第132話 ペンジェンの街 トラブルと謝罪

 スタンとヴィッツと自分のやり取りを見ていたリンクル族達が建物の外に出てきた。


「そうか、あんた御使い様だったのか、これであんたの謎が解けたよ」

「だな、ケガを治したり奴隷紋を消したりと普通の人じゃできないからな」


 その後も色々称えられていると、なんとなく照れ臭くなってきた。


「皆さんは狼衆と共にエスティアへ、狼衆エスティアへ届けたらすぐに戻ってきて次の人を!」


 それだけ伝えると、周囲に居た狼衆は皆揃って“ウォン”とひと吠えした。ありゃ?言語理解与えてあったけど、“了解”とかではなく普通に吠えただけだったのが少し気になった。


「それじゃあ皆さんも狼衆に捕まって、どんどんエスティアへ!」

「あぁ、兄ちゃんありがとうな!」


 その後も色々なお礼の言葉を貰いながら、建物中にもどり、リンクル族達の身体チェックと治療に努めた。


 それからが大変だった。どれだけやっても終わりが見えない身体チェックと治療が続いた。


 どれだけ経っただろうか、まだまだ未対応のリンクル族達が居る中で突如1匹の子狼が建物に駆け込んできた。


「兄ちゃん大変だ!お頭が勝てない女がいる!」


 お頭?半蔵の事かな?


「半蔵が勝てない相手?」

「そうだ!お頭以外にも複数で襲い掛かっても勝てないんだ!」


 そんな奴がこの街に居る?行動速度上昇に縮地を上限で与えているんだぞ、なぜ勝てないやつがいる?


 可能性があるとしたら、リースだ!

 

 おおかたリースが街中に入り込んできた狼追い払う為に動いたことがきっかけだろうと容易に想像ができた。


「わかった、その女性は味方だ!名前はリース急ぎ戦いをやめさせて!」

「了解だ!」


 それだけ言うと、子狼は駆けだしていった。


『ヒスイ!』

『もう伝えた!』


 さすがヒスイ、話途中で戦うのを止めるように伝えてくれていた。


『そういえば、狼たちの話してなかったね、双方の怪我は?』

『半蔵君たち狼衆は足や顎を斬られていたみたいよ、リースも何度か咬まれたり引っ掻かれたりしたみたいね』


 これは後で怒られるやつだ……、影渡りのスキル上げるからで許してもらえるかな?


 忍者みたいなことをしているリースにはピッタリのスキルだと思うし……、これで許してほしいなと思っていた。


 治療を再開ししばらくすると、案の定リースと半蔵たちが乗り込んできた。


「ちょっと直人!」「兄ちゃん!」


 1人と複数匹の怒声が飛んできた。リースが来ていた町娘風の服があちらこちら破れて一部きわどい破れ方をしていたが、リースはあまり気にしていないようだった。


「はい、すいません……、それぞれに話をしてなかったことだよね?」

「そうよ!」「そうだよ!」


 そのほかの狼衆もご不満の様子が見られてきた。


「皆には影渡りのスキルをあげるから許してくれないかな?」

「影渡り?」


 狼衆は皆なにそれ?と言った様子だったが、リースは違った。


「それってシャドーウルフのスキルだよね」

「そうだよ、影に潜り移動できるスキル」

「この子達が縮地使ったり、あんたと同じ行動速度上昇を持っているのはおかしいと思ったけどあんたの仕業か!」


 そういや、リースに神の手を使ってスキル譲渡した事が無かったかな?


「そうです、喋れるのも全部自分がやりました……」

「でもそんなスキル持ってないよね?触れただけでケガを治したりしていたのは何度もみていたけど、って……、直人、あんた今名前もないしスキル何も持ってないじゃん」


 そうか、仮面を被って鑑定偽装をしていた。久々に鑑定偽装を解いた。


「あ~ごめんごめん、自分を鑑定してみて」


 リースは、自分をしばらくじーっと見ていた。自分も久々にステータスと念じてみた。



―――――――――――――――――――――――――――――――


秋津 直人  人族  18歳


異界の神の加護

創造神ネアの加護


スキル

神の手・絶対健康・鑑定妨害・アイテムボックス・言語理解・限界突破・

成長速度上昇・サバイバル・鍛冶・木工・革細工・彫金・錬金・調理・心眼・

縮地・刀術・体術・弓術・槍術・見切り・二刀流・隠密・夜目・行動速度上昇


適正武器

全種


適正属性

熱、水分、大気、土




 久々に自分のステータスを見て、持っていたのを忘れていたスキルがちらほらあった。


「神の手って……、もしかしてスキルを与えたり怪我を治したりしてたのって」

「そうだね」

「へぇ~こんなことしなくても職人として生きて行けそうなのに」


 こんな事というのは恐らく戦争に首を突っ込んでいる事だろうなと理解した。

 持っているスキルを見直すと、確かに職人としてもやっていけるだけのスキルはもっている。生前は多趣味だったからなぁと久々におもいだした。


「まぁそうなんだけどね、今よりも色々な意味で強くなりたいから」

「そっか、影渡りもだけど、良かったら鑑定偽装も貰えるかな?」

「あ~それ位で良いなら、手を出してくれる?」

「これでいい?」


 諜報活動をする中で確かに鑑定偽装が必要かなと思いつつ、リースに影渡りと、鑑定偽装と、おまけで行動速度上昇を与えた。


「付けたよ、おまけつき」


 自分自身のステータスを確認したのだろう、少し間を置いてから返事があった。


「お~ありがとう、今度からちゃんと言ってね!これで許してあげる!」

「どうも……、半蔵たちは影渡りとなににしようか、成長速度上昇でいいかな」

「よくわからんけど、ありがとう」


 半蔵たちは、影渡りを使いこなしてくれるのかな?と思ったがどうにかなるだろう。


「ところでリース何かわかったかな?」

「そうだね、スラム街と領主邸、そしてここにしかリンクル族は居ないみたいよ」


 聞いていた以上に少なくないか?


「ここには1500と聞いてるけど他の場所は?」

「スラム街に100人程、領主邸に3人かな、領主邸の子達は奴隷ではなく自らすすんでらしいけど……」

「なにかあると……」

「そうね」

「他に1000以上居るとされるリンクル族の行方は?」

「1月前にユーロンス行きの船に乗せられたんだってさ」


 ユーロンス?


「ってどこ?」

「ヴォーネス共和国最東端の港町、クラリス教団の本部街だね」

「何のために?」

「さぁ?そこまでは……」


 とりあえず、今いる場所、スラム街、領主邸のリンクル族を解放すればペンジェンでのお仕事は終わりだ、ユーロンスでリンクル族を集めて何をしようとしているんだ?そんなことを思っていると。


「なぁ兄ちゃん、おいらたちを人にしてくれないか?」


 半蔵がとんでもない事を願い出た。

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