第三百七十三話 目覚め


 眠っているアーメッドさんを見守ること三日後。

 朝はまだ気持ちよさそうに眠っていたのだが、昼過ぎくらいにアーメッドさんは急に目を覚ました。


「ルイン、ディオン! エリザが目を覚ましやした! 早く来てくだせぇ!」


 治療室の前にある椅子で二人して眠っていたところ、そんなスマッシュさんの声で目を覚まし、急いで治療室の中へと入った。

 アーメッドさんは完全に目を開けており、その姿を見てまた泣きそうになるが俺はグッと堪える。


「アーメッドさん! 目を覚ましたんですね! 体調はどうですか?」

「もう完全に回復した! ルイン、本当にありがとうな」


 心配して近づいた俺の頭を、力強くワシワシと撫でてくれたアーメッドさん。

 全ての行動が涙腺を刺激して、泣かないようにするのが本当に大変だ。


「本当に良かったです! 記憶とかは残っているんですか?」

「ああ、ばっちりと残ってる! 嫌な記憶とかも含めてだけどな」


 嫌な記憶というと、魔人と戦った時の記憶だろうか。

 あまり触れない方がいいのかと悩んでいると、スマッシュさんが躊躇いもなく切り込んだ。


「殺された時の記憶も覚えているんですかい? あっしらの情けない姿も覚えていたり……?」

「もちろん覚えているぜ! というか、俺はやっぱり死んだんだよな? 夢かとも思ってたけど、ありゃ完全に死んでたからな!」

「一度確実に死んでやす。そして生き返ったんでさぁ! あっしらが必死に生き返らせるために各地を転々と探し回ったんですぜ!」

「私達というより主にルイン君ですけどね。ただ、本当に元気になったみたいで良かったです」

「やっぱルインが助けてくれたのか。まぁ人生に悔いは残ってなかったし、あのままおっ死んぢまっても悪かなかったけど――生き返ったなら儲けもんだ! ルイン、本当にありがとな!」


