第154話 敵陣奇襲の策

 月の位置が大分高くなってきた頃、魔物狩で森の中に入った狼衆がみんな戻ってきた。


 休憩中に自分はある作戦の準備を済ませた。この準備が不要になるかどうかは分からないが……、敵陣に近づいたおかげで得た情報もある川の方に小さな船着き場が2つあり、どちらも100人位は乗れそうな船が停まっていた。


 リンクル族の子達も休憩は済んだだろう、作戦実行するか。


 通ってきた道にいったん戻りガイアコントロールを使って全員が集まれるような広場を作った。


「全員集合!」


 街道の端等で休憩していたリンクル族や狼衆が周囲に集まってきた。


 全員が集合したのを確認して、今回の作戦を伝えることにした。


「全員居るね、これから敵陣を襲います。1つめ作戦は火魔法を得意とする10人以外は先ほどの街道の左右にある木々の影に隠れてください、自分を含めた10人は敵陣をに火魔法を使って襲います。相手を討つことは考えずテントや兵糧に火が付けばいいです。そのうち自分たちに気づいた兵達が出てくるからうまい具合に逃げて仲間が隠れている所まで誘導、十分に誘導し終えたら反転して出てきた兵達を皆で叩く!これが今回のメイン策かな」


 少数で多勢に勝つには取れる手段が限られてくる、幸いここは街道の両脇が森という大軍を運用するには不向きな地形だ、まずは敵陣を襲い混乱を誘い、誘い出てきた兵達を伏兵で討伐する、自分が憧れ、出身地である鹿児島の大名が得意とした釣り野伏せ作戦だ。


「御使い様質問です!敵陣に居る兵が皆追ってくるとは限らないのではないでしょうか?」

「3000の兵全部が誘いに乗ってくることはないでしょうね、良くて100とか200でしょうね」

「それだけで勝てるのでしょうか?」


 もちろんそれだけで勝てると思っていない、そこで休憩中に準備したやつだ、リンクル騎兵の中にいるシャドーウルフの毛を使ってダミーのシャドーウルフ死体を作り奴らの陣の目立つところに放置してきたのだ。


 シャドーウルフが厄災と言われる理由、“シャドーウルフは仲間が殺されると報復に来る“この説に乗っかる為だ、今頃敵陣の中ではシャドーウルフに襲われるかもしれないとか、誰がシャドーウルフを殺したのか等の戦以外の事に気を取られてもらう為だ、冷静な判断が出来なくなるには十分な策だろう。


 そしてその策は上手くいっているらしく、ヒスイから敵陣内で責任のなすりつけや、シャドーウルフの襲撃に神経を使っているものが多数いると聞いた。


「もちろんそれだけで勝てないでしょう、そして次の手です。誘いだした兵達が陣を離れた後、合図を送った後新しく仲間になったブラックウルフ達に影渡りを使い敵陣を襲ってもらいます」

「ブラックウルフですか?」

「えぇ、子どもや母狼を除いて21匹で襲ってもらいます。もちろんこれも敵全員を討つことを考えなくていいです。敵陣のさらなる混乱を誘う為の策です」

「敵陣の中は混乱するでしょうが……」

「まぁまだ次があります。最初の誘導してみんなで襲う際に、逃げる者達が居ると思います。直ぐに追わず戦っている敵兵を片付けてから全員で敵陣に向かいます。その際敵陣の周りの森に火を放ってください、陣に逃げ込む兵と、狼に襲われ対応中の人、そして森の火事合わさったらどうなるかな?」

「敵陣横の森で火災が起き、逃げ込む兵に、狼襲撃に対応している兵……、ひどい事になりそうですね」


 統率の取れていない大混乱中の兵達を後は各個撃破すればいいだけだ。


「そう、そして今は夜、彼等の陣の横には大きな川が流れているとくれば……」

「川の方に逃げ落ちる者達が……」


 ここで彼らが背水の陣という状態が活きてくる。


「そうですね、ここまでくれば、だいぶ敵兵は削れると思いますよ。」

「なんだか勝てそうな気がしてきました!」

「ちなみにですが、全員で敵陣を襲う際合図をするのでブラックウルフ達はモリソン側の街道までいったん引いて逃げてきた者達の対応をしてくださいね」

「「「「「ウォン」」」」」


 いくつもの手を考えるのは本当に救命医時代から変わらないな、最悪の状態にならないように願いつつ、策が上手くはまってくれるといいな。

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