第119話 エスティアの街 教会と御神体

 領主邸を後にする頃には既に夜も更けていた。


 狐のお面を被り直し、配給作業を手伝おうと思い、教会跡地に戻ると思っていた以上に配給手伝いをしている人が増えていた。


「これは?」


 リコリスを見つけ尋ねた。


「御使い様おかえりなさい、地区毎で呼んで食べてもらい、次の地区とやっていたら、手伝ってくれる人が増えまして」


 トラブルになってないならいいか、幸い城壁の外に居る兵士達には気づかれてないみたいだった。


「食材とかは大丈夫ですか?」

「はい、まだ、たくさんあります」


 なら大丈夫かな、教会の復旧作業でもしてよう。


「何かあったら呼んでください」

「わかりました」


 配給作業を見守りつつ、教会の瓦礫の撤去と立て直しに取り掛かった。


 使えない瓦礫と使える石材や木材を分け、使えない瓦礫をアイテムボックスへ放り込み、魔素を流しながら使える石材と木材を組んで建て直していると、エイダが戻ってきた。


「主戻ったの~」


 そう言って、作業中の自分の腕に止まった。


「エイダおかえり、どうだった?」

「大五郎達は、みんな城内に入ったの、姫様は今頃セリエと一緒にトライベッカに向かってるの~」


 思っていた以上に行動が早いな、何かあったのだろうか?


「拠点の方は何かあった?」

「知らない人が来てたの~大五郎と取っ組み合いの訓練してたの~」


 イヴァン将軍が来たのかな?


「それ以外は?」

「特にないの~」


 エイダの報告にはなにか異変らしい異変はないようだが、直感で何か悟ったか?


「姫様は何か言っていた?」

「うんなの~、明日の昼過ぎにも攻めてくるかもって言ってたの~」


 明後日ではなく、明日の昼過ぎか、明日の朝、シモンズの死体を使って明朝出陣命令出すつもりだったが、もしかして即出陣するのだろうか?


 まぁ、早めに来て問題ないように手を打っているようだし、なるようになるだろう、こちらの予定は変更しないで大丈夫そうだった。


「了解、お使いありがとう、休んでていいよ」

「はいなの~」


 とだけ言うとどこかに消えた。


 多分自分のどこかに隠れたのだろうと思った。


 配給も問題なく進み全家庭に配り終えたようで、リコリスがこっちにやってきた。


「ありがとうございました!皆さん満足してました」

「それならよかった、ここに来れない人達にも対応を?」

「はい、街の人たちの状況は把握しているので、持って行ったりと対応しました」

「そうですか、それならよかった、明日も同じ時間にやりましょう」

「ありがとうございます」


 街の人達の飢えに関しては、とりあえずは何とかなったが、この先対策しなければいつまでたっても解決しないだろうが、今はクラリス教団兵の対策が先だ、街の外さえ確保できれば、拠点づくりの際にやった要領で農地を確保できるし、作物ならドライアド達で何とか出来る。


「今日は帰ってゆっくりしてください」

「はい、ありがとうございました」


 リコリス達が教会跡を去っていった。


 改めて一人になり休もうとも思ったが、領主邸で休む時間がもったいない、少しでも教会立て直しをしようと思った。


 辺りはすでに夜になりリコリス達が居た頃はかがり火を使っていたが、去る際に消して行ってしまった。


 このまま作業するには暗すぎる状況だった。


『ヒスイ、お願いがあるんだけどいいかな?』

『うん?』

『暗いから、何体かドライアド出してくれない?』

『いいよ~近くに居る子達を呼び寄せようか~』

『お願い』


 ヒスイが指笛を吹くような仕草を見せたが、音は聞こえなかった。すると城壁の奥からワラワラと緑色の光が集まってきた。


 ちょっと多すぎる気がするけど、まぁいいか、地面に手を付け、土魔法を使い、地中を操作し、地中にある粘土を取り出した。


 この時思った。


 これが出来るならバラバラの石材を1枚の岩に出来るんじゃないだろうかと、試しに近くにある石で試したが、さすがにできなかった。


 仕方ない、素直に石材と石材の間には粘土を塗りつなげていった。


 壁部分は何となった。

 次は屋根だ、神刀を使い、木材加工し屋根を作っていった。


 これで雨風しのげる小さな建物が出来た。


『へぇ、不壊効果がついてる。二度と壊されることがなくなったね~』

『老朽化しないだけでもマシでしょ』

『そうだね~』


 建て替えすらできないが気にしないようにした。


 最後に御神体だ、木を1本だし、水分魔法で、水分をすべて奪い乾燥させた。


 そして、転生時に会ったネアをイメージし、両手を大きく広げ教会に来た信者達を抱擁するようなポーズにしようと決め、不壊と不動のイメージをしようとしたところ、不動って彫った位置から動かないとかないよね?と思った。


『ヒスイ、不動って付与効果ある?』

『もちろん』

『作成している場所から動かせなくなるとかならない?』

『大丈夫だよ、完成したら動かせなくなるけど、設置して完成とすれば大丈夫だよ』


 なるほど、それなら大丈夫だな、不壊と不動、見た人に少しでも安らぎと健康の効果が表れるようにイメージし、創造神の像を彫った。


 どれだけ時間が流れただろうか?

 東の空には朝日が昇り始めていた。

 

 出来た!会心の出来だ!

 2mほどの創造神ネアの像だ、慈愛に満ちた表情、癒しの雰囲気もあり自分なりの満足できるラインの出来だ!


 教会の奥に設置して完成させた。


『いい出来だね~本当にネア様がここに居るような感じだね~』

『効果は?』

『不壊、不動、見た信者へ安らぎと健康を与える効果があるね~、というか……、これだけの像、この世界のどこにもないよ……、この小さな港町の教会に有っていいのかな……?』

『さぁ、出来ちゃったものは仕方ないじゃん?』

『そうだね~仕方ないね~』


 最後まで付き合ってもらったドライアド達に何かお礼をしなければ、


『ヒスイ、付き合ってくれた子達に何かお礼できないかな?』

『君の魔素をあげたらいいんじゃない?』

『どうすればいい?』

『ん~ちょっと手のひらを上にして前にだしてくれる?』


 言われた通り、両手の手のひらを上にし前に出すと、周囲に居た緑の光の玉が一斉に、自分の手のひらに止まり、しばらくすると城壁の向こうへと帰っていった。


 この場に残っているドライアドはヒスイのみになった。


『これでいいのかな?』

『うんうん、あの子達も喜んでいたよ~、ただ近くで作業見守っていただけで魔素を分けてもらえたってね~』

『そか、それならよかった』

『また、使ってあげてよ~』

『了解』


 光源代わりの精霊ね、本人たちがそれでいいというなら良いけど。


 健康面もこの像を見て治ってくれればいいが、兵士たちが出陣していなくなったら、街の人すべての健康チェックでもするとしよう。


 次にやるべきは、次はシモンズの死体を使って出陣命令だ。

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