?

 自分とかかわりスキルを授けてもらった事を後悔はしてなかったかな?

 せめて、みんなの最期を看取る事位はしたかった。


「そうですか……」

「暗くなんなよ、お前との約束は奴らの子ども達が引きついでリンクル族と共に生活してるよ」

「いや、そういう事じゃなく、せめて皆の最期を看取りたかったなとね」

「そういうことか、ヴォーネスの後、ヴェンダルに行ってみろ、オーレリア女王の所にまだ残っているからな」

「そうします」


 リコリスと半蔵に会ったら急ぎヴェンダルに向かうかそう思いながら、オスカーと共に神殿の様な物の建物の中に入ると。そこには大学の講義場の様な部屋があった。


「ここは……?」

「ここは会議室だな、何かあれば、国中の村や町の代表がここに集まって、色々な決め事をしてんだよ」

「なんというか、近代的ですね」

「まぁな、教団との戦争後にリコリスから聞かれたんだよ」

「国のシステムとかですか?」

「あぁ、それでこの奥が国の代表を務めているリコリスの自宅だな」


 会議場を後にして敷地の奥に進むとなんというか、武家屋敷みたいな屋敷が姿を現した。


「なんかこれって……」

「ジャパニーズサムライ」

「それは偏見でしょ」

「いや~俺が好きな時代劇に出てくる屋敷そのままだ」

「この国には全然合ってなくないです?」

「まぁな、だがなこいつはリースから2人にプレゼントされたもんなんだよ」

「んじゃ秋津の?」

「あぁ、秋津の良い所の建物だそうだ」


 なんとまぁ、西洋風の町の奥にポツンとたたずむ武家屋敷違和感しかなかった。


「なるほど」

「半蔵もリコリスも喜んでいたからいいんじゃないのか?」

「まぁ本人たちが喜んでいるならいいですが……」


 武家屋敷の門をくぐると、塀の内側には木の棚の上に松等の盆栽が並び、庭には白い石で水の流れのようなものを表現したものが目に入った。


「まさかの、枯山水……、なんというか本当に凝ってますね……」

「あぁ、俺も日本好きだからな、この風景は好きだ、半蔵が庭を手入れしてるんだぞ」


 きっと、手入れの仕方をリースから色々教わったんだろう。ここまで和を感じたのはこの世界に来て初めてだった。


「ハンゾー直人を連れてきたぞ~」


 オスカーの呼びかけからしばらくすると、玄関からリコリスが姿を現した。


「あ、あ、お久しぶりです!」


 リコリスを最後に見たのはいつだろうか?ヴォーネス制圧してしばらく後にヴィンサーと話をしていた時にちらりと見た位だ、印象に残っているのは、エスティアで初対面時だ、あの頃と比べると、ボロボロの貧乏人っぽい感じから良い所のお嬢さんと言った感じになっていた。


「元気そうで何より、ヴィンザーさんの事は……」

「いえ……、父は最期に秋津様に礼を言いたかったと言っていました。私達リンクル族の為に最後まで本当にありがとうございました」


 リコリスが目に涙を浮かべながら深々と頭を下げた。

 ユーロンスの事が終わった瞬間にエルメダに拉致されたからな、お礼を言う間もなかっただろう……。


「いや……」


 こういう時はなんて答えるべきなのだろうか?


 正直分からない。


「頭を上げてください、自分はあなたに願われ、リンクル族を見て何とかしないと思ったから手伝っただけ」

「それでも、本当にありがとうございました」


 一度頭を上げたのにもかかわらず、また頭を下げてしまった。


 話題を変えるかな?


「えっと半蔵は?」

「あの人は、子どもたちと一緒に町に買い物に行ってます」

「そっか」


 待つべきか、ヴェンダルにいる最後の子に会いに行くべきか悩んでいると。


『ノンちゃんはもう長くないよ』


 と、ヒスイが教えてくれた。

 

 カスミ、ヒナ、ノンの3匹のシャドーウルフは、オーレリア姫の護衛に付けてから一度も会っていない。


 最後まで残っていたのは戦に不向きと感じたのんびりやのノンか、生きている半蔵とならまた会えるだろう。


「リコリスさん、自分はヴェンダルに向かいます。ノンの命が長くないそうなので」


 リコリスにそう伝えると少し悲しそうな表情になったが直ぐに戻った。


「そうですか……、またここに遊びに来てください、あの人もあなたと会える日を楽しみにしていると思うので」

「えぇ、そうさせてもらいます、オスカー自分は行くよ」

「あぁ、気を付けてな、また遊びに来いよ」

「えぇ」


 さて、オーレリア姫様とノンの元に行くか。


『ヒスイ、ノンは今どこに?』

『かつての第6騎士団兵舎前、今女王もそこにいるよ』


 女王か、オーレリアがちゃんと王位継承したってことだろう。


 ノンとの最期の時間を少しでも持つために初めて空間魔法を使おうと思い、静かに目を閉じ、短い期間だったが世話になったあの場所をイメージした。

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