第百七十一話 空の覇者
トビアスさんと喫茶店で別れたあと、俺はダンジョンが映し出されているダンジョンモニター前へと向かう。
日が落ちてしまっているが、【青の同盟】さん達の動向は確認したいからな。
現在どこにいるかだけ見て、すぐに『ぽんぽこ亭』へと帰ろう。
そんなことを考えながら歩き、ダンジョンモニター前に着くと、何やら昨日よりも凄い人だかりが出来ていた。
近くに特設の出店なんかもでていて、お酒やご飯が飛ぶように売れているのが見える。
……この騒ぎは一体なんなんだろうか。
俺も何故盛り上がっているのかが気になり、モニター前の人混みを掻き分けて進むと、より人が密集しているのが40階層~50階層のモニター前だということが見えた。
更に人混みを潜るように進み、なんとかモニターが見える位置まで到着し、映し出されている映像を見てみると、そこには大きなドラゴンと対峙しているパーティが映し出されていた。
「おら、始まったぞ!! 49階層のボス、レッサードラゴン対【銀の風鈴】だ!」
「ロジャー!! 頑張れ!!」
「レッサードラゴンを倒してドラゴンスレイヤーになれっ! エミル!!」
「ワーウィック! 全部の攻撃を受けきれよ!!」
【銀の風鈴】のメンバーだと思われる人たちへの声援が、怒号のように飛び交っている。
なるほど。40階層のボスに【銀の風鈴】という冒険者パーティが挑むから、これだけの人が集まっているのか。
【青の同盟】さん達よりも深いフロアにいる【銀の風鈴】というパーティと、レッサーとついているが、映像越しに見ているだけでも竦んでしまうほど巨体のドラゴンの戦い。
【青の同盟】さん達の動向を確認するために来ただけだったが、これはいいものを見ることが出来そうだ。
俺は観客達に混じりワクワクした気持ちで、ドラゴンに挑む冒険者達を食い入るように見つめる。
俺が見始めてから丁度40階層に到着したところのようで、まだ互いに牽制し合っている状態。
同じ生物とは思えないドラゴンが、冒険者たちに睨みを利かせながらゆっくりと闊歩し、【銀の風鈴】はそんなドラゴンに対し静止した状態で様子見している。
そのままドラゴンは真横まで移動し、このまま睨み合ったまま通りすぎるのではと思いかけたその瞬間。
画面いっぱいに閃光のような眩い光が映し出された。
薄目にしながら映像を凝視すると、閃光のように見えたのはドラゴンが放った火球だった。
竦んでしまうほどの巨体に加えて、強力な飛び道具まで持っている。
まさしく絶望的な相手なのだが、【銀の風鈴】も冷静に対処しているように思う。
観客からワーウィックと呼ばれていた大盾を持った男性が、一歩前へと出るとその大盾で火球を難なく防ぎ切った。
そんな一連の攻防に観客が湧き立ったのも束の間、ワーウィックの背後から飛び出たエミルと呼ばれていた二刀使いの女性が、火球を吐いたドラゴンに襲い掛かる。
【銀の風鈴】の流れるような連携で、完璧にドラゴンの虚をついたと思ったのだが……現実はそう甘くはいかない。
ドラゴンは巨体よりも更に倍ほど大きい翼を羽ばたかせ、上空へと飛び立ったのだ。
一踏みで大地を揺るがすその巨体に、火球という強力な飛び道具まで持っていて、更に空をも主戦場とすることが出来る。
圧倒的な空の覇者のその姿に、俺は恐怖を超えてどこか美しさを感じた。
「まずい! 早速飛ばせてしまったぞ!!」
「早く閃光弾で叩き落せ!」
俺がぼーっとドラゴンに見惚れていると、そんな観客の焦るような怒号によって現実へと引き戻される。
観客達のそんな焦りから、ドラゴンを空へと飛ばせてしまうことが駄目なことが分かる。
【銀の風鈴】はすぐに体勢を立て直し、ワーウィックが再び盾を前に前衛へ躍り出て、後ろからは弓術師とロジャーと呼ばれていたパーティリーダーらしき男性が、上空のレッサードラゴン相手に閃光弾を放った。
その閃光弾の眩い光によって、もはや映像からではなにが起こっているのか分からず、視界が良くなるのをただただ待っていると……次に映像に映し出されたのは、滑空して【銀の風鈴】に襲い掛かっているドラゴンの姿。
ワーウィックが、そんなドラゴンに対し大盾でガードしようとしているが、落ちるように突っ込んできているドラゴンを受け止めれる訳もなく、ワーウィックは潰されるように壁まで飛ばされた。
そこからワーウィックが起き上がることはなく、比較的冷静だった【銀の風鈴】のメンバーの動揺が、鮮明に映し出されている映像から分かってしまった。
精神的な支柱でもあったであろうタンクの戦闘不能と、パーティ全体に伝播している焦り。
そんな状況から、俺は直感的に【銀の風鈴】が全滅することを悟り、映像から目を背けたくなったが——その瞬間。
勝利を確信したように咆哮を放ったレッサードラゴン。
そんなドラゴンの咆哮に耳と目を奪われ、次々と観客がモニター前から去っていく中、俺は結局【銀の風鈴】が全滅するまで映像を静かに見守ったのだった。
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