第170話 卒業試験

 あれから様々な戦を経験することとなった。人狼だけではなく、ヴァンパイア戦、グール戦、妖狐戦等色々な戦いを経験させてもらった。


 ヴァンパイアは味方を強制的にヴァンパイア化していくことが脅威で、グールは臭いが酷く地中から奇襲が多かった。そして妖狐戦は幻影を使った戦が多く心眼を使えば簡単に幻影を敗れる事に気づくまでは苦戦した。


 隠密は一度も使った事が無かった為身についていない気がするが、心眼、見切り、行動速度上昇、縮地は身につき十分なレベルになったと思う。


「おまえもここに来た頃よりずいぶん変わったな、男らしくなったぞ」

「ありがとうございます」

「スキルも十分身についたようだし、そろそろ卒業か」


 隠密が身についていないのに?


「隠密がまだな気がしますが……」

「隠密か、ならば最後の試験をしようか、これをクリアできる頃には隠密も身につくだろうからな」


 かくれんぼでもするのか?


「って、最後の試験?」

「あぁ、言い換えるなら卒業試験だ」

「これからやるのは、ノリが嫁となった妖狐の娘を救出する為に侵入した城を再現する。無事に娘の元にたどり着いて見せよ」


 何そのゲーム面白そうなんだけど!


「秋津の城って事ですか?」

「そうだ、この時期はまだ俊府城と言われていたがな、この件がきっかけで我々と俊府を含む各地の勢力が敵対してな、ノリと私で今の秋津の国を統一する戦争に発展したんだ」


 好きな女を助けるために国と対立か、って“ノリと私”?


「ネア様とソラリス様は参加しなかったんですか?」

「あぁ、2人とは秋津の妖狐騒動よりも前のヴァンパイア騒動が終わった後に別れているな」

「そうなんですか」

「あぁ、はじめるぞ」

「お願いします」


 朝か夕方の荒野の風景から、夜のどこかの街の風景に切り替わった。前の方に所々かがり火の明かりが洩れている塀に囲まれた建物があった。


「見えるか?」

「あの館ですか?」

「そうだ、あれが俊府城だ」


 てっきり城っていうから小田原城や姫路城な建物をイメージしていたが違い、2階のない平屋だった。まぁ戦国時代の武田氏の居城躑躅ヶ崎館を考えたら城と呼んでも良いのかな?


「城っていうか屋敷ですよね?」

「そうだな、あの場所の地下に居るからな、それとほれ」


 それだけ言うと、ネア様から頂いた神刀を返してもらった。


「なぜ今?」

「このころにはノリも持っていたからな、それにそいつを使って城に侵入しているからな」

「なるほど」

 

 という事は、見張りの者を斬ってもいいというわけか。


「見つかり応援を呼ばれたらやり直しだ」

「了解です」

「よし行ってこい」


 多分この試験は簡単だと思いたい。


 侵入する前に館の周りを見てみるとかなり広いことが判明した。

 

 心眼を使い塀の向こうに人気のない所を探し敷地内に侵入して思った。時代劇なんかで出てくる日本風の広い屋敷といった感じだった。


 敷地内に侵入したものの地下が何処にあるかが分からない、神の手が戻ってきてない城の兵の記憶を覗くという手段が取れないのが痛いな……


 敷地内の庭なんかには敷石が敷かれているため音を出さずと言うのが難しい、人気が無い所を移動し館の中に侵入するか?それとも屋根の上から探すか?


 地下というからな……、館内部じゃないと探しにくい気がする。とりあえず屋根の上を歩きながら見える範囲気配を感じ取れる範囲の人の動きを把握するか……


 その後しばらくは屋敷内各所を回り見回り兵ら人の動きを観察した。


 その結果、正面入り口から一番離れた敷地の隅っこにある小さな建物の入口だけは常に見張りの兵が2人いた。そしてその建物の向かいにある縁側にも1人の兵がうろうろして2人の兵が居る建物を見張っているような感じだった。


 隅にあるし、この建物もので間違いなさそうだが、問題はどうやって侵入するかだ、一度敷地の外にでて建物の背後から敷地内に侵入しなおすか?


 向かいの建物の見張りをやれば、小さな建物の兵達が騒ぐだろうし、その逆に、小さな建物の兵をやれば向かいの建物の兵が騒ぐだろう。


 スナイパーライフルが使えればなぁ……、と思ったが、あれはでかい音出すから即座に見つかるか、弓か……、矢が見えるからすぐに騒がれるな。どうするか……、せめて建物の向かいの兵だけでもどうにかできればいいんだが……、ふと、思った。2人の兵の居ないところにおびき寄せて殺せばいいのでは?


 1人の兵がうろついている近くは人気があまりなかったので適当な所で屋根から地面におり屋敷内に侵入した。


 人の気配と自分の足音に気を付けながら屋敷の中を進んで行くと、縁側にでる廊下まで来た。


 問題はどうやっておびき寄せるかだ。試しに近くの壁を叩いてみたが音があまりならなかった。


 しかたない、廊下に何かを投げて音を出すか、次の問題は何を投げるかだな……、出来たら投げたものが視界に入りにくい物がいい、アイテムボックス内に何かないか探していると、1つだけあった。冷凍庫でつくった氷だ、これなら熱魔法を使って溶かせる。


 そうと決まれば次に、廊下から縁側に出る場所付近に氷を投げ、熱魔法で溶かし水分を即座に蒸発させすぐに、廊下の角に身を隠した。


「ん?」


 見張りの兵が音に気づいてくれたらしく縁側から廊下の方に顔をのぞかせた。そこでもう1度、氷を自分が隠れている方とは反対側の廊下に投げた。


「ん?誰かいるのか?」


 縁側からこちらに寄ってくる兵士を待ちながら心臓をドキドキさせていた。


 兵士は自分が隠れているT字路まで来ると、自分が居るほうではなく最初に反対側を確認した。今だと思い神刀を抜き、斬るのは命のみ、そして兵士を斬りつけた。


 兵士が倒れる際に音を出さないように肩に担ぎ近くの人の居ない部屋に隠した。


 これで残り2人か、こっちはサクッと斬ってしまえばいい。


 1度館の外にでて小さな建物の背後から侵入した。音が出ないようにそっと地面に降り、壁伝いに移動した。


 角を曲がると2人の兵が居る所まで来ると、斬るのは命、そして2人の兵を即座に斬った。


 これで建物内に侵入できるはずと思って扉をあけたら、案の定地下に続く階段があった。


 地下に降りると、尻尾が9本ある2m程ありそうな狐が居た。


『それまでだな』


 狐を見た瞬間エルメダの声が頭に響いた。

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