第157話 奇襲!

 セトミシの全市民、全兵士失踪の謎は解けないまま、一晩セトミシの街で過ごすことになったが、夜が明けても何も変化がなかった。


「不気味だな……」

「そうですね、何があったんでしょうか?」


 誰かに言ったわけでもなかったが、近くに居たヴィジュが答えてくれた。


「さぁね……」


 失踪の謎が解けないままユーロンスに向かう事になった。


 朝食を済ませ、各自戦の準備が済むと、ヴィンザーが集合の合図を出した。


 全員がヴィンザーの周りに集まりヴィンザーの言葉を待った。


「この街の謎は解けんが、このままユーロンスに向かう!全員騎乗!」


 リンクル兵達が皆狼に騎乗した。


「それでは出発!」


 セトミシには誰も残していくことなく、ユーロンスに向かった。


 セトミシを出発して、ユーロンスまで3分の1程まで来たところで、野営することになった。


 そこで異変が起きた。ガイアコントロールで木材や地中・地表の石を1か所に集めようとしたところ、半径300m程の円形の場所に、人だけではなく、グレーダーボアや、マンイーターと言われる虎の様な魔物等の50体を越える死体が出てきたのだ。


「こいつらは……?」


 強い死臭が辺りを包む、自分はすかさず大気魔法で異臭の元となる成分を消した。


「死体ですね……」


 そりゃ誰が見ても分かるわ!とか内心思いながらリンクル兵のやり取りを聞いていた。リンクル兵は死体から何かわかる品を探そうとしていた所。


『離れた方がいい、そいつら全部ゾンビ』

「離れて!そいつら全部ゾンビ!」


 ヒスイが言った事を復唱し周囲に伝えると、死体が動き始めた。


「うぉ!」「うわぁ」


 あちらこちらから驚いた声が上がった。


「全員火魔法を奴らに浴びせよ!」


 ヴィンザーの冷静な一言にリンクル兵達は魔法詠唱をはじめ、ゾンビ達に浴びせて行った。


『ん~アンデットは光魔法の浄化の方が効果有るんだけどなぁ……』

『自分は使えないよね』

『そりゃ光魔法の適正がないとね~』


 やっぱりか。


『リンクル兵達の中に光適正持ってる子いる?』


 ヒスイは辺りのリンクル兵を見渡したのち。


『光適正の子はいないね、4属性5属性適正とかは何人かいるのに……』

『そっか』


 自分も神刀を抜きゾンビ達を斬りつけて行った。


 動くゾンビが居なくなったところで改めて、ゾンビだったものに触れ記憶をみてみた。


 自分が触れているゾンビは、セトミシに住んでいた商人のものだった。


 ある日の朝、大勢の教団兵がセトミシにやって来てユーロンスに避難するように通達している記憶があった。そして、その通達に従い、多くの者がユーロンスに向かうも、魔物に襲われ多くの市民が命を落とすシーンがあり、この商人もその際に命を落としたようだった。


 ゾンビ化した記憶が何処にもなかった。他の死体に触れて記憶を探ったが、最初の死体と同様に、通達を受け、ユーロンスへ避難する途中で魔物に襲われ命を落とした者達ばかりだった。


「御使い殿、先ほどから死体の様子を見ているが何かわかったか?」

「そうですね、何日前か不明ですが、多くの教団兵がセトミシを訪れ、ユーロンスへ避難するように市民に通達した事、そしてその避難の際に魔物に襲われ命を落とした者達と言ったところですかね……」


 自分は仏さん達に向かって手を合わせた。


「そうか……、だが何のためだ……、ユーロンスで何が起きている?」


 リースの情報では結界が張られて入れなくなっていると言っていたが、教団はユーロンスに移動させて何をしようとしているのだろうか?


