第8話 幕間 ミアンと予知

ミアン視点


 ネア様一行に命を助けられた日の夜、私は夢を見た。



◇◇◇◇◇◇



 秋津様と似た顔立ちの青年が目の前に居た。


「ミアン、悪いんだけどブルーローズの花びら数枚分けてくれないかな?」


 ブルーローズ?私が管理しているのだろうか?


「かまわないよ、持っていきなさい」

「すまないありがとう」

「ナットよ、何に使うんだい?」


 彼は、ナットという名前なのね、雰囲気は全く違うが声と見た目は秋津様によく似ている。

 心なしか私の声が今より若い気もする。老婆の様な喋り方なのに若い少女のような声だった。


「そうだな、この先黒死病が蔓延するかもしれない、その為に抗菌薬に使う、ミアンもできたら抗菌薬を量産しておいてほしい」

「黒死病……、あんたが言っていたペストだね」

「あぁ、北にあるヘインズ王国でそれらしき患者がいたからね、おそらく商隊なんかが菌をばらまいて行くとおもう」


 ヘインズ王国……、ヘインズ、そんな国は無いが大陸の北西部にそんな街が有ったきがする。


「わかった。用意しておこう、必要になったら取りにおいで」

「あぁ、すまない恩に着る。それじゃあ町にもどるよ」

「あぁ、結界の所まで送っていこう」


 彼を結界の外に送る際、建物から出ると、花壇にブルーローズが所せましと生えていた。ここは……?ブルーローズがある。エルフィン王国国内のドライアド大森林でもない、どこか違うところだ。私が管理しているの?


 彼の背中が見えなくなった時夢から覚めた。


◇◇◇◇◇◇


 今の夢はなんだろう?

 妙にリアルだった。とても気になり、ネア様達がいる教会に足を運んだ。


 ネア様とソラリス様が怪我人の介抱をやっていた。秋津様はこの場にいなかった。


「あら?あなたは昨日の子、どうしたの?」


 私の姿に気づいたネア様がこちらに来た。


「ネア様、秋津様はナットと呼ばれることもあるんですか?」

「ナットはないね、ノリって呼ぶことはあるけど、どうしてそんなことを?」


 私は、夢の内容をネア様に話した。


「予知夢かな?」

「だろうね、君予知スキルが身付いているよ。昨日は無かったと思ったけど」


 ネア様の疑問に、ソラリス様が答えてくれた。


「ねぇソラリス、ノリに似た青年って部分が、凄く気になるんだけど調べてもらってもいい?」

「仕方ないなぁ、ネアの頼みだし見てくるよ、しばらく離れるよ」

「いいよ、えっと……」


 ネア様がこちらを見て首をかしげていた。


「ミアンです」

「んじゃ、ミアンちゃんソラリスの代わりに手伝ってくれる?」

「はい」


 この人達の役に立てるなら。そう思い手伝いはじめた。


 その日の夕方、ネア様の使いと名乗る女性が私の泊っている宿に来て、「ついてくるように」と言って来た。女性の後について行くと、ネア様達の天幕に通された。


「来た来た、ソラリスが帰ってきたから、ミアンちゃんも一緒にとね、ノリ君ももうすぐ来るだろうし」


 ネア様がそう言った瞬間天幕の入口からこの世界でこの人しか着ていない衣服を纏い腰に細い剣の様なものを挿した1人の男性が入ってきた。


「すまん、待たせた。なんか面白い話が聞けると聞いたが……」


 秋津様がいた、夢で見た人と本当にそっくりだ、雰囲気が夢の中の彼はとてもやさしい感じがしたが、目の前にいる秋津様は、歴戦の戦士といった感じで優しい感じはあまりなく少々怖いって思う。


「待たせたね、ってノリも来ているのか」

「私が呼んだからね、関係ある事って言っていたよね」

「あぁ、間違いなくノリに関係あるね、エルメダは呼ばないのか?」


 エルメダ様は未だに見た事がない、嵐のような方と噂で聞くけども、


「あの子も関係あるの?遊びに行ってくる~とか言ってどこかに行っちゃったんだよね」

「無くはないが、またどこか攻め落としにいっているのか……」

「そんな感じじゃないかな?まぁ話してよ。」

「そうだな、ミアン君が見た夢の中に出てきた。ナットと呼ばれた青年の事だけど、この世界に来る前の名前は秋津直人って名前だったようだ、そしてノリ、あんたの子孫だ」

「お!?」


 秋津様は凄く嬉しそうだった。


「そっか、残してきた嫁が気がかりだったが、子もお腹に居たんだな、無事育ってくれるって事だな」

「そうだね、ノリとは全く違う時代で戦の無い世界から来たらしいんだけど、彼の医術の腕前が凄かった。色々な病に対して的確に対応していたよ。そして未来の私から聞いた事だけど、どうやら彼は、神様と呼ばれた医師だったようだ」

「戦の無い世界か……戦いの腕はたいしたことないのか?」


 秋津様は少々残念と言った表情だ、そう言えば、夢の中でも黒死病について話をしていたのを思い出した。


「いや、ノリと同じ縮地を使うし見えない居合の使い手だったよ」

「ほぉ、それよりソラリス、戦の無い世界というのは本当か?」

「あぁ、言っていたよ、国内じゃもう100年以上戦の無い世界だと、君の人斬りも戦の無い世界に貢献したのかもしれないね」


 その言葉を聞くと、秋津様の目からは涙が溢れていた。


「そうか……、孫の世の為子孫の世の為、太平の世を作るためにと思い、人を斬り続けたが、そうか……、俺のやってたことは無駄じゃなかったんだな……」

「あぁ、それからミアン」

「はい?」

「人狼騒動が落ち着いたら君は、この国を出て西の地に行くといい、君が見た夢は現実になる。」

「ぇ?ブルーローズの事ですか?」

「あぁ、君は人の手で初めてブルーローズを育てる事に成功する。予知を使いながらいろいろ試行錯誤するといい、君の功績は、我々と違う形でこの大陸の人達を救うことになるから」


 ブルーローズを育てることに……、とてもじゃないが信じられなかった。なぜならブルーローズはドライアド達が育てているという噂があるからだ、これまで何人もの先人達がブルーローズを育てる事に失敗してきた。


 予知を発動させてみると、確かにどれだけ先の未来かわからないけど、自分の手でブルーローズを開花させているのが見える。その時もこことは違うどこか、夢で見た場所に酷似していた。命を救ってくれたネア様達に恩返しとして出来ることが無いなら、せめて秋津様の子孫である彼の為に薬草を用意しよう。


「わかりました。騒動が落ち着いたら西に行ってみます」

「あぁ、そうするといい」


 この後ネア様一行と少しおしゃべりしこの日は別れた。


 数日後ネア様達は人狼騒動終息に向け、他の街へ旅だった。


 彼らが旅立った数年後、人狼騒動が終わった事が大陸中に広まった。


「私も旅に出よう」


 こうして、秋津様の子孫と出会うべく、故郷のエルフィン王国を後にした。

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