第158話 撤退戦
撤退戦を決めた後、リンクル族達を守りながら、全リンクル兵が狼に騎乗するのを待った。
「御使い殿!全員騎乗を確認した!」
「了解!自分が道を作ります!」
「頼む!」
よっし撤退しよう!自分は前方に居るゾンビ達に突っ込んでいった。
「そっちは!」
「これで良いんです!」
そう、後ろに撤退するんじゃなく、前に撤退するのだ!陣中突破だ!このまま突き進み悪魔憑きとなっている死霊術師を斬る!
『撤退ていうから後ろに下がるのかと思ったけど、前に撤退とか前代未聞だよね~』
そりゃそうだ、自分も本で関ケ原の戦いの中で、前に撤退した陣中突破を知った時は本当にそう思った。
神の手、行動速度上昇、縮地、土魔法と持っている力を惜しみなく使い、撤退に邪魔なゾンビ達をどかしていく、街道の両サイドにアイアンウォールを使い、森からのゾンビを無視できる状態にし、ひたすら前に居るゾンビ達を斬り無力化していった。
『ヒスイ、リースに連絡!セージャにリンクル兵達の受け入れ要請と、案内係として援軍を』
『OK!』
ゾンビを斬りながら、術師の元を目指していると
『リースからの返事、受け入れは問題ない、狼衆1人派遣すると、ただ隠れ里の位置は特定されないように配慮してほしいって!』
その要望なら簡単だ。適当な所で自分が殿をやればいいだけの事。
『了解した』
ゾンビを斬り続けてどれくらい経ったか分からないが、ようやく術者と思しき髭を生やした男と、ペンジェンで狙撃し殺したはずのボロボロの赤い服を着た男が目の前に居た。
「やっぱりお前か!」
術者と思しき男から発せられたが、やっぱりと言われるような覚えはない……、自分の中では初対面だ。
『あの男、右腕が他人の腕になっている。ゾンビと同じ要領で動かしているみたい……』
それはそれで凄いと思う、義手ならぬ腕移植ってやつだ。
『自分あいつとは初対面だよね?』
『ん~どうなんだろう、私も記憶にないけど、腕無いって事を考えると、あの兵士達の中に居たんじゃないかな……』
ペンジェンで半蔵達狼衆と合流する際に襲われた被害者か?
赤い服の男が数歩前にでて、地面に何かを叩きつけていた。そしてたたきつけた何かから緑色の煙の様なものが舞い上がっていた。
「苦しめばいい!フハハハ!」
ヒスイが以前、毒使いみたいなステータスと言っていたからな、死霊術師の発言と言い毒で間違いないだろう、ならば、大気魔法を使い空気を浄化した。
すると先ほどまで舞っていた緑色の煙の様なものが消えた。
「っは!?」
自分は邪魔なゾンビを斬り、縮地で詰め寄り赤い服の男と、死霊術師を斬った。
「ッガハ……」
赤い服の男の方は念のため首をはね、死霊術師の男は首をはねた後、神の手を使い死亡確認をした。流石に腕のように、他人の首を付けて復活されても困るので念には念を入れた。
『ん~悪魔憑きだった影響かな~術者居なくなってもゾンビの動き止まらないね……』
ゾンビはまだ動いているのか……、面倒だが、前方にゾンビはおらず、ユーロンス方面への道は開けた。
あとは派遣された狼衆と合流するだけだ、三日三晩一気に駆け抜けユーロンスと思しき街が見えてきたが、そこもまた異様な光景が広がっていた。シャボン玉の様な虹色の何かに町全体が包まれていたのだ。
『ぇ……』
それを見たヒスイが変な声をあげていた。
『なに?何かあった?』
『ん……、なんでもない……』
何か気になる事を言っていた。
ユーロンスの城壁に沿うように走っていると。
「兄ちゃん!おいらがこの後セージャまで案内する」
「半蔵か!頼んだ!ヴィンザーさん、彼について行ってください、自分は後を追ってくる者達を片付けます!」
「この者は?」
「自分の友人です」
「なるほど、青年案内頼む!」
「あぁ、任せてくれ」
ユーロンスの門を見ながら、リンクル兵達が目の前を通過していき、皆森の中に消えて行った。
『ゾンビ達はついてきてるの?』
『ついてきてるね、接触まではしばらくかかると思うよ』
さぁ、今度は身を挺して追手を阻む捨て奸役だ、ゾンビを待っていようかと思ったらユーロンスの街から、兵士と、武装した市民達がゾロゾロ出てきた。
『うわぁ……、みんな悪魔憑きだ……』
『え……?そんなことありうるの?』
『うん……、昔おんなじことがあったよ……』
前例があるのか、悪魔憑きといっても普通の人より大分強くなっているようだけど、神の手と神刀の前には大した相手ではなかった。
斬るのは、戦意、得体のしれない悪魔、教団への信仰心、リライアンスフラワーへの依存心!
ユーロンスはクラリス教団本拠地なだけあって数が多いのなんのって……、それも兵士だけじゃなく市民らしい人達も木の棒や斧等の日用品を手に取って襲ってきている。
ひたすら斬っていくが、戦意を失った人達が邪魔すぎる。おまけに斬った人と斬ってない人の区別がつきにくくて困る。
「死にたい奴はここからされ!」
『去っても、結界が信者だけ通れるから、信仰心まで斬っていると街の中に入れないっていうね~』
信者のみ入れるという条件付きか、戦場を離れて街の中に逃げ込もうとするも結界に阻まれて街に入れない市民たちが居た。
今はやれる事だけをやろう、入れなくなった人たちの対応はその後だ。しばらく市民兵士を斬り続けていると、懐かしい声が聞こえた。
「助太刀してあげよう!」
そう言って、両手にジャマダハルを装備したリースが乱入してきた。
リースの動きは舞を見ているような動きをしていて、とても綺麗に見えた。
リースは、せっかく活かした市民や兵士達も殺し始めた。
『あぁ~せっかく活かした人までやっちゃってるね~』
あとで蘇生するか、そして、ユーロンスから出てきた市民や兵士達が多く残っている中、ゾンビ達が追い付いてきた。
ゾンビ達は自分とリースに真っすぐ向かってくるのかと思ったが、ユーロンスから出てきた市民や兵士達に襲い掛かっていた。
『なんて言うか……、生者を襲えとでも命じていたのかな……、敵同士でやり合っているね……』
リースの方も、“えっと?”という感じで頭上に“?”が浮いているのが見てわかるほどだった。
「リース!ゾンビ優先で!人は自分にまかせて!」
「了解!」
ユーロンスから出てきた人たちにとっては、自分とリースそしてゾンビ達に挟撃されるという悲惨な状況になっていた。
『ヒスイ、まだ悪魔憑きの人を分かりやすくしてくれる?』
『OK、悪魔憑きの人の頭の上に子ども達を配置するね』
『頼んだ』
すると、頭上に緑の光の玉がある人が沢山現れた。まだこんなに居るのかと思いながら、光の玉を頼りに人を斬っていった。
リースと共に戦っていると日が暮れ夜を迎えそして朝を迎え、そしてお昼にさしかかろうとした頃、ようやくゾンビ達と、街から出てきた人の戦意を削ぐことが出来た。
「本当にこの人達大丈夫なの?」
「大丈夫、もう自分らと戦う意思もなければ教団の信者でもないから」
「そか」
ようやく終わった。リースと2人でとはいえ丸1日戦っていた。これで街中の兵士は0になっていそうだが、どうなんだろうか?
問題は信仰心を失って街に入れない人達をどうするかだな……、どうしよう?
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