 それともう1つ、すべての人と魔物のゾンビの体内に魔石が埋め込まれていた。という事は……。


『これって死霊術師の仕業か?』

『そうだね、ただこの量の操作は人が出来るのかな?死霊術って術者を中心にして死体を操るんだけど、正直この近くに術者が居ないんだよね……』

『どれくらいが効果範囲なの?』

『だいたい100mだよ』


 100mか、辺りを見渡してもリンクル族しかいなかった。


 リンクル兵達は死体を2か所に集めまとめて燃やしていた。


 なにか教団内で大きな事が起こり始めているそんな感じがしてならなかった。


 夜は交代制で野営地の見回りをしたが、結局朝まで何も起きなかった。


 翌朝、昨日に引き続きユーロンスに向かった。


 出発してどれだけ経っただろうか?


 首の後ろの方がチクチク痛み嫌な感じがした。これは良くない事が起きる前兆だ……、生前、手術中にこうなると、その直後によくない事が必ず起きた。


 周囲を見渡すも、何も起きていない。


『ヒスイ、森の中に異変は起きていない?』


 街道の左側は海、右側は草木が鬱蒼と生い茂っている森だった。


『なんもないね~』

『そっか』


 ヒスイの言葉を信じないわけではないが時々森の中を見て最近掘り起こしたりした形跡がないか確認したが、そんな形跡は見られなかった。


 昨晩みたいに地中からゾンビが襲ってくるとなれば、あらかじめゾンビ達を埋めているはずだし、掘り起こした形跡があると思ったがなかった。


 首の後ろの方がチクチク痛む感じが強くなってきたが、時々森の中を気にしながら進むが、形跡を見つけられなかった。


 するとどれだけ進んだだろうか?ヒスイから思いもよらぬ事を聞かされることになった。


『この先ずっと行ったところに悪魔憑きが居る……、なんか突然気配が現れたんだけど……、それにその人、ペンジェンの領主邸に居た死霊術師だ……』


 と、ヒスイが言った瞬間、何者かが自分の足を掴んだ。それは自分だけではなく、狼達の足をもつかんでいるようで、狼達から「足がつかまれた!」「くちゃい手が!」等の叫びがあった。


「敵襲!周囲警戒!」


 自分はまず大気魔法で臭いの成分を消した。出ないと狼達にこの悪臭はつらいはずだ、そして次は神刀を抜き自分の足首を掴んでいる手を切り落とし、周囲の狼達の足を掴んでいる手を斬っていった。


 今まで歩いてきた道や、前方、そして右の森の中に多くの人型、魔物型ゾンビが現れこちらに襲い掛かってきた。そして左側は崖でその下は海と来た、最悪の状況での奇襲だった。


 リンクル兵達も魔法を使い、ゾンビ達に攻撃するが相手の数が多すぎる、魔素切れを起こすリンクル族も出てきた。


「全員狼から降りろ!狼達にゾンビを襲わせるのだ!」


 ヴィンザーが大声で周囲に指示を出していた。


 今までリンクル兵を乗せていた狼たちは避けたりする動作をするだけだったが、リンクル族達が降りると、それぞれ思い思いに動き回り、ゾンビ達を攻撃していった。


 自分は神の手を使い、魔素切れを起こしたリンクル兵を回復させながら、街道に居るゾンビ達の足元を滑り台のように斜面状にし海へ滑り落としていった。


 狼達によってやられるゾンビ、海に滑り落ちていくゾンビが居るのに終わりが全く見えなかった。


 ヴィンザーを含むリンクル兵達の疲労が色濃くなってきたところで、ふと思った。このまま終わりの見えない戦いが続くと間違いなくこちらが崩れる、現状逃げ場がない、あるとしたら背後の崖を飛び降りて海にドボンする位か、狼達に乗ったうえで、行動速度上昇と縮地で安全圏まで一気に駆け抜ける方法だ。


「ヴィンザーさん!」

「どうした!」

「撤退しましょう!」


 ここで戦い続けるよりは、まともな方法だと思う。


「しかしこのままでは!」

「では、自分にまかせてください!」

「わかった!これより御使い殿に指揮権を預ける!皆御使い殿に従え!」


 ヴィンザーが大きな声で、自分に指揮権を預けると言った。


「全員狼に騎乗!これより撤退する!自分が道を切り開く!」


 自分も、大きな声で全員に伝えた。そうこの戦場にいる全員に、こうして、ユーロンスへの進軍から撤退戦に変わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る