第118話 エスティアの街 領主と接触

 領主と接触するため、配給用意をしているリコリスにその旨を伝えた。


「ちょっと領主邸に行ってきます」

「ぇ?今から行っても大丈夫なんですか?」

「裏口からなら、という約束を取り付けています」

「そうでしたか、わかりました。お気をつけて」


 急ぎ教会を後にし坂道を下って領主邸に向かった。


 向かう途中で、領主邸の場所を知らない事に気づいた。


『ヒスイ、場所ってどこ?』

『この道真っすぐ行けば、港の北側の大きな館があるからそこだよ、それからナンバーズはもうこの街には居ないかな』

『了解、ありがとう』


 ヒスイに言われた通り、道を真っすぐ行くと、右側見える港の隅に倉庫らしき建物が見えた。


『もしかしてあそこに兵士達が居る感じかな?』

『そうだね~』


 ならば、手を打っておこう、行動速度上昇と隠密を使い建物に接近すると、見張り見回りで4人ほど外に居たが他は中に居るようだった。


 建物内に麻酔成分を充実させるイメージをした。

 中の状況を心眼で人型のラインを確認しながらイメージを続けると、倉庫内に居ると思われる人達が全員横になったのが確認できた。


『ヒスイ、中の人達全員寝たかな?』

『ん~……、大丈夫だね寝たみたい』


 中はOK、次は外にいると思しき4人の見張り見回りをしている兵士達だ、隠密を最大限意識し、1人ずつ眠らせて行った。


 これで中に居る兵が配給作業の邪魔をすることはないだろう、領主邸に向かうか、改めて道に戻り、領主邸を目指した。


 教会とは反対側の丘に大きな屋敷があった。

 

 門をくぐらずに、行動速度上昇と縮地を使い、塀を飛び越え屋敷の裏側に回ると、頭上に緑色の1つの光の玉を浮かせた人族のメイドがいた。


「久しぶりだね、元気してた?」


 リースと思しきメイドが自分の姿を確認するなり声をかけてきた。

 他のドライアドはどこかで見張り中か?


「あぁ、元気してたよ、というか、見事な変装だね、ドライアドを浮かせてなかったらリースだと気づかなかった」

「そりゃ変装は得意だからね、そう簡単には見破られない位自信はあるさ」

「そっか、潜入ありがとうね」

「いえいえ、刀とジャマダハルのお礼だから気にしないで、領主様がお待ちだよ、ついてきて」


 リースの後について行くと2階にある扉の前まで来ると、リースは扉をノックした。


「先ほどお話した使徒様をお連れしました」


 中から入れ戸いう言葉が聞こえると、リースが扉を開けた。


 中には1人の壮年男性と、髭を生やした少年がいた。

 少年の方は左足の膝下がなく義足替わりに木の棒を使用していた。


「ウォルス様こちら……」


 領主に紹介しようとしたところで自分をどのように紹介すべきかで悩んでいるようだった。


 つけっぱなしだった仮面を外し、自分で自己紹介することにした。


「ヴェンダル王国第6騎士団所属のナットです。よろしくおねがいします」

「私はウォルス、この街の長をしている。右の彼は友人のヴィンザーだ」

『ヴィンザーはリコリスのお父さんだね~』


 自分は王族とは縁があるのか?

 少年の顔立ちに髭か、初めて見たが違和感があった。


「よろしく頼む」


 ヴィンザーは寡黙な人なのかな?


