第100話 最強最弱コンビ?
食堂から皆が出ていき、オーレリア、レオニダス、セリエ、自分の4人になった。
「すでにセリエから聞いているかな?」
「バディの件ですか?」
「そうです。これから君にはセリエと一緒に行動してもらいたいのです。セリエは第6騎士団でも最も頼りない存在です」
それは会った時からなんとなく感じていた。当の本人を見るとニコニコしていた。
自覚してるのだろうか?と思ったと同時に、ヒスイが投擲を極めてると言って良いレベルと言っていた。
セリエは弱いと言われる事を悔しく思っていて陰でひたすら得意な投擲を練習していたんじゃないだろうか?
自分の知り合いにも、柔道の試合で初戦敗退し周囲に色々言われたけどその時は泣かずにいたが、その後近くの神社で1人泣きながら練習していた子がいた。もしセリエもそういうタイプなら今心の中では泣いているんじゃないか?
「だから、君と組めばどんな状況下でもセリエの生存率はあがります。どうかセリエをお願いできないでしょうか?」
投擲を極めてもいいレベルと報われない努力をし続けたセリエを引受けないという選択肢は自分の中から消えていた。
「いいですよ、この後2人で話をしてもいいですか?」
「わかりました。それでは私達は席を外しますね」
そういって、オーレリアとレオニダスが食堂から出て行った。
「いいんですか~私弱いですよ~?」
横に座っていたセリエがこっちを見た。
悔しいとかそういった表情は無かった。
「いいよ、ちょっと手を貸してくれる?」
「ん~?良いですよ~?」
セリエが手を出してくれたので、触れてセリエの記憶を見た。
やっぱり先ほどのオーレリアに頼りない存在と言われたとき、心の中で泣いていたすごく悔しい想いをしていた。これまでも第3騎士団と第5騎士団と渡り歩き、同じような経験をするたびに、いつか少しでも役に立てるようになるため、ひたすら石を拾っては壁に向かって投げ、拾っては壁に向かって投げを繰り返していた。
そして、一番衝撃だったのは、セリエが何を言われてもニコニコしていた原因となった記憶を見た時だった。
第3騎士団時代に、長い期間弱さから虐めにあっていたのだ、周囲から足手まといだ等暴言を言われたり無視されたり、自分が使っていた道具を隠されたりと散々な目に逢っていた。
泣いたり助けを求めるとさらに苛めが酷くなり、どうやっても負のループに陥っていく、そしてセリエが出した答えは、常にニコニコしていようそうしたら虐めるのをやめてくれるんじゃないだろうか?という事だった。ニコニコするようになると狙い通りセリエをいじめていた周囲の者達は気味悪がってセリエをいじめる者がいなくなり、第5騎士団への異動になった。
どんなに絶望的だっただろう、味方もいない、助けてくれる友人も居ない、どんなに辛い状況でも耐えて耐え抜いて生きてきた。
セリエは、すべての原因が周りじゃなく自分にあると思い込んでいたからか周囲に憎しみを向けることなく、自分自身の弱さに憎しみが向いていた。
自分だったら周囲への憎しみからの悪魔憑きになってもおかしくないくらいの状況だった。もしかしたら自分自身で人生幕を下ろしていたかもしれないとも思った。
こんな子が報われないのは哀れだ、こういう子こそ栄光の道を歩んでほしいと思った。
「セリエ、今まで悔しよね、弱いとか頼りないとか言われて、本当に悔しかったよね」
「何を言ってるんですか……?」
セリエの声が少し震えていた。
「第3騎士団の時、いじめられていたんでしょ、それも数年間ずっと毎日のように……」
「何で知ってるんですか……?」
「悔しい時はニコニコしないで泣いていいんだよ?もう虐める人はいないでしょ?」
夕食時に見た第6騎士団で虐めるような人は居なさそうだった。もしいたとしたら、オーレリアが許さないだろう。
「うん……、でもなんで……」
バディなんだし隠す必要はないと思った。
「姫様とレオニダスさんしか知らないので他の人には内緒にしてくださいね」
そういってナットの姿から秋津直人の姿になった。
「ぇ?」
「自分は秋津直人、ナットのもう1つの姿なんです。君の過去を知ることが出来るのは使徒だからだと思ってもらっていいですか?」
「あ、あっ……」
セリエは顔を覆い泣き崩れてしまった。
ぇ?なんで?という気持ちと、戸惑いの気持ちがあった。
しばらくセリエが落ち着くのを待ち、落ち着いたセリエが話をしてくれた。
昨年の震災時に自分がセリエの母親の命を助けたこと、そして母親と小さな弟の生活の為にどんなに辛くても騎士団をやめる事が出来ない事等の身の上話を色々聞くことが出来た。
「あの時お母さんを助けてくれてありがとうございました。秋津様がいなかったらと思うと……」
「あ、うん……」
こういう時は本当にどう接すればいいかが分からない、恋人同士とかなら優しく抱きしめればいいんだろうけど、そうでない場合は?
とりあえずナットの姿に戻り話しかけた。
「セリエさん、自分はあなたと組むのは構わないですが、これから辛い事があるかもしれませんがいいですか?」
「第3騎士団に居た頃以上に辛いことは無いと思うので大丈夫です」
あの記憶は精神的にも肉体的にも辛すぎる。
「かもしれませんね、あなたにその気があるのであれば、誰よりも強くなれるように手助けします」
「よろしくお願いします!それとセリエと呼んでください」
『あっ』
『なに?どうしたの?』
セリエとのやり取りの最中に突如ヒスイが声をあげた。
『たったいま彼女に戦神の加護がついた……』
『ぇ?なんで?』
『なんでだろう、彼女が君の手助けを望んで、君が応じたからって感じだけど』
『それは自分が戦神だったらそうなるかもしれないけど、自分戦神じゃないでしょ?』
『うん、なんでだろうね?』
良く分からない謎が1つ増えた。
「わかったセリエ、これからよろしく、今日はとりあえずもう部屋に戻ってゆっくり休みな」
「はい、おやすみなさい」
セリエが食堂を去っていった。
セリエの為に無限に使える投擲用の武器を作ろうと思った。
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