第4話 神の手
グレーダーボア2頭をどうするか、食用にするとしても解体しなきゃダメだと思った。
以前、北海道に行った時に鹿の解体を体験したことがあるが、イノシシは初めてだと思った。同じ4足歩行の動物だし鹿を解体したときと同様にやってみようと思った。
まだ息のあるグレーダーボアは後回しにして、真っ二つになっているグレーダーボアのほうへ行った。
真っ二つだし通常解体ではないよなと思い、最初に皮を剝いでいくかそう思いつつボアに触れた瞬間、皮と肉が分離した。
「ふぁ!?」
驚いたからか変な声がでた。
自分の動きを見ていたヒスイが自分に寄ってきた。
『どうしたの?解体するんじゃないの?』
ヒスイが、何をしているの?と言った表情で自分を見た。
「いや、触れた瞬間に肉と皮が分離したからビックリした。」
『あ~神の手が発動したんだね~、そういえば今まで使っているのを見たことないね~、使い方とか知らないのかな?』
誰からも説明を受けたことが無いから知っているはずがない。
「創造神が、私と同じことが出来るって言っていた位しか知らない」
『そかそか~、それじゃ説明するよ~、君が出来るのは、対象に遺伝子が存在するって事が条件だね、条件さえ満たしてれば結構好きに出来るよ。対象の情報読み取りと改変が、神の手の力だね~』
遺伝子が存在するものという事は、人・植物・動物・菌もか?
「遺伝子が存在ってことは、菌もか?」
『もちろん!人だって若くしたりもできるし~年を取らせることもできるし~性別の変更だってできるし~ふっふっふ死者蘇生ですらできちゃいます!ほんとに色々できちゃいますよ。』
性別変更に、永遠の18歳が出来るとか、過ぎたる力は~と良くいうがトラブルに巻き込まれないかが心配になった。
「そんな力、自分が持っていいの?」
『そんなのいいに決まってるじゃん、君は生前多くの人達から、神様と呼ばれるようになったでしょ~そのスキルは、生前君が行ってきた事を考慮された上で与えられたんだよ~』
どちらにしろ、あまり知られてはいけない力だな、知られてろくな事がなさそうだ、人目に注意して使っていこうと思った。
とりあえず今は真っ二つのグレーダーボアの解体作業を始めた。
使ってみると思った以上に便利だった手を汚さずに解体が進んでいった。
『魔石は色々な用途があるからね~忘れずにね』
「魔石?」
『君の足元に落ちてる緑色の綺麗な石の事だよ』
足元を見ると、確かにビー玉サイズの小さな石があった。魔石をアイテムボックスに放り込み、臓器や骨は穴を掘り地面に埋め、肉と皮だけアイテムボックスに入れていった。
1頭目の解体が終わり、生きているグレーダーボアの方へ移動した。
せっかくだから、色々試させてもらおう、生きているうちにやると命を弄ぶ感覚があるので、命だけは先に奪おうと思った。
最初に苦しまないように、血抜きをイメージしてグレーダーボアに触れた。
すると、今まで動いていた巨体が、ピクリとも動かなくなった。
「血抜き出来てる?」
正直見えないから解らない、感覚的には出来てると思っているが、ヒスイに確認を取った。
『できてるよ~』
まず何から試そうかと悩んだ末、見た目すぐにわかる退化にしようと思った。
子どもにしてみよう、と思った瞬間から、みるみる小さくなっていき、体高が20㎝位になった。
『もったいない~食べられるお肉が小さくなっちゃった』
お前は、食べないだろ、と心の中で突っ込みを入れた。
ヒスイの食事は、自分の体内にある魔素で良いらしい、今まで他のなにかを食べているのは見たことがない。
『そりゃ食べないけど、もったいなくない?』
今の実験で年齢の変更が出来るのは分かった。性別は、動物にやっても見た目があまり変らないしもっと分かりやすいことをしたい、次は何を試そうか迷った。
『斬った肉とか、血を戻して命を吹き込んでみたら?』
「ぇ?」
たしかに、動き回ればそう言った能力があるとわかるが、生き返らせたら襲われる未来しか見えなかった。
「生き返らせたら襲われるじゃん!」
『それなら記憶の改変をすればいいじゃん』
「記憶の改変ってできるの?」
『やってごらん、この子の記憶も見ることができるはずだよ』
ヒスイは、横たわっている子グレーダーボアの身体をぺちぺちと叩きながら言った。
先ほど小さくした、グレーダーボアを抱えながら、記憶を見るようにイメージすると、この子が経験した事が映像のような状態で見えた。
それも、その時の想いなんかも伝わってきた。
森の中に居たら、背後に火の手が上がり、土の壁に沿ってヴェンダル領の森から、十数頭単位の群れで、この森に誘導されているシーンが見えた。そして最期に自分に斬られ、激痛で思うように体が動かせない状態で、強い恐怖心と絶望を感じていた。ごめんな、本当にごめん思わず内心謝ってしまった。
『見えた?』
「あぁ、土壁で、こっちに誘導されてくるシーンも見えた。火から逃げるようにこっちに来たのが分かったけど、何のために?」
王国兵は何のためにこんなことをしているんだ?
『今大人達がそのことについて話をしているよ、数日前にこの先で王国兵を目撃したのがきっかけみたいね』
ヒスイの盗聴能力が凄い、植物のある所ならって条件付きだが、おそらくは村長宅に何らかの植物があるんだろうなと思った。
『そりゃね~木材は植物だし』
村のすべての建物が、木造建築なんだが?村人にプライバシーなんてものは存在しないのかと思った。
とりあえず、子ボアのケガや血を戻して、心臓を動かす。記憶をどのように改変するか、いっそのこと記憶をすべて消しちゃうか、すべての記憶の消去をイメージする。これで多分できたはずだ、残すは魂を戻す事か?
「とりあえず、体は生きている状態にしたけど、この後はどうするの?」
『今の君なら何が無いかわからない?』
「魂が無いとか?」
『そうそう、その理論が分かっていれば、できるよ』
魂を戻すイメージをすると、子グレーダーボアが動き出した。辺りをキョロキョロした後、自分をジーっとみている。
刷り込みってやつかな?ってか小さくて可愛い、生前ちび助と出会った時を思い出した。
「プゥ~」
そんな鳴き声で自分にすり寄ってきた。死者蘇生は成功したけどこの後どうするんだ?
『連れて帰れば?村を守る様に教えたり、記憶を改変すれば守る様になるよ。』
その前に子どもだけど魔物だからって事で、殺されないか?それだけが心配だった。
『そんなことするやつは、君が村人の記憶を変えてしまえばいい!』
ずいぶん過激な事を言い出したなと思った。
記憶の改変といえば聞こえはいいけど、要は洗脳だ、ほいほい気軽に使えないだろう
死者蘇生についても出来ることが分かったが、この先滅多な事がないと使わないだろう、自然の摂理に反しているから気軽には使いたくはないと思った。
子グレーダーボアを抱きかかえ森を後にした。
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