第6話 ヒスイの願い

 大婆様の後について、家の中へはいると、フラスコの様なものやビーカーの様なものなど、小学校の理科室にある道具がたくさん並んでいた。この時代に有っていいものなのだろうかとか思った。


「そこに掛けなさいな、その子はグレーターボアの子かい?」


椅子に座る様に言われた後、抱いているボアの子を見てそう言った。見えているのかな?と思っていると。


「長く生きてればそれ位は、分かるよ」


 それだけ言って、奥の部屋に姿を消した。


『彼女は、鑑定を持っているしね、それに珍しい予知スキルも持っている』


 その予知とやらが、自分を呼んだのと関係あるのか?


 大婆様が奥から皿と2つのコップを持って戻ってきた。


「ボアの子を床に下ろしてこれを飲ませてやりな」


 そう言って、ミルクの様なものが入った皿を自分の前に出してきた。


 自分は子ボアを床に下ろし、皿を子ボアの前に置いた。


 すると、子ボアは勢いよく飲み始めた。


「飲めるようだね、安心したよ、おまえさんの分もあるから飲みな」


そう言って、大婆様は自分にコップを差し出してきた。椅子に座り、1口飲むと。


「呼び出してすまなかったね、君とはまだ話をしたことが無かったね、私の名前は、ミアンだ、よろしく」

「ナットです。よろしくお願いします」

「ナットとやら、早速で悪いんだが、秋津直人という名に聞き覚えはあるかい?」


 自分の生前の名前を出されて、心臓が飛び跳ねるように驚いた。


「それは、自分の生前の名前です」

『ヒスイ!鑑定でそこまでわかるの?』

『ん~それは分からないはずだけど……』


分からないはずなのに、なぜわかるのか不思議に思っていると。


「そうかい、やっと会えたよ……、長かった、本当に長かった。これでようやく恩を返せる……」


 そう言うと、ミアンが泣き崩れた。


 自分はどうする事も出来ず、ヒスイと共に、ミアンが落ち着くのを待った。


 数時間の時が流れたと思う、長い事少女の様に泣いていたミアンが、落ち着いて自分の生前の名前を知っている理由を教えてくれた。


「みっともない所を見せてすまないね、ナットの名前を知っている話をしようか、私はね、700年前に、あんたのご先祖様に、この命と当時住んでいた里を救われたんだよ」


 先祖?先祖もこの世界に来たのか?


『秋津則宗、君の7代くらい前の先祖様だね、500年位前まで、ネア様、フェンリルのソラリス様と古代竜のエルメダ様の4人で、この世界を旅していたんだよ。多分その時の話じゃないかなぁ』

『へえ』


 そうなのか、何故先祖もこの世界に来たのか気になるけど、ミアンが話をつづけた。


「ここからはるか東に、エルフの国がある。私はそこの生まれでね、600年ほど前この大陸は、人狼どもが侵略していたのさ、私の住んでいた国も殆どの町や村が襲われた。私ら生き残りは、最後の城塞都市まで追い詰められ、街の中に人狼どもがなだれ込み、私も死を覚悟した時に現れたのが、秋津様とネア様の一行だったのさ、それからは、この大陸全土を人狼どもから解放してくれてね、私は命を助けられた恩が忘れられず何か出来ることはないかなと思っていた時、夢を見たんだよ。ナット、あんたと出会う夢を、そして翌朝に、予知スキルが身についていたのさ、すぐにこのことをネア様に伝えたよ、そしたらその日の夜ネア様の部屋に呼ばれて、フェンリル様が来た時に「そっか、ノリ君の子孫もこの世界に来るのか~」と仰っていてね、その時に、君が秋津直人という名を持っていることを聞いたんだよ」

『どういうこと?どうしてそれを知る事ができたんだ?』

『フェンリルのソラリス様は、時の大精霊クロノスを使役しているからね、それで知ったんじゃないかな。ちなみに、君が、ちび助って言っていたメグちゃんのお母さんだよ』


 予知で未来を見て、フェンリル様が時の精霊の力で確認をしたってところか?


 ヒスイは、それを言い終わると、ケラケラ笑っていた。メグちゃんのお母さんか、メグちゃんは凄く可愛かったからなぁ、さぞかし美人なのだろうなぁとか思った。


『まぁ縁があるはずだから、会うのを楽しみにしているといいよ』


伝えたいと思ってない事も読むのは止めてほしい!


