第131話 ペンジェンの街 シャドーウルフ

 体を洗う場所の準備が出来たので、改めてリンクル族達が囚われている部屋にもどった。


「すいませんお待たせしました」

「地鳴りがしたりとしていたが何かあったのかい?」

「いえ皆さんの身体を洗う場所を作っていました」

「ぇ?」


 不思議な顔をする者達がたくさんいたが今はスルーだ。


「治療が終わった人は下に行って海で体を洗ってください、来ている服は捨てて脱衣場に置いてある服に着替えてください」

「治療って、さっきあんたが私にしてたことかい?」

「そうです、なのであなたは先にしたに行って身体を洗ってきていいですよ。廊下を出たら下に下る階段があるので、その先には二つの扉があります。一応男性用女性用とかいてあるので、自分の性別の方に入って下さい、一つ目の部屋には自分のサイズの服ですが、置いてあるので、体を洗ったらそれを着てください」

「ちょっと行ってきていいかねぇ?」


 最初に対応した女性が聞いてきた。


「どうぞ」

「それじゃあ……」


 女性は恐る恐ると言った様子で廊下に出ようとしていて、何故そこで恐る恐ると思った。


 恐る恐る足のつま先だけ廊下に出し手何もない事を確認すると、その後廊下にぴょんと飛ぶように出た。


「なにもない!自由になれたんだね!」


 “わ~~”等の歓声が部屋のあちらこちらから聞こえてきた。

 奴隷の状態で廊下に出ようとすると何が起こるか想像が出来た。何か激痛を伴う何かが起こったのだろう、今は部屋に居る子達の対応をしていこう。


「にいさんありがとうね!」

「いえ、これから皆さんを治療していくので終わった人は地下へ」


 部屋に居るリンクル族達皆に聞こえるように伝えた。


 身体チェックと治療をどれだけしただろうか、最初の頃に治療した子達が、誘導などをしてくれていた。リンクル族達の好みの服は、女性は半袖Tシャツをワンピースのように着こなし、男性はパーカー率が高かった。


 なぜそうなっているのかが気になりつつ、治療を続けていると。身体を洗い終わり服を着たリンクル族が廊下に溜まってきた。


 この先の事しないと駄目だなと思いつつ、一旦治療の手を止めて、服を着たリンクル族達引き連れて、建物外にでた。


 自分の姿を見ると狼衆が周りに集まってきた。


 それを見たリンクル族たちが“ヒィ”“キャ”等悲鳴をあげ、ほとんどの者が建物の中に引き返してしまった。


 外に残ったリンクル族は恐る恐ると行った感じで、狼衆の元に寄っていったが、建物の中に引き返したリンクル族達に対して。


「大丈夫ですよ、彼等は味方です。あなた方をエスティアに運ぶ役目を担っています」

「ほんとうかい?」


 建物の中からこちらを覗きながら聞いてくるリンクル族達、それとは別に、外に残り恐る恐る狼衆に近づいていたリンクル族は、自分の言葉を聞くなり、狼を撫でていた。


 この差は何だ……?


「良い毛並みの子だな、兄さんこの子の名前は何という?」


 狼を撫でていた声の質的に老人かな?とか思いつつ彼の問いに答えた。


「名前は決めていませんよ、名前を付けてあげても良いですよ」

「そうか、彼はブラックウルフか?」

『シャドーウルフだけどね~』

『ブラックウルフとは何が違うの?』

『ブラックウルフは目の中央が少し赤みがかった茶色なんだよ、あの子は黒でしょ?それ位の違いしかないかな、シャドーウルフは厄災クラスの魔物なんだよ~なぜなら影に潜れちゃいます!』


 ぇ!?影に潜れるって!


『それって種族スキルかなんか?』

『ん~影渡りってスキルだけど、別に種族スキルでもないよ』


 ということは、


『影の中に居るときはどんな状態なの?外の事は分かるの?』

『もちろん、例えば人の影に潜るでしょ、その影から見える部分は見えるし、聞こえるよ』

『なるほど』


 隠密に影渡りときたら、忍者というイメージが!というか、影潜りじゃなく影渡り?


『ねぇヒスイ、影潜りじゃなくて影渡りなの?』

『うん、影と影がつながれば別の影に移動できるよ』


 それって夜は……


『明かりの無い夜はもしかして移動自由?』

『もちろん!それが厄災級と言われる要因だね、狼種の中で一番温厚な種族なんだけど、仲間を殺されたりすると報復に来るよ、その際に夜いきなり影から攻撃されるの!』


 ヒスイが少し興奮気味に教えてくれたが、影から攻撃とか恐ろしいな、心眼とか察知できるのだろうか?少し気になった。


 自分も一緒にシャドーウルフを撫でながら、彼にスキル絶対健康、アイテムボックス、言語理解、縮地、行動速度上昇のスキルを付けた。


「その子はブラックウルフじゃなくてシャドーウルフだそうですよ」

「なんと、影の暗殺者と言われている魔物か、そんな魔物を従えているのか」


 リンクル族の男性は眉間に皺を寄せながら言った。

 影の暗殺者と呼ばれているのかと思っていると。


「影の暗殺者とは心外だ、我々は争いを好まぬ」


 今まで一言も発していなかったシャドーウルフが応えた。

 クールな声だなぁとか思った。


「ん!?今喋ったのか?」


 リンクル族の男は驚いたようにシャドーウルフの方に視線を移した。


「そこの主のおかげでしゃべれるぞ、どうしたお主私に名前をくれるんじゃないのか?」


 あれ?スキルを与える前の事だけど話の流れで名前をくれると思ったのかな?少し違和感を感じた。


「まずはワシの名はスタンじゃ、おぬしの名は、ヴィッツでどうだろうか、最期まで勇敢にたたかった先代の名前だ」


 先代の?すると、ヴィンザーの父名前だろうか?


「よいだろう、主よ今後この者について行っていいか?」

「いいよ、先も言ったようにリンクル族と共に生きることが条件だからね、今後はスタンを主としてね」

「承知した」

「その前に、リンクル族救出は手伝ってくれると嬉しいかな……」

「無論だ」

「スタンさん、彼をよろしくお願いします」

「あぁ、神からの贈り物として一生大事にするよ」


 ん?神からの?


「なぜ神からの?」

「人語を話せるシャドーウルフは聞いたことがない、そなたのおかげでしゃべれるといった。スキルか何かだろう?スキルを与えることが出来るのは創造神ネア様だけだ、天神エルメダさまも、地神ソラリスさまも成せないと聞く、ならばそなたは天神エルメダ様や地神ソラリス様をしのぐ存在なのだろう?」

『エルメダ様もソラリス様もスキルを与えられないのは事実だね』


 ヒスイの言葉にそうなのかと思いながら、スタンの言葉にはいやいやいや、そんな大層な存在じゃないと思った。


 一応エスティアにではネアの使いという事にはなっているな、ここで否定したらエスティアでトラブルに発展したりしないよね?少し不安になったが、否定せずクラリス教団戦うときはもう、御使いで通そうと思った。


「そんな大層な存在ではありませんが、ネア様の使いだと思っていただければ……」

「御使い様か、創造神がついにクラリス教団を見放したか……」


 あ~変な事になりませんようにと願った。

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