第17話 冒険者登録

 眼を開けると、休む前までは真っ暗だった窓の外が大分明るくなっていた。


『おはよ~よく寝てたね~』


 どうやら熟睡したらしい、ヒスイは、ずっと見ていてくれたんだろうか?

ベッドの端に座っていたヒスイが、目の前に飛んできた。


『おはよう、なにもなかった?』

『なにもなかったね~平和そのもの、あと精霊使いのお姉さんがカウンターに居るみたいで君に用があるみたいよ。』

『ん?』

『夕べの事、ここの偉い人と話してて、君を偉い人に引き合わせたいみたい』


 あぁ、ヒスイの盗聴か、そっちよりも患者の状況の方が気になった。


『なるほど、患者の方は何かあった?』

『獣人の子方だけど、脈は安定しているね、じきに目覚めると思うよ。もう1人の女子も問題なく動いてるね』


 ん~ほんとうにヒスイは優秀だ、もし病院にヒスイがいたら、ナースコールもいらないだろうし、脈や呼吸を把握するためのモニターとかいらなさそうだな。


 とりあえず起きよう、体を起こして辺りを見渡して思った事、ある程度片付けたけど、あちらこちらに血跡がある。木の床だし、血がしみ込んでそうだな、とか思っていると。


『それ位なら、ナットの魔素もらうよ』


 そういっていつものポジション右肩の上に乗ってきたと思ったら、ヒスイの身体が一瞬淡く輝くと床のあちらこちらにあった血痕が消えた。


『植物絡みで、異物排除くらいはね~』


 ヒスイがいたら、完全犯罪が成立しそうだな……

 さて、昨日できなかった冒険者登録をしに行きますか、着物はいったん片付けておこう、村で着ていた服装に着替えた。部屋の中をある程度片付けてから部屋を出てカウンターに向かった。


 廊下からロビーと言えばいいのだろうか、カウンターのある部屋にもどってくるなり、夕べの受付嬢がすぐに気づき声をかけてきた。


「おはようございます。よく眠れましたか?」

「おはようございます。よく寝れました。」


 受付嬢らしく、優しい表情をしている。


「そう、それは良かったです。この後お時間はありますか?」


 先ほどヒスイが言っていた。上の人に合わせたいってやつの事だろう、特に予定は無いし、冒険者登録が出来ればいいので、素直に時間があることを伝えよう。


「時間なら大丈夫ですけど、冒険者登録が出来れば」

「冒険者登録ならできますよ。少しお待ち頂いてもよろしいですか?」

「はい」


 受付嬢が辺りを見回し、一人の職員をみつけるなり


「レイラ!ここに入って!」

「はい」


 レイラと呼ばれた女性が、受付嬢の人がいた所に入り、業務を始めた。

 受付嬢が、こちらに向き直り


「それではついてきてもらっていいですか? 昨日の件でマスターが、お会いしたいそうなので」

「ほい」


 受付嬢が歩き始めたので、その後をついて行く、来た廊下を戻り、先の部屋よりさらに奥に行くと上と下に続く階段があった。受付嬢は、上に続く階段に登っていくので、後に続いた。2Fではなく3Fまでのぼった所で、一つの部屋の前で止まった。受付嬢は、扉をノックすると。


「マスター昨日の子連れてきました。」


 すると部屋の中から、「おう!はいれ」と渋い声が聞こえた。


「失礼します。」


 扉を開け部屋に入る受付嬢の後に続くと、部屋の中は、校長室だの理事長室だの偉い人が居るような部屋らしい部屋だった。正面にライオンを思わせる髭と髪型の獣耳のおっさんが居た。受付嬢が、そのおっさんの横に立ち、


「こちらが夕べ話した子です。」


 そういうと、ライオンのおっさんがこっちを向き


「時間取らせて済まねぇな、俺はここのギルドのマスターをしているギルバードってもんだ、よろしくな、お前さんの名前は?」

「よろしくお願いします。自分はナットと申します。」

「おう、よろしくな、まぁそっちに座ってくれや」


そう言われたので、言われたソファーに腰掛けると。


『2人とも曲者だねぇ』


 そういや、夕べも受付嬢のお姉さんに対してそんなこと言ってたっけ?


『何が曲者なの?』

『2人とも冒険者ギルドの暗部の人間だね、ギルバードは、その中でも幹部クラスみたいよ。』


 暗部…… 頭の中にぱっとイメージするのは、暗殺者とかだ、冒険者ギルドのって事は、罪を犯した冒険者を消す役なのか?


『へぇ、もしかして罪を犯した冒険者をとかを……?』

『うんうん、主にそれだろうね、賞金首とかを狩るのも仕事なんじゃないかな?』


 何それ怖い!

