第172話 20年後のヴォーネス国内

 エルメダと別れ、街の入口で検閲をする兵士達が居ないなと思いながらアキツの街に入った。


 街の中に入ってすぐに目についたのが、自分を模したと思われる像があった。


 ん、この街に居たら騒がれそうだな、この街はもういいや、首都ヴォーネスに向かおう、きっと冒険者ギルドにはオスカー、商業ギルドにはチェルシーが居るだろうし……、きっとどこかにヴィンザーとリコリスも居るだろう。


 のんびり、歩いてヴォーネスへ向かった。


 道中で気になった事をヒスイに聞いてみた。


『自分の見た目って、教団騒動の時から歳を取ったように見える?』

『ん~ん、全く変わってないかな、あの空間の中は時間が流れてなかったのかもね~』


 教団騒動の時秋津直人は18歳だったから、本来なら38歳くらいの姿になっていてもおかしくないが、18歳のままか、そんなことを思いながら歩き続けた。


 途中ゾンビに襲われ、陣中突破をした街道を通ったが、あの時は森だった場所が広大な畑になっていた。


『あの頃とずいぶん変わったね~』

『この辺だよね、ゾンビ達に襲われたのって』

『そうそう、君が前に撤退するって言った時は驚いたよ~』

『へぇ~君はそんな事したんだ』

『そうそうあの時はね~』


 ヒスイとレムの雑談を聞きながら進んで行った。途中何度かキャンプをしながらセトミシの街に着いた。


 あの時は誰もいない町だったが今は活気があふれている町だった。リンクル族達も多くいて人族やドワーフ族、エルフ族、獣人族と多くの種族であふれていた。


 冒険者風の人たちも多いなと思いながらセトミシの市場で食糧調達をした。


『冒険者であふれているね~』

『そういや、あの頃より町とか増えたのかな?』


 教団騒動の時は未発見ダンジョンが多いとか、スタンピードであふれた魔物達のせいで開拓が進まないとか色々あったが……


『ヴォーネス国内なら増えているよ、すべてのダンジョン周辺に街が出来ているし、農地もすごく増えているよ』

『そっか』


 市場で買い物を済ませて街を出てモリソンへ向かった。


 モリソンの横を流れる川まで来ると、多くのリンクル族達がちょっと大きめの帆船をつかい渡し舟をやっていた。


 船に乗り甲板で川の流れを見ていると、遠くに小さな小舟の上に人族とリンクル族のペアで投げ網漁をやっているのが見えた。


 セトミシもそうだったが、リンクル族と人族の間に溝はなさそうだな。甲板の方を見るとこちらもリンクル族達が走り回り帆を調整したりしていた。


 甲板で走り回るリンクル族達をほほえましいなぁとか思いながら見ていると、1人のリンクル族がこちらに寄って来た。彼は見上げながら自分に話しかけてきた。


「なぁ兄ちゃん、どこから来なすった?」

「ん、どこからか、アキツの街の方からかな」

「ふ~ん、兄ちゃんは御使い様にようにとるね~」


 御使い様とかすごく懐かしい単語だヴィンザーから聞いたのが最後かな?


「そうなの?その御使い様って何をした人なの?」

「おいらたちリンクル族にとっちゃ英雄だな~」

「そうなんだ~」

「あぁ~お頭もペンジェンで御使い様に救われたんだってよ、兄ちゃんとよう似た人だって言っていたな」


 ペンジェンか、スラム街か港の倉庫に居た子だろうか?


「そっか」

「兄ちゃんは御使い様の子どもかなんかか?」


 よく似た人が居れば興味持つのかな?

 自分としてはそっとしておいてほしいと思いながらも。


「違うよ、君は仕事に戻らなくていいのかい?」

「そっか~、本人だったらあの時どんな気持ちで手伝ってくれたのか聞きたかったんだがなぁ」


 どんな気持ちか~きっかけはリコリスが自分に願った事がきっかけだった。見た目が子供のリンクル族達がひどい扱いを受けてるのが我慢ならなかったり色々考えた。


「仕事に戻んなよ、ところでヴィンザー様とかリコリス様はどうしてるの?」

「ヴィンザー様は2年前に亡くなったよ、リコリス様は半蔵様と結婚してこの国の元首をしとる」


 は?今半蔵とか言ったか?半蔵がリコリスと結婚……、ヴィンザーが亡くなった事よりも、半蔵とリコリスの結婚が気になった。


「半蔵って狼の獣人の子かな?」

「そうだぞ、ユーロンスが滅んだ後、ナンバーズがリコリス様を暗殺しようとしたらしく、そこに現れたのが半蔵様だね、あっという間にナンバーズをやっつけたことがきっかけらしいんだ」


 なるほど、そんな事があったのか……、


「へぇ、子どもはいるのかな?」

「あぁ、今15になる女の子と17になる男の子がいるな」


 ずいぶん大きな子がいるんだな、というかリンクル族と獣人のハーフってどうなんだ?童顔狼青年なのか?それとも普通のリンクル族なのか?はたまた狼獣人なのか?彼らの子どもの姿が凄い気になった。


「そっか、教えてくれてありがとう」

「いやいや、それじゃおいらは仕事に戻るわ~」

「あぁ、頑張ってな」


 リンクル族の子が仕事に戻っていった。


 モリソンの街中の船着き場に係留するのかなとか思いつつ対岸をみていると上流の船着き場辺りに小さな集落があったそれを見て思った。


 あの辺りは釣り野伏せで敵陣を攻略した辺りのようなと思った。


 モリソンもあの頃より大きく変わっていた。


 20年の時間は色々な事が大きく変わるなぁと思いながらヴォーネスを目指した。

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