第45話 第三者の正体

 鬼人族のミリの記憶


 雨が降っていた為、他の子ども達と室内で遊んでいると孤児院の入口の方で、院長先生の声と複数の男達の怒鳴り声が聞こえた。


 遊んでる部屋から入口の方を覗くと


「居たぞ!」


 数人の男がこっちに向かって来た。慌てて部屋の中に隠れたが遅く男達に捕まってしまった。私なりに抵抗をするも大人達の力に叶うわけもなく口の中に何かを詰められ手足を縛られた。


 脇に抱えられ孤児院から出る際にシスターも縛られているのを目にした。


 孤児院を出ると、執事服を着た男の元に男たちが集まった。


「誰も殺していませんね?」

「あぁ、問題ない」

「よろしい、これに」


 執事服の男が辺りを見回しながら問うと、男たちのリーダー格の男が応えると執事風の男がどこからともなく麻袋を男渡し、男が私を袋の中に入れようとしてくる。


「先ほどから何者かに見られてる気配があります。重々注意して男爵邸へ向かってください。」

「っは!」


 それだけ言うと、執事風の男が姿を消した。


 完全に袋に入れられる直前に聞きなれたクリフト兄ちゃんとサンディ姉ちゃんの声が聞こえた。


「ミリ‼」

「ミリちゃん‼」

「んはふへへ」


 口の中に何か詰められているせいで上手く発音できないが出来る限り助けてと言ったつもりだった。それが伝わったのか状況もあったのか。


「ミリを離せ」


 そう言ってクリフト兄ちゃんが背負っていた大剣を抜く


「ここは俺たちが止めるからお前は男爵邸にいそげ!」

「あぁ!」


 私は袋に詰められた。その後は男に担がれて運ばれるなか、後ろの方から聞こえていた。戦いの音や声が徐々に遠のいて行くのが解った。


 しばらくすると、急に体が宙に浮くような感覚に襲われ次の瞬間地面に落ちたのか強い衝撃が全身を襲った。痛い……


 私を入れていた袋の封が説かれた。その瞬間目に飛び込んできたのは狐耳のショートカットのお姉さんだった狐族の人?


「ごっめん~大丈夫だった?」


 私はとりあえず頷いた。


「ごめんね、ちょっとまってってね」


 その後口の中に居入れられた何かを取り出し、手足を縛っている縄を斬ってくれた。


「ありがとう……」

「うん、私の事は誰にも喋らないでね、そして忘れてね」


 そう言われた瞬間、私の意識は暗転し、気づいたらいつもの孤児院の自分の布団の上で寝ていた。


◇◇◇◇◇◇


 鬼人族ミリの記憶の回想が終わると即ヒスイが声をかけてきた。


『ナット、縮地じゃないかも幻影の使い手だった。』

『どういうこと?』

『彼女は、狐人族じゃなく、妖狐族で、幻影魔法を最も得意とする種族、鬼人族と同じ元は魔物』

『うん?』

『たぶんね、執事が言っていたように誰かに見られてる気配っていってたけど、隠密と幻影魔法で察知できなかったんじゃないかなと思ってる。』

『そっか』


 とりあえず妖狐族の女性という第3者の関与がわかった。その女性が腰に差していた刀の様なものが気になった。日本刀のような拵で、日本刀より短く反りのない刀、忍者刀のように見えた。


 さらに気になる事がある。男の1人が“男爵邸に”と言っていた部分だ、まさかさらに関与する貴族が増えるとか……


「男爵か……、最後の狐人族は誰だ?グアーラは知っているか?」

「Sランクを殺せるほどの腕を持った奴なら耳に入ると思うがしらんな」

「だろうな、ミランダ、その子を布団で寝かせてやってくれ」

「はい、サンディお願いしていい?」

「はい」


 ミリとサンディが部屋を後にした後、侯爵とシスターミランダで色々な話をしていた。


 そこから浮上してきた事は、ポーンタナ男爵が侯爵から孤児院への支援金として預かったお金の大半を横領していること、今回の誘拐事件の協力者だという事が解った。


 そりゃ、ポーンタナ男爵の手の者が、事件前まで鬼人族の子の所在をまめに確認しに来ている事と、事件後は孤児院への支援金を持ってくるのみになっているとなればね……


 そしてクリフトとサンディを手配したのもポーンタナ男爵だろうとの事だった。


 「男爵が絡むとなると王に報告せねばな、子爵だけならよかったもの、ポーコスに行くのは王からの返答の後だ……」

「何か問題でもあるんです?」


 貴族社会に詳しくないので聞いてみた。


「そうだな、この国では人攫いは重罪だ、鬼人族のような希少種の子なら猶更な、一族郎党処刑なんだよ。子爵家だけならば私の権限でどうとでもなるのだが、男爵家には王家から派遣されている家臣がいるのだ、子爵家を処罰したところで男爵家の方は王家の許可が必要になる。」