「リースから聞いたが、私に何か用か?」


 あら?リースは本名を名乗っているのか、潜入中なら偽名だよなと思った。


「クラリスの兵達を追い出すのに協力してほしいのですが」

「ほぉ、何か手立てがあるのかね?」


 直ぐに反応を示したのは、ヴィンザーの方だった。


「昨日、自分らの拠点攻めで1万の兵が攻めてきたように、もう一度攻めてほしいんです。そして休戦協定をヴォーネス側が破棄したという建前が欲しいんです」

「なるほど、そうすれば大義名分の元、ヴェンダル王国側がエスティアに進軍出来るわけだな」

「そうですね」

「問題は兵をどうやって進めるかだな」

「そうです」

「シモンズかベルガムをその気にさせればいいが、先日の敗戦で慎重になっているからな」


 シモンズとベルガムか……、どちらも既に……、


「すいません、その2人なら……」


 2人の死体を出し、2人に見せた。

 ウォルスもヴィンザーも2人の死体をじっくりと調べていた。


「シモンズとベルガムか……、良く殺せたな、ベルガムはテンプル騎士団の中でも屈指の腕前だったはずだが、さすが使徒と言ったところか?」


 縮地で背後から強襲しただけだが、しかし、この2人が居ないと攻められないとか最悪だな、以前侯爵にもらった紋章の様なもので何とかならないかなと思った。


「2人が居ないと駄目ですかね……?」

「そうだな、シモンズが生きていれば、どうとでもなるんだが……」


 魂を戻すか?いや無いな……、記憶をいじってスパイ活動をさせるのもいいが、敵対者を蘇生させる気にはなれない、どうするかな?


 悩んでいると、ヒスイが声をかけてきた。


『何を悩んでるか知らないけど、シモンズを生きているように見せればいいじゃん』

『生き返らせる気にはなれないんだよね』

『別に生き返らせなくてもいいんじゃない?体に触れて操ればいいじゃん』

『なにそれ、死霊術的なやつ?』

『ちがうよ、神の手、生き物の身体だったら何でもできるからね、操れるはずだよ』


 とりあえず、シモンズの手を握り、体を起こすイメージをすると……


「うぉ!」「ムッ!」


 ウォルスもヴィンザーも驚いていた。

 というより、2人より自分が一番驚き思わず手放してしまった。


 手放したシモンズの死体はそのまま倒れた。


「心臓は確かに止まっているが……、もしや使徒殿の仕業か?」

「そうらしいです、自分もビックリしました」

「死体を操れるのか、それなら何とかなりそうだな……」

「操れるのは触れてる間だけみたいですがね……」

「それでもだ、ならば坂を下る途中、右側に青い屋根の1軒の屋敷がある、そこに将兵が詰めているから、進軍の命令を飛ばせばいいだろう」

「今から行った方がいいですかね?」

「いや、明朝でよかろう」

「わかりました」


 ここで思った。

 シモンズの死体を使わずとも将の記憶をいじればいいのでは?


「1つ質問なのですが、将って何人くらいいるんですか?」

「大隊を率いる能力のある将は30人はいるな」


 シモンズの死体を操って命令を下した方が楽か?


「使徒殿1つ聞くが、ヴェンダルの騎士団をここにひきいれたらどうするのだ?」


 ヴェンダルの第6騎士団としてのお仕事ならこれでお仕事が終わりな気もするが、リコリスとの約束がな、


「リコリスさんにこの国からクラリス教団を追い出し救ってほしいと願われたんですよね」

「娘と会ったのか」

「えぇ、今は教会跡地前で炊き出しをしていると思いますよ」

「そうか」


 ありゃ?

 それだけなのかな?


「その先の事は第6騎士団が合流してからでいいですかね?」

「構わない」


 まずはクラリス教団の兵士達をどうにかしないと話が進まないな、と思っているとずっと横で聞いていたヴォルスが質問してきた。


「話がひと段落着いたようだね、ところで使徒殿は今夜どこかに泊る予定があるのかな?」


 教会がもう少しまともだったら教会でと思ったが、もう少し片付けしないと寝れる状態じゃないなと思った。


「無いですね」

「ならば我が家に泊まっていけばよい」


 ありがたい申し出だった。お言葉に甘える事にした。


「ありがとうございます。炊き出しの手伝いが終わり次第こっちに戻ってきます」

「あぁ、わかった、リース彼を送ってあげなさい」

「かしこまりました」


 ヴォルスとヴィンザーに見送られ部屋を後にし、リースと共に裏口に回った。


「将の居る家に楓が張ってるから、行く前に詳しい状況を話すよ」

「楓?ドライアドの名前?」

「うん、忍、楓、桃って名前を付けたの」


 1文字漢字か、忍者っぽいリースににあったネーミングセンスだなと思った。


「なんか忍者っぽくて良い名前だね」

「忍者?私が育った里で使う名前が元なんだよ」


 里か、忍びの里とかか?からくり屋敷とかあるのかな?

 リースの故郷の里に行ってみたくなった。



「そうなんだ」

「うん」


 雑談をしていると裏口に着いた。


「んじゃ明日の朝手伝いが必要なら呼んでね」

「あぁ、すまない、ありがとう」

「んじゃ気を付けて」


 リースに見送られ、領主邸を後にした。

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