第120話 エスティアの街 偽りの出兵命令

 像を作っていたら朝になっていたが、睡眠時間がなくても絶対健康のおかげで眠気がこなかった。


 将の集まっている屋敷へ向かった。


 屋敷に向かうと、変装していないリースの姿があった。


「おはよ~」

「おはよ、どうしたの?」

「いや~幻影魔法で君の手伝いをしようかとね~」


 手伝いが必要なら呼んでと言われていたが、呼ぶまでもなく来てくれていた。


「なるほど、姿を見えなくしてくれる感じかな?」

「そうそう、まだ隠密極めてないんでしょ?」


 あんまり使う機会がないからな……


「らしいね、スキルレベルについても知ってるんだ?」

「そりゃね、楓たちが教えてくれたからね、隠密なら常に使っておけばいいよ」


 ドライアド達の“真実を見る眼”で教えてもらったか?


「なるほど、ありがとう」


 隠密常時使用か、考えた事はあったが、実行してなかったな、隠密は常時使用にしておいた。


「それじゃあ、魔法を使うよ、屋敷の敷地内に居る間は君の姿は見えず気配を感じる事ができなくなるよ」

「了解」


 すると、リースは目を閉じ何かボソボソと呪文のようなものを唱えはじめ、最後にパン!と両手を合わせた。


「これで大丈夫、効果は半日程かな?」


 半日も認識できなくなるなら十分だな、むしろ半日も効果があるのが凄いと思った。


「ありがとう」

「いえいえ、それじゃあ私は仕事に行くね」

「ほい、頑張ってな」


 リースは領主邸に向かっていった。


 念のため隠密を使用し屋敷に潜入した。


 潜入したはいいが、屋敷内の構造が不明な事に気づいた。


 シモンズの死体を出し記憶を探り屋敷の構造を把握し、いつもどこに将を集めているかなどもついでに探った。


 シモンズの記憶を頼りに、シモンズの死体を操りながら将兵の集まる部屋に向かった。


 部屋に入ると6人の男たちが居た。


「シモンズ様!どうしてこのような所に?」


 無言はまずいな、返さないと駄目な奴だな。


「全員集めろ、これから先日の詳細不明の建物とトライベッカ攻めを行う」


 シモンズの記憶の中では、自分が作った建物は詳細不明の建物扱いだった。

 それを聞いた男が胸に右手を当てて答えた。


「ッハ!っただちに!」


 それだけ言うと部屋を出て行った。

 胸に右手を当てる行為はクラリス教団の敬礼の様なものだった。


 シモンズを座らせて待っていると、多くの男達が部屋に入ってきた。


「シモンズ様!現在屋敷内に居る者すべて集まりました!」

「そうか、ここにいない者には、後で伝えとけ!」

「ッハ!」

「それでは皆の者、これからトライベッカと詳細不明の建物へ進軍せよ、トライベッカへは3隻で迎え」


 喋り方やイントネーションはシモンズの記憶を忠実に再現しているつもりだが、軍の分け方等はベルガムがやっていたらしく、シモンズの記憶の中にはベルガムが言っていた事しかなかった。


「ッハ!シモンズ様、軍をどのように分けましょうか?」


 どうするか、どの部隊が存在していて、どの部隊が先日の拠点攻めで壊滅しているのかが分からなかった。


「現在の兵数は?」

「陸軍7400、水軍1300です!」


 はて?

 1万くらいいるんじゃなかったのか?

 門前騒動の時に300位は殺してしまったかもしれないが……


「思っていた以上に少ないな」

「兵糧の問題で、ベルガム様の命より一部の水軍部隊が上流のエノオンに移動しました!」


 すでに割いている状態なのか、兵糧問題ね今後のヴォーネス攻めに何か役立つかな?


「そうか、ならば水軍はそのままトライベッカへ、陸軍は全員例の拠点へ向え、準備できた部隊から出発せよ!」

「「「「ッハ!」」」」

「教皇に仇名すもの達に神罰を!」

「「「「教皇に仇名すもの達に神罰を!」」」」


 将兵達が全員敬礼し、復唱していた。


1人の男を残し全員が部屋を出て行った。


「シモンズ様、この街の防衛はどうするのでしょうか?ベルガム様だけでしょうか?」

「気にするな、ペンジェンより一部の部隊を回す」

「承知しました!出過ぎた質問申し訳ありませんでした!」


 それだけ言うと残っていた男も部屋を出て行った。


 これで、偽りの出兵命令は完了かな?残りはトライベッカとオーレリア達にまかせるとしよう。


 自分はどうするかな~そんなことを考えながら、屋敷を後にした。

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