第16話 幕間 受付嬢リア視点

 私の名前は、リア 人種ハイエルフ族だ、そして私の相棒、氷の上位精霊 精霊種フラウ族の、セシルと一緒に毎日を過ごしている。


 私は、国境都市ジャッスエイの冒険者ギルドでサブマスターを務めつつ、今は受付嬢をしている。


 ある日の午後、ここら辺では見慣れない格好をした男の子が、冒険者ギルドにやってきた。


 あの格好は、秋津の子?でも顔立ちはここら辺の子ね、親御さんが見えない辺り、冒険者登録をしに来たのかしら? 丸腰で?


 そう思ってると、禿げ頭のジェイクスがギルドに入ってきた。入口でキョロキョロしている。男の子に対して怒鳴った。


「ガキが邪魔なんだよ!入口でぼけっとすんなや!」


 するとすぐに、男の子は、横にずれ


「すいません」


 謝罪していた。ジェイクス! 子ども相手になんてことを!そんなことを思っていると。


 男の子が真っすぐとこちらに寄ってきた。男の子の肩に濃い緑色の光の玉が見える。


 精霊使い? そう思ったが男の子の肩から一向に動かない辺りそうでもないのかな?

 私のセシルは、事あるごとに話しかけてくるし、動き回っているけど、今日のセシルは、目の前に精霊が居るのに今日はおとなしい。


『セシルどうしたの?』

『なんでもないです…… 』


 セシルの様子がおかしい、男の子がカウンターの前まで来て何かを言いかけようとしたとき、バタン!と、ギルドの入口の扉が大きな音を立てて開いた。そこには、Bランクの重騎士のアルフだ、その腕には、彼らとパーティーを組んでいる。猫獣人のキアナがぐったりして腹部辺りから大量の出血をしている。


「すまねー!だれかポーションもってないか!?」


 アルフが大声で、問いかけるもだれも反応が無い、私はカウンターから出て駆け寄ろうとする前に、カウンターの前まで来ていた男の子がいつのまにか彼の元に居た。


「下ろして!」


 男の子が、アルフに向かって叫ぶ、


「なんだ?子どもの遊び場じゃねぇんだよ!どけ!」


 私も、子どもに何かできるとは思えない、アルフの返答はごもっともだと思った。

 それでも男の子はアルフに向かって叫び返した。


「良いから早く下ろせ!その子が死ぬぞ!」


 何ができるの?下ろしたところで君に何ができるの?

 男の子の気迫に押されたからだろうか? アルフは、キアナを下ろした。


 男の子が、キアナに触れるとさっきまでとは違うとはっきりわかるくらいに流れ出る血の量が減った。何かの魔法だろうか、ただそんな形跡はなかった。詠唱もなければ、魔法名も言ってなかったし、男の子の肩にある光の玉も全く動きがない。


『セシル、あの子何したの?』

『ごめんなさい……』


 ぇ?いつもなら対象の情報をくれるセシルが情報をくれない?


『セシル?』

『ごめんなさい、リア私は何も言えないの…… 消されちゃう……』


 ぇ?どういう事だろうか?セシルは何におびえてるの?


「怪我人はこれだけか?」

「出血が止まった……? いや、あともう1人いる」

「早くつれてこい!」

「あぁ!」


 アルフから見ても出血が止まったと思えるのなら、おそらく男の子はキアナに何かしたのは明白だけど、何をしたのか見当がつかない……


 男の子は辺りを見回すと、竜人族の、グアーラに向かって


「すまない、そこの角を生やした兄ちゃん!」

「あん?俺か?」


 角なんて生やしてるのは、グアーラしかいないわね……


「この人担いでもらっていいですか?」


 男の子はアルフに散々下ろせと言った直後に、今度はグアーラに対して担いでって……


「さっきは下ろせと怒鳴ってたくせに…… 」


 そりゃそうよね、意味が解らない……


「止血が済んだからですよ。いいから早く!」

「お、おう…… 」


 やっぱりさっきの出血量が減ったように見えたのは、錯覚じゃなかった、何らかの方法で、彼は、キアナの止血を行ったんだ。そう思ってると。男の子がこっちに寄ってきた。


「すいません!あの人を横にさせても問題ない大きさの机とか椅子があるところに案内してもらっていいですか?」

「ぇ!? あ、っはい!」


 どこだろうか、キアナを横にさせても問題ない場所って言うと、仮眠室だろうか?