「男爵家に手を出す場合、王家に剣を向けるのに等しいとかそういう事ですか?」

「そういうことだ、まぁ派遣されている家臣は男爵の監視役だから既に王家でも事件の把握をしているかもしれんが、一旦アヴェナラに戻り王家に使いを出すしかないな」


 誘拐で家臣もろとも処刑とかやり過ぎな気もしなくもない。


「そうですか……」

「よっし、知りたいことも知れたし、戻るとしようか」

「あ、ちょっと待ってください」


 横で空気と化していたクリフトといつの間にか戻っていたサンディに視線を移す。


「2人との約束を守らないと、なりたい年齢とか顔立ちとか言ってくれればご要望にお応えしますよ。」


 侯爵が思い出したように応えた。


「そういえば、来た時にそんなことを言ってたな、別人になれるものなのか?」

「そうだな、俺は、年齢は8歳で顔立ちは今のに近い顔立ちだと嬉しい髪と瞳の色を黒にしてくれ」


 クリフトの望む外見は日本人風?


「私もクリフトと同じでお願いします。もしできたらですが、小顔にしてくれると……、それから皺と無縁にしてくれると……」


 サンディの願いは女性らしい願いだな、


『へぇ、大陸の英雄秋津則宗様を模してるのかな?』

 

 ヒスイが言ってた通りなのか聞こうとする前に侯爵が質問した。


「英雄、秋津則宗か?」

「あぁ」「えぇ」


 2人の返答が同時に帰ってきた。


「俺らは白狼と剣士の物語に憧れたからな、かの英雄殿の様になりたいとね」


 クリフトの発言に対してサンディも頷いている。

 白狼と剣士の物語ってなんだろう今度読んでみたいんだけど……


「わかりました。2人とも髪の毛でも爪でも何でもいいので体の一部をくれます?」


 植物で出来たんだ、おそらく人でもできるはず、2人は少し戸惑いを見せたが髪の毛をこちらに差し出した。


「ブルーミントの様な事をするのか?」


 グアーラは察しがいいな、これからやろうとしていることが解ったようだ。


「そういうことです。」


 左右の手にそれぞれの髪の毛を持ち、ブルーミントでやったように修復をイメージしていく。


髪の毛から頭皮、頭蓋骨、脳や目等の臓器と修復されていく、これはグロイな、見た目完璧なクリフトとサンディの首の出来上がり。


「こいつは……」

「これで2人が死んだ事は、疑われないでしょ、次は、自分の手に触れ、なりたい自分をイメージしてください、それからサンディさん皺と無縁は出来るかわかりません……」

「あぁ」「わかりました……」


 それぞれ自分の左右の手を取った。彼らから流れてくるイメージとリクエストに合わせて体の情報を改変していく退化と髪の色や瞳の色にそれぞれのイメージする顔立ちに変更するだけなので難しくは無かった。


「これでどうですか?」

「こりゃ全くの別人だな……」

「そうですね……目の前で起きていることが信じられませんね……」


 手足や身長が縮んだのは実感しただろうけど、お互いがお互いの顔を見て顔立ちの確認をしていた。手鏡とかあればいいんだがそんなものないからなぁ。


「あとはそれぞれ名前を決めればそれでおしまいですかね?」

「ありがとう!ほんとうにありがとう!」

「ありがとうございます。」


 クリフトの方は普通にうれしそうだったが、サンディの場合は泣いてお礼を言って来た。


「そうだ、これを」


 そう言って自分に冒険者カードを差し出してきた。


「これは?」

「俺の冒険者カードです。首と一緒にギルドに渡してください」


 それを聞いたサンディが慌てて自分の分を出してきた。


「私の分も」


 2人の冒険者カードに触れると黒く変色した。


「ふぁ?」

「冒険者カードは、他人が触れるとそうなるのだ、なりすまし防止のためだ」


 グアーラが説明してくれたが、冒険者ギルドで受付の時にそんな変色見たことないんだが……


「冒険者ギルドで変色したのを見たことないんですけど」

「手袋をつけていただろう、直接触れなければ変色せんからな」

「なるほど、それじゃあ2人の冒険者カードと首確かに預かりました。」

「あぁ、ほんとうにありがとう!」


 クリフトとサンディは深々と頭を下げていた。


「それじゃ、宿に戻るとしようか」

「あぁ」


 シスターミランダとクリフトとサンディが入口まで見送ってくれた。


「それじゃあミランダまた何かあれば俺に連絡をくれ」

「わかりました。」


 孤児院を後にしようとしたらシスターミランダが声をかけてきた。


「ナット様一つだけいいですか?」

「はい?」

「時が来たらオダマキ大陸に向かいなさい、確かに伝えましたからね」


 時がきたらとは?なんとなくだけど25年後茜君がこの世界に来る頃を指しているような気がした。


「伝言ですか?」

「えぇ、ソラリス様からです。」


 ソラリス様ときたか、闇雲に茜君を探す必要がなくなった。25年後にオダマキ大陸に向かえばいいとそれだけでも大きな情報だった。


「わかりました。ありがとうございます。」

「子ども達の事本当にありがとうございました。」


 それだけ言うと、シスターも深々と頭を下げた。


「いえいえ、それではこれで」


 侯爵やグアーラ達の方をみると、少し離れたところで待っていてくれた。追いつくと改めて宿に向かった。

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