第11話 終戦

 壁の中に入ると、崩れた壁が元に戻った。自動ドアならぬ、自動壁?不思議に思ってると、近くの壁の上に、ミアンがいた。


 なるほど、彼女の魔法によるものか、アンナが親の所へ走っていった。


 かすかに血の匂いがしたが、今はこの村が戦場だから仕方ないのかと思った。


 近くに居た大人が、母親のもとに案内してくれた。


 村長宅の中に入ると、血の匂いが濃くなってきた。


 案内された先には、10名以上の重傷者たちを看病している部屋だ、その重傷者を看病している女性たちの中に母親が居た。


 目の前に居る重傷者を見てると、かつては救命救急センターで活動していた時の感覚が蘇った。


 目の前の人たちを助けよう!神の手を使うというのは忘れ、実習時代に買った手術の練習セットは、生涯持っていたおかげで簡単な手術道具一式はあった。


 縫合用の糸は、釣り糸で代用しよう、ぱっと見た感じどの患者も裂傷だ、深さに違いがあるだろうが、一番の重傷を負ってそうな者のもとに駆け寄った。


「どうしたのナット?」


 自分に気づいた母親が不思議そうな顔をしてこっちを見た。


 気にせずに、まずは1人目の対応を始めた。


 道具管理してくれるオペ看護師が居なくても自分が思ったメスやらをイメージするだけで手元にメスやらの道具が現れる。


 1人目の対応をしていると周囲の大人達がざわつく。


 1人目の終盤、既に縫合針に糸が通した状態で現れた時には驚いた。


 さささっと縫合して1人目を終えて2人目に取り掛かった。


 どれだけ時が流れただろう、父親を含めて、すべての怪我人たちの対応が終わった。


「ふぅ~」


 一息つくと、周囲に大人たちがいた。


 そして後ろから声がした。


「ほぉ~それが神様と呼ばれた医術か」


 後ろを振り向くとミアンが居た。


 彼女は、続けて言った。


「さすが師匠も認めた。子だの」


 師匠?誰の事だ?


「ミランダちゃん、何か知ってるの?」


 母親が、ミランダ?に質問した。


「師匠から、ある程度の事は聞いている」


 母親の問いに対して、ミアンが答えた。この時ようやく理解した。師匠=大婆様ミアンである事、そして若返ったミアンは、ミランダと名乗ってる事を、そりゃ、老婆が少女になっってミアンと名乗ってもだれも同一人物だと思わないだろう。


「ナットは使徒様だ、それは今の医術を見て確信した。」


ミランダの答えに対して、“うちの村から使徒様が”“こんな小さな子が?”“嘘だ”など色々な発言が聞こえてきた。まぁここまでやっちゃった以上仕方ないな。


『そりゃねぇ~君の医術は凄いね~神の手を使わずとも、あそこまで出来るんだね~』


 この時初めて、あ~そういえば神の手なんて便利なものがあったなと気づいた。


 どちらにしても、注目されるのには変わりはないか……


 ただ、この程度の事で、“あそこまで“とか言われても困る。


 脳外科にいたら、この程度の技術は初歩の初歩だろう、この世界の医療技術がいつか、そのレベルに達してくれるとは思うが、それはどれだけ先の事なんだろうと思った。


 戦に医療行為と続いたせいか眠い、緊張の糸が切れたからだろうか、凄い睡魔に襲われた。


「さて、サントとカレン明日の朝、師匠の所に来てくれないか?師匠から預かった伝言を伝えたい」


 使徒だと発覚したことで、戸惑いを隠せぬ両親、村人たちも同様だった。


「えぇ、わかったわ」


 母親の返事を聞いて、睡魔に勝てずに目を閉じた。


◇◇◇◇◇◇


 目を覚ますと、見慣れぬ天井だった。

 

「ここは?」

「プゥ~~」


 体を起こすと、横に子ボアが居た、自分が、目覚めたのに気づくとどっかに行ってしまった。


『ミアンの家だよ、既に両親と話をしているよ。』

「ん、もう翌日なの?」

『丸1日は寝てたね~』


 空腹感は、あまりないけどそんなに寝ていたか、国境付近の兵士たちは!?