 あそこなら、ベッドもあるし、ソファーにねかせても大丈夫よね。


「おい!ぼーず、どうすりゃいいんだよ!」


グアーラが、キアナを抱き上げていた。


「お姉さん早く案内して!」

「はい!こちらです!」


 男の子をすぐ近くにある、仮眠室まで案内すると、部屋に入るなり辺りを見渡している。

グアーラが部屋に入るなり


「ぼーず、ベッドに寝かせりゃいいのか?」


 そう言い放った瞬間、いつの間にか男の子の手には、倭剣が握られていた。男の子の背丈と大して変わらない長さの倭剣が、驚いたのはその後だった。


 背もたれとひじ掛け部分が床に転がった。男の子が仮眠用のベッドからシーツを取って来て、ソファーだったものにかぶせた。


「おいおいおい……いつの間に剣を抜いたよ……」


 グアーラのいうことは尤もだ、本当にいつ剣を抜いたの?


「こっちに寝かせて!」


 男の子が、グアーラを見てシーツをかぶせた台を指さしている。


 ローテーブルを挟んでもう1セットのソファーもいつの間にかただの台になっていた。本当にいつの間に剣を抜いているんだろうか?むしろ剣じゃない何かで斬ったのだろうか? 魔法? 先ほどと同様に、詠唱もなければ魔法名も口にしていない、魔法という線はなさそうだけども。


 キアナを台に寝かせたグアーラに対して、2台目の台を指さした。


「次着た人はこっちに」

「あぁわかった。」


 グアーラは、男の子の指示を聞くと、部屋を出て行った。

 次の子は恐らく、アルフの妹ファラだろうと予想が出来た。


「そこの姉ちゃんさ、暇ならこの子の服とか鎧を脱がせてくれない?」

「ぇ?」


 自分で脱がせた方が…… と思っていると、男の子が続けて言った。


「同性がやった方が問題ないでしょ? 早くする!」

「はっっはい!」


 一応、レディに対しての男の子なりの配慮をしているのね、言われた通りに、胸部の皮の鎧をぬがせて服を脱がせる、下も同様にしていると、男の子が、白い布をこっちに突き出して言った。 


「胸や、局部の部分にこれをかぶせて見えないようにしてもらっていい?」

「はい」


 男の子なら、獣人とは言え女の子の裸を見たがるものだと思っていたけども、彼はそこら辺のエロガキどもとは違うのねと思った。受け取った白い布を透けたりしないように何度か折、男の子の指示通りに、胸と、局部の上に被せてると、心なしか空気が変わった?


「出来ました。」


 男の子の方を見ると、上半身裸になっている。とても鍛えられているのが解かる。体つきをみるに、近接系のタイプだろう、先の剣技といい体つきといい本当に子どもとは思えない。


「ありがとうございます。」


 男の子はこちらを向き軽く会釈をするとキアナの横に立ち、傷口を見ている。改めてみると、これはどうやっても助からない傷に見えるけど……

 

 次の瞬間、男の子が、右手に何かを持った状態で、両腕をキアナのお腹の傷に突っ込んだ。

痛い、見てるだけでも痛い! キアナの痛みが伝わってきそうだった。普段裏の仕事上見慣れている傷だけど、傷口に手を突っ込むなんて正気の沙汰ではない、痛い痛い……絶対に受けたくない拷問だ…… そんなことを思っていると。


 グアーラが、アルフを連れて戻ってきた。アルフの腕には予想通り妹さんのファラちゃんを抱いていた。


「その子はこっちに寝かせろだと」


 グアーラがもう片方の台を指さすと、アルフは何も言わずに、ファラちゃんを台の上に寝かせる。ファラちゃんを見ると外傷は無いように見えるけど、呼吸のリズムが早い気がする。ファラちゃんからキアナの方に視線を戻すと、男の子がキアナのお腹を縫っていた。


