第5話 大婆様

 家に帰るために森を抜けると、空には灰色の雲が流れている。

嫌な天気だなと思いながら、子グレーダーボアを抱きかかえながら帰宅すると、父親と母親が自分を待っていたようで、駆け寄ってきた。


「ナット今までどこに行っていた?」

「ちょっと森の中に」

「おまえが抱きかかえているのは、ボアか?」


 ボアです!と言うべきなのか?魔物だと思わないのだろうか?


『ボアは、動物なんだけどね~見た目も殆ど変わらないからね~区別つかないんだろうね』

「森を入ってすぐの所でウロウロしていたから連れてきた。」

「そうか、このあたりにボアも居るのか、まぁ将来肉にするなら飼うのも構わんか」


 食べねぇよ!と思ったが、まぁ飼う許可は下りたようだ。


「たべないよ!ところで何かあったの?」

「あぁ数日前に森の奥でヴェンダル兵目撃したのと、先日来た商人からの情報で、近々ヴェンダルがこの国に侵攻するかもしれないって話があってな、何かがあれば、村長宅に避難する事になった。」


 グレーダーボアを、この森に流した理由はこれか、ボア共に村人掃除させようとしていたのか?


「大婆様曰く、3日以内にこの村が戦火巻き込まれるだろうと予言していたからな、お前も何かあったら大婆様の所か、村長宅に逃げ込めよ。」

「わかった。」


 大婆様は、この村が出来た頃から居る年齢不詳のお婆さんだ、なんでも村人の出産時には駆けつける産婆さんだったり、病気やケガの度に、薬を提供してくれているらしい、自分も何度か見かけたことはあるが話したことはなかった。


『何度か見かけた事あるけど、ケガとか病気しないから話したことないな』

『そりゃ~君には絶対健康があるからね~ケガしてもすぐ治るしね。』


 だろうな、とは思っていた。3日以内に侵攻か、自分はどう動くべきだろうか、ゲーム的な考えをするなら、イベントだよなと思った。


「ナット、お前大婆様の所に行ってこい、なにやらお前と話がしたいと言っていたからな」

「どこに居るのか知らないんだけど……」


 世話になった事がないからどこに住んでいるのかも知らない。


「そういや、お前は病気もしなきゃケガもしないから行った事がないか、村をでて直ぐ左側に細い小道があるからそこをずっと進んでいけば大婆様の家に着く、街道にでたら行き過ぎだ、その時は戻れ、父さんと母さんは避難の準備をしているから、行ってこい」

「ほ~い」


 子グレーダーボアを抱いたまま家を出て大婆様の家に向かった。


 村を出て直ぐに左側に小道があった。


小道を進んで行くと、違和感に襲われた。


『ん、かなり大きな結界がはってある。』

「結界?」

『うん、自分が認めた人以外はいって来れない結界だね』


 何のためだろうか。認めた人以外って辺り、自身の身を守るためだろうか?


「結界って簡単にできるの?」

『ん~この結界はエルフが使う結界なんだよね~術自体は簡単で魔法ではないんだ、錬金術の一種だね、特定の植物を媒介にして結界を張るんだよ。』


 日本にもしめ縄とか色々な物が結界の媒介になっているし、何でもありなのかな?


 違和感を覚えた場所から、さらに30分程歩くと、ようやく大婆様の家らしき建物が見えてきた。


 近寄っていくと、たくさんの花壇が並んでいて色とりどりの草花が生い茂っている。


『わぁ~薬草だらけだ、この環境で育ちにくいのもいっぱいある!植物の事が好きなんだな~♪』


 ヒスイが凄くご機嫌だ、自分からしたら、どれが薬草なのか全く分からなかった。

 

 同じ品種のようなものでも赤と黄色があったり、紺色の彼岸花もあれば、青いバラもあった。


 青いバラって、自然界に存在しないと聞いたことあるけど、そこはファンタジーならではなのか?


『青いバラと紺色の彼岸花はね~エリクサーの素材なんだよね~人の手で育てられるものじゃないと思ったけど、結界といい、この薬草の種類といい、ここに住んでいるのはエルフで錬金術に精通した人だね~』

「錬金術と植物って結構繋がりがあるのな、ヒスイと最も相性が良さそうだね」

『薬を作るのは錬金術なんだよ~君のお供に選ばれたのは、それが理由でもあるんだけどね~』

「どゆこと?」

『君の医術を一番サポートできるのは私だからね~薬に関しての知識があっても、この世界での薬草は全く知らないでしょ~君が薬を必要とするとき必ず私の力が必要になるよ!』


 ヒスイが、ドヤァ!といったかんじでポーズを決めている。


 確かに、科学物質がないなら、植物で何とかしなきゃならないだろうし、そうなればヒスイが一番頼りになるのは間違いないと思った。


「まぁ、その時はよろしく頼むよ」

『ふっふっふ!頼まれました!』


 薬草園を見ていると、奥の建物から緑色のローブを着た。老婆が出てきた。


「ほっほっほ、やっときなすったか、こっちへおいで」


 老婆を見ると、なんとなくだが何とかしなければという想いがあふれてきた。生と死に直面している患者を見ているような感覚だ。とりあえず、老婆の後をついて行く。


『へぇ~900歳を超えるハイエルフだ~』

『900歳?そんなに生きられるものなの?』


 相手に聞こえないように念話に切り替えた。


『そうだね~人種最長寿のハイエルフでも900歳越えるのはかなり珍しいよ、それに……彼女は、あまり長くない、寿命が尽きかけている』


 そうか、さっきの何とかしなければって想いがあふれてくる理由が分かった。


『なんかの病気?』

『ただの老衰だね……』

『そっか、薬草を育てる知識とか途絶えるのかな?』

『そうだね~お弟子さんとかいて技術を伝えているならだけど…… 青いバラに関しては正直難しいんじゃないかな、あれは本来私達がいて出来るはずのものだから…… 』


 青いバラか、そんなに難しいのかな、“本来私達がいて出来るはずのものだから”という部分が凄く引っかかった。


 大婆様は、この先自分にとってかけがえのない存在になるそんな気がしてならなかった。


『多分そうなるよ……』


 ヒスイが、凄く悲しそうな小さな声でボソッと言ったのを聞き逃さなかった。

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