「その予知で、ナットと会う事は知っていたからね、せめて君が無事に成長する事を見守り力になれるようにと思って、彼らと別れた後この地に来たのさ、さて、昔話はここまでだ、ついておいで」


 ミアンについて行くと、先ほどの薬草が生い茂っている花壇に戻ってきた。


 ヒスイは花壇の薬草を見ながら考え事をしている様子だ。


「私は、もう長くない、3日後以降の予知ができないからね、だからナット、ここに在る薬草を持っていきなさい、必ずあなたの役に立つだろう、フェンリル様は、仰っていた。君が神様と呼ばれる医術を身に着けていることを、だから私は生涯をかけてここの薬草たちを育てたんだよ。それが秋津様にたいする恩返しだ、いいかい、この村はもうじき襲われる。この大陸再び戦火に呑まれるかもしれない。その時君の医術を必要とする人達がたくさん出てくるだろう、だから…… ゲッホッゲホッ」


 かなり声を張っていたからだろうか?ミアンは。咳き込んだ。その時、花壇に居たヒスイの身体が淡く光りだし


「まって!ナット!この人に命を与えて!私からのお願い!」


 いつもの頭に響いてくる声じゃなく、声だ、ちゃんと声をだしている。


「こりゃ、君の近くに精霊の気配を感じていたけども、ドライアド様ですね、最期にお会いできて光栄です。」

「最期なんて言わないで!あなたがどれだけの想いを込めてここの薬草たち育てたか、薬草たちを見れば良く分かる!並々ならぬ努力をしてきたことが!10年20年というレベルじゃなく!本当に何百年という長い時間をかけて!本当によくやったと凄く褒めたい!叶う事なら、ミアンあなたを神の1柱に推薦したいくらいに!」

「ほほほ、それは、精霊様にそこまで行って頂けるのは、本当に光栄の至りにぞんじますなぁ、しかし、私の命はもう長くはない、ここまで生き永らえた事も奇跡というもの、それに寿命を与える事が出来るのは、創造神様だけでしょうに」

「ここにもいる!ナット!だからお願い本当に……」


 そう言って、ヒスイが顔を覆って膝から崩れた。本当に泣いているように、精霊も泣くという事を初めて知った。3年間という短い期間でも、いつも自分の側に居てくれたヒスイの望みだ、叶えてあげたいが、本人が拒否したら、ヒスイの願いを叶えてあげる事は出来ないと思った。


「だそうです、ミアンさん、もし望むなら命を与える事ができますが、どうしますか?」


 ヒスイは言っていた。彼女の死の原因が老衰だと、それならば若返らせればいいと思った。


「そうですね、精霊様にここまで言わせて拒否する訳にはいきませんなぁ、願わくば、ナット、生きて君の力になることを望みます」


 そこまでいうと、ミアンは、自分の前で跪いていた。


「ハイエルフが大人と認められるのは何歳?」

「16だよ、見た目はまだ少女だけど、16歳から大人と認められる」


 ヒスイが、泣きはらしたような顔でこっちを見ていた。


 16歳にしよう、約900歳の若返りかと思った。


『若返らせるついでに君が持っている、適正武器も付けてあげて、ハイエルフは奴隷商とかに狙われやすいから、せめてもの身を守る術を』


 適正とかも調整できるのか、とりあえず、ヒスイの望み通り、16歳に若返らせ病気になりにくく丈夫で健康的に過ごせるようにイメージしつつ、適正武器を全種にした。


 目の前のミアンが、みるみると若返り、身長も少し小さくなり、お肌すべすべの少女になった。


ミアンは、若返った自分の手を見て驚いている。


「ミアン、私からのプレゼントもある、上位の精霊をつける、今度はちゃんと、弟子を作りなさい、あなたの知識と技術は途絶えさせちゃダメ!もっと広めて!それだけでも助かる命はいっぱいあるんだから!」

「上位精霊…… すると、大精霊様でしたか…… 」

「そうよ、今は、ヒスイという名前がある。薬草を育てるうえで、精霊達がいれば、今よりも大分楽になるはずだから、本当に頑張ってね!」


 ヒスイが言い終わると、ミアンの周りに複数の緑色の光の玉が現れた……何体つけるんだろう?10や20じゃ足りない、50くらいの緑色の光の玉がミアンの周囲をふよふよと飛び回っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る