 見たことのない弧を描いた縫い針?を使って器用に縫っている。どう見ても手馴れている。どう見ても子どもなのに、いったいどこでそんな技術を……


 キアナの対応が終わったのか、男の子がこっちを見て言った。


「すいません、こちらの子は、これで助かります。体を洗ってあげたりしてもらっていいです?傷口だけは気を付けてください。」


 確かに、キアナの呼吸のリズムが只寝ているだけのようなリズムに戻っているし、表情も柔らかい。


「はい」

「あぁ、運ぶだけなら俺が手伝おう」


 私は、ベッドから毛布を取り出し、キアナに巻き付けた。


「グアーラ、お願い」

「あぁ」


 そういうと、グアーラは、キアナを抱き上げた。

滅多に使われない、冒険者達がトラブルにあった時用の宿泊室でいいでしょう。


 ファラちゃんの対応をしている男の子の邪魔をしないように、部屋を出た。


 部屋を出るなり、グアーラが口を開いた。


「あいつどこの冒険者だ?」

「知りません、私も初めて見ました。あの格好をした冒険者はこのあたりに居なかったと思います。」

「だよな、あの格好は目立つからな、ただあの剣と恰好を見る限り、秋津だろう、あいつの技、秋津じゃ居合抜きと言われる技だったはずだ」

「そういえば、グアーラは秋津に行った事があるんでしたっけ?」

「というより、あっちの方出身だからな」

「あぁ、噂の浮遊大陸ですか?」

「あぁ、なんとなくだが、あいつは強いぞ、あの体で、いつ抜いたのか分からない剣技、上には上が居るって事をあらためて思い知らされる」


 それは確かに思う、私としては、武としての強さではない、あの大けがをここまで回復させるのは、人体に関する並外れた知識が必要だろう。あの怪我を治す技術は、この先、どこの国も欲するはずだ、あの子の技術は、この大陸でも最上位だろうとそんな予感がした。


「ただなぁ、あいつの面影がなぁ……」

「どなたか知り合いに似てるんですか?」

「あぁなんとなくだが、カレンの面影がある。」

「すると、父親はサントですか?」

「あぁ、あの二人の子どもなら、あの顔立ちというのは納得する。それに、サントが、秋津で、あの着物を買っていた記憶があるからな」

「グアーラは、2人と長い間パーティーを組んでましたね」

「あぁ、だが、問題はキアナの怪我を治した腕だ、あいつら二人とも医術には縁が無かったからな、戦うか食うか寝るって生活が大好き人間の2人の子とは思えない部分もあるが」


 堅牢のサントに、深紅のカレンですか、懐かしい名前が出てきた。

 確かに彼らの引退時期は、7~8年ほど前それを考えれば、あの子位の男の子が居ても不思議ではないが、やはり、グアーラの言っていた通り、どこから医術の知識と技術を学んだ? 彼の周囲に師匠になる誰かが居たのだろうか? 疑問は尽きぬまま、目的地に着いてしまった。


「なぁ、リア、もしあいつが冒険者登録するときは教えてくれ、俺も試験に立ち会いたいからな」

「まぁ、あなたならマスターもノーとは言わないでしょうけど、伝えておきますよ」

「すまんな、恩に着る、ベッドに寝かせればいいか?」

「えぇ、お願いします。」


 そう伝えると、グアーラは、毛布にくるまれたキアナを優しくベッドの上に寝かせた。


「それじゃあ、俺は宿に戻るわ」

「遅くまで付き合っていただき、ありがとうございました。」

「それは俺に言う事じゃない気がするぞ、今日の主役は間違いなく、あの坊主だからな」

「そうですね」

「じゃあな」


グアーラは、片手をあげたので、私は深々と頭を下げた。


「えぇ、またね」


 グアーラが出て行ったあと、キアナの身体を拭きながら、今後あの子がどのような道を歩むのかがとても気になった。


 一通り彼女の世話を終えたのち、男の子の居た部屋に戻り、扉を開けようとすると。


『まって、リア、あの子は、もう寝てる開けないほうがいい』


 今日は、本当におとなしかったセシルが私の手の上に乗ってきた。

 ファラちゃんの対応は終わったのかな?


 確かに夜も遅い、あの子位の年齢なら既に寝ていてもおかしくはない時間帯だ、しかたない、明日の朝改めてお礼を伝えに行こう。そう思ってギルドマスターの部屋に報告に行った。

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