『国境付近に居た兵士たちは?』

『すでに撤退したり、殺されたりしてるね、理由は、先発部隊が全滅、1つの村を落とすだけだったのに全滅とかありえないからね~』

『時間稼ぎは出来た感じか』

『そうだね~また来るかもだね~』


 村を出たらとりあえずは、ジャッスエイに行くか、村の脅威を潰さねばならないな、そんなことを思っていた。


「目覚めたか、ずいぶん長い事寝ていたが大丈夫か?」


 声のした方を見ると、真剣な表情をした父親だった。


「父さんおはよう、大丈夫だよ」

「そうか、そりゃよかった、ミアンにある程度の事は聞いた。お前は、これからどうしたい?」

  

 “ミアンに”と来たか、若返った事を含めて全て話したのか、どうしたいか、どこまで話すべきだろうか? 


「いつかは、世界中を旅したいかな、何かで世界一になりたい、それに…… 」


 医療で世界1実質この世界で、知識や技術に関してはトップだろう、それじゃあ面白くないし、せっかくなら武道とか解りやすいものでなってみたい。


「それに?」


 親が、信じる信じないは別として、正直に話した。


 生前この世界の医術より、はるかに技術進んだ世界で、医師として生きた事、そして、この世界に彼女と再会するために転生した事等をすべて伝えた。


「まぁまぁ!好きになった女の子に会う為に、違う世界にきてまで!ロマンチック!」


 父親と話していて気付かなかった、部屋の入口にミアンと母親が立っていた。


「ミアンの言う通りだったな」

「そうね」


 父親と母親が今の話で何か感じるものがあったのだろうか?

 ミアンから何を聞いているんだ?


「使徒様は基本的に、この世界に来る前の記憶を持っている。かつていた世界での知識や技術をこの世界に広めてもらうために呼ばれているそうだ」


 へぇ、そうなんだ、と思ってるとヒスイが横から付け加えてきた。


『概ねそのとおりだね、この世界に呼ばれる人は、生前なんらかのとがった知識や技術を持っている人が対象だからね、君の先祖様は、当時混沌としていたこの世界を正すための戦う力がきっかけだったかな?』


 先祖は強い人だったのか、生前、祖母から、薩摩の武家の家系だったと言うのは聞いた事があったが、


『もし自分と茜君に使命があるとしたら医療技術・知識をといったところか?』

『だろうね~、私もネア様からある程度は聞いていたけど、実際に見るとね、それに君の実力はまだまだ先なんでしょ?』

『まぁね』


 これからどんな事が待ち受けているかわからないが、医療道具は色々そろえておいた方がいいかな、点滴、注射器あたりは必須になりそうだ。


「ナット?」

「あぁごめん、聞いてなかった」


 父親の話を、ヒスイと考え事で聞いてなかった。


「大精霊様と話しているのか?」


 あぁ、それも知っているのか。


「そうだよ、ヒスイっていうんだ」

「そうか、とりあえず、冒険者になるにしても、5歳からだ、5歳の誕生日までのあと2年この村にいとけ、基礎知識と、剣の稽古は俺が付けてやろう」


 ん?狩人なのは知っているけど剣の稽古?


『あ~ナットのお父さん結構強いよ、元冒険者だね』


 以前ヒスイが両親ならグレーダーボアを単身で対処できるとか言っていたのを思い出した。


「父さん、元冒険者だったの?」

「大精霊様に聞いたか、真実を見る眼は誤魔化せんな、そうだ、俺と母さんは元冒険者だ、友のわがままをきっかけに引退しこの村に移住してきたってとこだな」


 わがままというのが気になるが、両親が元冒険者だった事に驚いた。


『ヒスイの真実を見る眼ってなに!?』

『まぁ、人間たちが持っている鑑定の上位版みたいなものだよ、精霊種のみが持ってる眼かな』

『あぁそう、初めて知った』


 とりあえず、実戦経験豊富な先人からの指導は歓迎だ、自分の剣術は、型にはまったものだろうし、試合前提の物だからな、この2年間みっちり実践向けに自分を鍛えればいいかと思った。


「わかった、父さん、指導お願いします」

「あぁ、母さんからは槍と弓を学んどけ、使う使わないにかかわらず、為にはなるだろう」

「うっふっふ、久々に腕が鳴るわねぇ~」


 この2人の間に生まれたのも意味があったのだろうか?

 武道は楽しい、自分自身の実力が上達しているのが分かるから、旅立つ前に両親にみっちりしごいてもらおうと心に決めた。

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