第156話 誰も居ない街

 敵陣奇襲作戦を終えモリソンへ帰還すると。防衛組のリンクル兵達から歓声が上がり迎えられた。


 自分はこういった場は苦手なので、即隠密を使いその場を離れヴィンザーの元に向かった。


 ヴィンザーの居るはずの館に向かうとヴィンザーが自身が乗る狼の毛並みの手入れをしていた。


「どうも」


 声をかけるとヴィンザーは少し驚いたようにこちらに視線を移した。


「御使い殿か、夜明け前に使いがきた。何でも被害なく教団の兵を追い出せたと」


 追い出せたという表現でいいのだろうか?

 全滅と言っていい結果だった。伏兵を置いていた場所、そして陣内の敵兵は最終的に生きている者がおらず、少しやり過ぎた感があった。


「追い出せたというよりは、やり過ぎちゃったかもしれません」

「そうか、それは構わん、兵らも教団兵に散々な目にあわされてきた者ばかりだったからな、色々恨みがあったんだろうよ」


 伝令兵からどういう報告をうけたんだろう?話の内容的に敵兵の生存者無みたいな報告を受けたって印象なんだが。


「そうですか、今後どうしますか?」

「もうじき雨季が明ける、明けたらにユーロンスに向かおう」


 セトミシとユーロンスか、他の2都市は?


「他の2都市はどうするんですか?」

「そちらはユーロンス攻略後でも大丈夫だろう、草の報告だと大して戦力を持っていないようだからな」


 そう言う事ならいいが、自分の方でもその情報の裏付けが欲しいと思った。


『ヒスイ、リースにセトミシとユーロンス以外の兵数とか状況調査を依頼してくれない?』

『OK伝えておくよ』


 とりあえずは情報の裏付けは出来そうだった。


「いつくらいに出陣予定です?」

「1週間後だな」


 急な気もするが、この世界ではそれが普通なのか?

 

 自分も矢とか色々必要な物を集めておくか。


「わかりました。では1週間後またここにきます」

「あぁ、待っている」



◇◇◇◇◇◇


 その後いったん開拓村に戻り、麦の量産と、一部の子狼とその母狼を含むブラックウルフ達を開拓村のリンクル族と共に生活してもらうことにした。


 そして同じような規模の開拓村をモリソンの外に作り、残っているブラックウルフ防衛につけた。


 そしてリースからセトミシとユーロンス以外の2都市の兵数についての情報がもたらされた。その結果はヴィンザーが言っていた通り、最小限しか保有してなかった。


そして、1週間がたった。


◇◇◇◇◇◇


 ユーロンスに向かうのはヴィンザーを含む500の狼騎兵隊だった。


 まぁ、魔素切れでもしない限りヒットアンドウェイ戦法も使えるからこれだけいればいいのか?


 まぁ最悪自分が頑張ればなんとかなるかな?


 500の狼騎兵と共に、船を使い渡河した。


 教団兵の待ち伏せ等もなく問題なく対岸に到着しセトミシに向かって進軍をした。


 そして、2日後、狼達の早駆けのおかげで徒歩2週間かかるところを僅か2日でセトミシにたどり着いた。


 セトミシに入ると、入口から街に入って思った事、街を守る兵どころか、市民すら居なかった。リンクル兵達と一緒に街中を走り回り人を探すもやっぱりいなかった。どの建物にも誰も居なかった。



「これは……」


 ヴィンザーがセトミシの現状を知り言葉を失っていた。


『ヒスイ、この街に人っている?』

『ん~……、居ないね……』


 こういうのって、たしか空城の計とか言って街の中に誘い込んでの火計とかじゃなかったっけ?


『街の周囲には?』

『いないね~人どころか生き物がこの周辺に居ないよ』


 火計の心配がないのは良かったが、これは不気味すぎる。兵が居ないのは分かるが、市民まで居ないと言うのはおかしすぎる。


「ヴィンザーさん、この街どころか周辺に生き物は居ないみたいです」

「それはおかしい、この森はグレーダーボアの繁殖地だぞ」


 どういう事だろうか?


『ヒスイ、この周辺にグレーダーボアはいるの?』

『さっきも言ったけど、そんな生き物なんて居ないよ。そうだね、地図を出してくれる?』


 ヒスイに言われた通り地図を出し広げると、ヒスイが自分の肩からふわふわと地図の上に移動した。


『ここらへん……ん~ここら辺まで生物がいないね』


 ヒスイは一度セトミシからモリシンの半分くらいの半径でセトミシ中心の円を指で書いたが、ユーロンスからモリシンまでの直系の円に訂正した。


『え?こんなに広範囲に生き物が居ないの?』

『うん、おかしいよね、ここの南に未発見ダンジョンがあるのに……』


 スタンピードであふれ続けて魔物がたくさんいるはずのエリアに生き物が居ないこれはどういうことだ?


「御使い殿、地図を広げてどうした?」


 自分が地面に地図を広げ難しい顔をしていたのか、近くで見ていたヴィンザーが聞いてきた。


「いえ、ヒスイが言うには、このあたりに生き物が居ないって言うんですよ」


 自分は先ほどヒスイが指で書いた円をなぞった。


「ヒスイ?こんなに広範囲にか?何が起きている?」


 ヒスイの事を教えてなかったっけ?

 ヴィンザーをはじめ周囲に居たリンクル兵達が頭を悩ませた。


 自分はもう一度近くの家に入り様子を見てみると、食料を置いている棚にある果物などの食材は少し傷みはじめ、全体的にうっすらと埃を被っていた。1~2日居なかったってレベルじゃない、果物や傷み具合から、人が居なくなってから1~2週間位は経っているはずだ。


 本当に何があったんだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る