 そう言って高笑いしているアーメッドさんを見て、本当に生き返ってくれて良かったと思う。


「ずっとお世話になってましたのでお礼なんていらないです。……アーメッドさんは、コルネロ山で俺を助けてくれた時のことを覚えていますか?」

「もちろん覚えているぜ。底辺ザコ冒険者に置いてかれて、俺が助けてやったんだよな! ルインのあの時の泣き顔は面白かったな!」


 ケケケと小馬鹿にするような笑顔で、あの時のことを話したアーメッドさん。

 そう。俺は【白のフェイラー】という冒険者パーティに囮に使われ、命辛々逃げていた。


 そして、死をも覚悟していた時にアーメッドさんが俺を助けに来てくれたのだ。

 あの時の感情は未だに忘れないし、この先一生忘れることはないと思う。


「覚えててくれたんですね。あの時は本当に弱くてみっともなかったと自分でも思います」

「確かにビビっちまうくらい弱かった! だけど、俺らにも優しくしてくれた唯一の依頼者でもあったんだぜ。……なぁ?」

「ええ。アーメッドさんが問題を起こして、色々と除け者にされていた時期でしたからね。ルイン君が優しく接してくれた時は嬉しかったですよ」

「そうでさぁ! あっしら相手に優しくするって相当なものですぜ? なんてったって、エリザがいるんでやすから!」

「そんなことないです。俺も久しぶりに人に優しくしてもらったんですよ。俺なんかに優しくしてくれた三人の方がよっぽど優しいです」


 そこからはどちらが優しいかの押し付け合いが始まり、話が一気に脱線してしまった。

 目覚めたアーメッドさんの話をしたいはずなのに、何故か俺の話になってしまっているけど……あの時のことを伝えるべく、もう少しだけ話に付き合ってもらう。


「ってどっちが優しいとか、んなことはいいんだよ! ルイン、それであの時のことを覚えているから何なんだ?」

「あの時に助けられた時からずっと決めていたんです。アーメッドさんのことを助けると!」

「そういや、グレゼスタを発つ時に宣言してやしたね! アーメッドに恩を返すって!」

「私も覚えていますよ。あの時の別れは寂しかったですからね」


 スマッシュさんとディオンさんは、目を細くさせながら懐かしんでいる。


「……その時の約束を守って、俺を助けてくれたのか?」

「いえ、違いますよ! 俺がアーメッドさんを助けたのは、約束したからとかではないです。約束なんてしていなくても、俺はアーメッドさんを助けていましたから!」

「へへっ、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。やっぱ俺の身込んだ通りだ!」


 またしてもワシワシと頭を撫でてきたアーメッドさん。

 若干痛いのだが、その痛みもなんだか心地が良い。


「俺が言いたいのはですね、その時の約束のことです!」

「その時の約束? 俺をいつか助けるように強くなる――じゃなかったか?」

「半分合ってるんですが、後半部分もあるんです。恩を返せた時に【青の同盟】に入れてください。そう約束して、アーメッドさんは親指を立ててくれたんです!」


 あの時の光景を鮮明に覚えている。

 俺はあの時に見たアーメッドさんの背中を守れるようになるため、必死に強くなったのだから。


「もしかして、【青の同盟】に入れろって言ってるのか!?」

「はい。もう二度と今回と同じような経験はしたくないので!」


 俺の知らないところで死んでいた。

 そう報告された時のどうすることもできなかったやるせなさ。

 

 もう二度と経験しないためにも、近くでアーメッドさんを守ると決めた。

 恐らくだが……アーメッドさんは魔人に挑みにいくと思う。

 その時は俺が何かあった時に守りたいし、守れるだけの力はつけたという自負がある。


「いいんじゃないんでしょうか? 一緒に行動しましたが、ルイン君がいるだけで負担は何倍にも軽くなります」

「あっしも賛成でさぁ! というより、ルインがいないのはもう耐えられないかもしれやせん! 戦闘面だけでなく、本当に色々と仕事ができやすから!」

「【青の同盟】に加わるって約束をした訳だし、俺だって別に反対って訳じゃねぇ! でも、ルインはパーティを組んでいただろ?」

「そのパーティは解散しました。もちろんいつか絶対に一緒に冒険したいと思っていますが、今の俺の中の最優先はアーメッドさんなんです!」


 俺の強い返答に、色々と考え始めたアーメッドさん。

 ようやく体力が回復したばかりに話す内容かどうか迷ったが、俺はどうしてもすぐに伝えたかった。


「……ディオンもスマッシュも賛成なのか」

「賛成ですね。ルイン君から来たいと言ってくれてるなら、喜んで受け入れるべきです」

「あっしも同意見でさぁ! 今後強敵と戦うつもりでやしたら、必ずパーティに入れてくだせぇ!」

「――分かった! 俺は約束を破るってことはしねぇ! 助けてもらった恩もあるしな!」

「本当ですか!?」

「だけど今回の借りを返すため、俺は魔王の領土に乗り込んで魔王をぶっ潰すつもりでいる! ……ルインにその覚悟はあるのか?」


 真剣な眼差しのアーメッドさん。

 魔人ではなく、魔王と来たか……。でも、相手が魔王であろうと俺はついていく覚悟ができている。


「もちろんです! 魔王には俺も色々と思うことがありますし、何処であろうとついていきます!」

「うっし。なら、今日からルインは【青の同盟】だ!」

「ありがとうございます!」


 スマッシュさんが“魔王はあっしが嫌でさぁ”と小さく呟いていたが、そんなことが気にならないくらいに加入を認めてくれたことが嬉しすぎた。

 アーメッドさんのことだし、無茶苦茶な過酷な旅が待ち受けているのだろうけど、俺は絶対にアーメッドさんの背中を――いや、横に並び立ってみせる。

 そう力強く心の中で誓ったのだった。



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 ご愛読ありがとうございました。

 第三百七十三話 目覚めにて、物語はこれにて一区切りとさせて頂きます!

 お付き合い頂き、本当にありがとうございました<(_ _)>ペコ

 

 少しでも面白い、続きが気になると思ってくださいましたら、フォロー、☆☆☆での評価を頂けたら嬉しいです<(_ _)>ペコ

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