第44話 黒幕

 クリフトの記憶の回想が終わった。


「こいつは……」


 一番最初に口を開いたのは侯爵だった。


「シスター?」


 何が起こったのか良く分かっていないサンディがシスターミランダに何か言いたげだった。


「サンディ、あなたの記憶も見てもらいなさい」

「あぁ、君もあの晩いたようだからね、是非見せてほしい」

「え?」


 何が起こっているのかが解かっていないサンディは戸惑いを隠せない様子。


「俺には何が起きてるかわからないが、大丈夫辛くないから見てもらえ」


 クリフトがフォローをし、恐る恐る自分の手を握ってきた。


「それじゃあサンディさんの記憶を」

「あぁ」


 サンディの記憶を回想すると、クリフトと大して変わらない、あの日の戦いが別視点で再生されているだけだったが、最後だけは違った。クリフトが背後から襲われるシーンがあった、執事服の様なものを纏い剣を持った白髪の男性が後ろから殴りつけ、クリフトの足にザックっと剣を突き刺すシーンがあった。衝撃だったのは、その直後、執事服を纏った白髪の男の首が胴体から離れ宙を舞うシーンだった。


「こいつは……」


 侯爵が言葉を失うのもわかる。

 自分も衝撃だった。サンディの視界には誰も居なかった。誰も居なかったのに何者かが瞬時に男の首を飛ばしたのだ。


『なんかあれだね、君と同じ縮地の使い手に見えるよね、サンディの視界の外から外へ縮地を使用しつつすぱっと首を落としてる感じだよね』


 確かに言われてみればそうなのかもしれない、自分が縮地を使った時の第3者視点なんて見たことないが、そのように映るならそうなんだろう。


「攫われた鬼人族の子どもが途中から見えないが、戻ってきたのかい?」

「えぇ、クリフトがサンディに担がれて戻ってくる前に扉の外で寝ていたようです。」


 この事件に第3者が絡んでいる?執事を殺した何者かが、鬼人族の子を救い孤児院の外に置いてクリフト達の助太刀に向かったと言ったところか?


「その子と会わせてもらうことは可能か?」

「サンディ、ミリを連れてきて下さい、寝てるようなら……」

「寝てたらそのままにしてやってくれ」


 侯爵が、シスターミランダの言葉をさえぎって言った。


「わかりました。」


 サンディが席を立ち、鬼人族の子の所へ行った。


「ナットの力は凄いな、2人の視点での事件を見ると信憑性が増すな」


 今まで一言も発してない気がするグアーラがそんなことを言った。


「おかげで黒幕が解った。」

「クライ本当ですか?」

「あぁ、この件の裏で糸を引いているのはポーコス子爵だ、最後に何者かに斬られた執事は元S級冒険者の神速のラルゴだ、グアーラは聞いたことあるんじゃないのか?」

「あった事は無いがな、S級があっさり殺される相手とはどんなんだか」


 グアーラの話の間、自分はポーコス?どこかにある街?とか思っていた。するとヒスイが教えてくれた。


『アヴェナラ向かう途中で川があるんだけど、その川沿いの道を北上するとポーコスって街があるんだよ。』

『その川沿いに手配書の1人がいるとか言ってなかったっけ?』

『そうそうジャガックスって名前だね』


 ついでに対処できそうな状況になりそうだ。


「グアーラとナット君よけ……」

「言わんでもいい」


 言おうとしていることは何となく解る。アヴェナラに戻る前にポーコスに寄ってもいいか?と聞こうとしているんだろう。


「ポーコス行くなら付き合いますよ。」

「そうか、すまないよろしく頼む。」


 見知らぬ相手なら多少なり情報を集めておこう、情報収集に長けた大精霊が肩の上に居るのだから……


『ヒスイ、ポーコス子爵の偵察頼める?』

『いいよ、逐一報告する?』

『いや情報集めといて』

『OK』


 情報収集はOKとして、個人的には何故子爵が犯人なのかが知りたい。執事が子爵の手の者だから?とは思ったが。


「ところで侯爵様、黒幕特定した根拠とかを教えてほしいのですが……」

「そうだね、まず2人の記憶にあった7人の男達だが、おそらく子爵の私兵だ、2人の顔に見覚えがあるからな、それで神速のラルゴだが、先代から子爵家に仕える執事だからというのが理由だ。」


 執事のあたりは予想通りだったが、私兵の2人か、こういう貴族ってはたけば色々と出てきそうだな、なんて思った。


 そんな事をしていると、サンディが鬼人族の子を連れてきた。

 

 凄く眠そうにしているんだが……


「サンディ、あなた……」

「いえ、布団の中に居たのですが、まだ起きていたので……」


 自分だったらそのまま寝かせるけどな……


「ミリちゃん大丈夫ですか?」

「うん……」


 本人は頷いているけど、意識が今にも飛びますよ!って状態だ。サンディからシスターミランダの膝の上に移るとそのままウトウトと寝息を立ててしまった。


「この状態でも大丈夫ですか?」

「まぁ多分……」


  鬼人族の子の手に触れた。


「それでは、この子の記憶を」

「あぁ」


 鬼人族のミリちゃんの記憶の回想を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る