 人殺しとかそういうレベルの重罪を犯した冒険者が対象だろう。自分には無縁だと思いたい。


『まぁでも、2人とも、君に比べたら弱いよ、昨日いた角生やした人の方が強いかな、というより、天神エルメダ様の息子さんだったしね』


 天神様の息子さんを使った事で天罰とか無いよね……


『神様の息子を自分は使ったの……?』

『そうなるね~、君の両親と昔パーティ組んでたみたいよ。今度話を聞いてみたら?』


 両親とパーティを組んでた人か、親の過去を少し聞いてみたいかもと興味がわいた。


 目の前にライオンのおっさんが腰を下ろすと、頭を下げた。


「夕べの事は、リアから聞いた。俺らの仲間を救ってくれたことを感謝する。本当にありがとう」


 リアってだれ? と思ったが、思い当たるのは、おっさんの後ろに立っている受付嬢のお姉さんだ、お姉さんを見ると、目が合った。


「申し遅れました。私このギルドでサブマスターをしている。リアと申します。」


 頭を下げた際に、今まで気にしてなかったが耳がとがってる。お姉さんって思ったけど実は…… 失礼な事を考えるのは止めておこう。ギルバードの方に向き直り。


「いえいえ、出来るだけのことをしたまでですよ。」


 ギルバードは、頭をあげた。


「それでもだ、本当に感謝する。ところで、ナット君は何故ギルドに来たんだ?」

「冒険者登録に来たそうですよ。」


 自分が答えようとする間もなく、ギルバードの後ろに控えているリアが答えた。


「ふむ、医者ではなく冒険者になると?」

「ですね、正直医者としてやっていこうとは思っていないので、男なら最強の座でも狙ってみようかと」

「っふっふ、そうだな、男なら目標はでっかく持たなきゃだな、すると目的はSランクか?」

「冒険者としてならそうですね、あとは王都で武術会があるとか」

「あぁ、武術会か、武術会というよりは、次代の騎士採用試験みたいなものだがな」


 それは聞いてない、騎士とかになったら戦場に行かなきゃならなくなりそうで嫌なんだが。


「騎士にならなきゃいけなくなるんですか?」

「いや、ならなくても問題ないはずだ、上位に入れば騎士団に入隊しやすくなるだけだからな」


 それを聞いて安心した。流石に好き好んで戦場に行く気はないからな。


「さて、冒険者登録だったな、腕前を見せてもらうことは可能か?」

「それ位なら」

「よっし、したら地下の訓練場に行こうか」


 ギルバードがおもむろに立ち上がった。すると横からリアが


「マスター、グアーラを呼んできても?」

「あぁ、かまわん」

「それでは、呼びに行ってきます」


 そういうと、リアが部屋を後にした。


「さて、グアーラが来るまでにやれる事はやろうか」


 近くの棚から、手帳の様なものと、1枚の紙きれを持ってきて目の前のテーブルの上に置いた。


「まずは身分を証明するものがあれば見せてほしい、その間に、この書類に記入してくれ、字は書けるか?」

「問題なく」


 アイテムボックスから、父親にもらった身分証明書をギルバードに渡し、書類に目を通した。記入する項目は、名前と年齢、得意武器と適正魔法か、さっさと記入してしまうか、記入をしていると。


「ほぉ、ナットはサントとカレンの子なのか、2人は元気か?」


 両親を知っているのか、まぁ冒険者だったし、ギルドマスターなら当然なのか?


「えぇ、元気ですよ、父さん達を知ってるんです?」

「あぁ、あいつらが新人だったころに面倒見たからな、グアードが気に掛けた理由がそれか、なるほど、カレンの若いころに似ているな」


 そうなのだろうか?鏡なんてこの世界に来てからまだ見たことないが、窓や水面に映る自分の顔を見たが、母親に似てると思った事無いけどな。出発直前まで若返った母親を思い出しても似ているとは思えない。


「そうなんですか? 自分では似ていると思ったことないんですけどね」

「そうか、まぁ自分で思うのと他人が思うのは、違うことがよくあるからな」


 まぁそれは同感だ、とりあえず記入を済ませて、ギルバードの方に返す。


「さて、地下に行こうか、グアーラの気配もするからもうじき来るだろう」


 気配察知? スキルか何か?


『スキルだね~気配察知というよりは、千里眼だね、自分の知っている相手がどこにいるかわかるスキルだね~まぁスキルレベルで範囲が変わるけど~彼はそこまで高くはないね~』


 ん~今の自分には、必要性がないスキルだな、ヒスイがいれば問題なさそうだし


『ふふん!』


 人の思考を読んでドヤ顔するヒスイ。こいつは頼るとほんとに機嫌がいいな、そう思いながら、ギルバードの後をついて地下に降りていった。

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