第116話 エスティアの街 ナンバーズ

 大司教シモンズと名乗る爺さんと、ベルガムと呼ばれた騎士の後についてエスティアの街の中に入った。


 門をくぐると廃墟とも思えるような街並みが広がっていた。


「これ全部兵士達がやったんですか……?」

「ふむ、おぬしは今回初めてこの街に来たんじゃないのかね?」


 シモンズから不穏な気配が漂って来た。なぜ?


「数日前にこの町の状況を知る機会があったんですよ」

「ベルガム、ここ3カ月程街の外に出た者はいたのか?」

「首都に向かう一部の商隊以外は居ないはずですが」


 どういう事?

 市民は街の外に逃げられないようになっている?


「ふむ、何故お主がこの状況が兵士の仕業と知っている?」

「市民を軟禁しているのですか?」

「少年、質問を質問で返すでない」


 シモンズはじーっとこちらを睨み少しイラついている様子が見られた。


「知っている理由なんてどうだっていいじゃありませんか」

「ふむ、この街に外部の者と接触している者がいるやもしれんな」

「探し出して処分しますか?」

「そうするしかあるまい」

「では私は!」

「あぁ」


 物騒な、ベルガムを止めないと罪もない市民が殺される。

 こちらに背を向けて走り出すベルガムに向け抜刀、行動速度上昇、縮地を使い瞬時に斬った。

 

「少年、今から……」

「今からなんです?自分を殺しますか?」


 シモンズは、先ほどまで自分が居た位置を見て何かを言いかけていた。


「お主、ただの子どもじゃあるまい」

「そうですね、創造神ネア様に使わされ、この街を救いに来た者とでもいえばいいですか?」


 ネア様にこの世界に転生させてもらい、今や自分の意思でこの街を救いたいと思っているから、そこまで噓をついていないと思っている。


「創造神とはたいそれた事を、あんな神など祈っても救われぬ!」


 神様なんてそんなものでしょとか内心思った。元々自分は無神論者だ。


「この街の人の祈りがネア様に届いたから自分が使わされたと思いませんか?」

『彼、教団のナンバー3 シモンズ枢機卿だね、いつかオスカーが言っていたナンバーズだよ』

『ありがとう、引き続きこの街にナンバーズが居ないかチェックお願い』

『OK』


 ここで、まさかのナンバーズ、司教とか大ウソじゃん……


「そんなわけあるまい、ごみ共が祈る神など居ない」


 ごみ共って街に住む民の事を言っているのか?

 この男は民が祈り寄付をしているからいい生活送れてる立場だろうに……

 このシモンズ爺さんとは、どうあっても分かり合える気がしなかった。


「神の力で調査済みなんですよ、ナンバーズのシモンズ枢機卿」

「!?まさか本当に……、教皇に仇なす者を生きて返すわけにはいかん!」


 シモンズはどこからともなく杖を取り出し自分に向けて構えた。


「武器を構えたということは死を覚悟したとみなしますが」

「死ぬのはお前だ!炎の精霊イフリートに命ず!ファイヤーランス!」


 精霊の名と魔法か、長い槍のような形状の炎が10本ほど現れ自分に襲ってきた。


『精霊契約もしてないのに精霊の名前だしてもねぇ~』


 ヒスイの突っ込みを聞きながら、襲って来たすべてのファイヤーランスを斬り払った。


「ネア様に対する敵対行為とみなします」

「ック!化け物め!」


 縮地でシモンズに近寄りすれ違いざまに斬った。


 はぁ、ため息しかでなかった。

 これでクラリス教団敵対者認定か、目撃者した信者が居たらそのうち追手が来るだろう、もう少し穏便に済ませたかった。


 シモンズとベルガムの死体を回収した。


『ヒスイ、この街の創造神教の教会はどこ?』

『このまま真っすぐ歩いて行くと港にでるんだけど港に出る一つ手前の道を右に行くと教会があった丘にでるけど、ボロボロだよ~』

『ありがとう』


 教会に向かっていると、尾行されている気配を感じた。


『6人の男女だね~ナットモテモテ!』

『うれしくないわ!』


 ヒスイはケラケラ笑い、ご機嫌だった。


『まぁ悪い人達じゃないから気にしなくていいと思うよ』


 ヒスイがそういうならそうなのだろう、しばらく歩くと教会だったと思しき崩れた廃屋まで来た。


『ん~聖域機能はまだ残っているけどこのままじゃぁね~』


 たしかに、天井や屋根部分が崩れ落ちて聖域機能が生きていても使えない状態だった。


 仕方ない、片付けて立て直す事にした。


 1人で片付けていると尾行してきたと思しき6人の少年少女のうち、1人の可愛い少女が話かけてきた。


「すいません……」

「はい?」

「さっき言ってたことは本当ですか?」


 さっき言っていたこと?

 何のことだと思っていると。


「先ほどシモンズの前でネア様の使いだと言っていましたよね?」


 さて、どう答えるか?と悩んでいると。


『使徒だし間違ってないからイエスでいいんじゃない?』

「あぁそのことなら間違いないですよ」


 使徒だとは明かさなかった。


「それでは我々を助けてくれるんですか?」


 何をどう助ければいいのかが分からなかった。


「何をすればいいんです?」

「ネア様は何もおっしゃっていなかったの?」


 はて、転生するときになんて言われたっけ?

 何も言われてない気がした。


「特に何も?困ってる人が助けてあげてください位ですかね?」


 遣わされた事になっている以上何もないと答えるのははばかられた。


「そうですか、それなら、この街から、この国からクラリス教団を追い出して、私達をお救いください!」


 女の子が叫ぶように跪き、自分に願った。

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