第百六十九話 囲み取材


 ダンジョンの攻略を始めて数時間が経過した。

 戦闘回数で言うならば、ランダウストに向かう道中の方が遥かに多かったのだが、狭く視界が悪い状況下のせいで常に警戒していないといけないため、疲労がかなり足にきている。

 時間経過と共に、一人という状況もかなり響いているな。


 もう何度目か分からない冒険者パーティとの鉢合わせを終えたところで、俺はようやく2階層へと続く階段を発見した。

 全身から噴き出ている汗を拭いながら、一呼吸入れて階段を下りる。


 2階層は1階層よりも更に視界が悪く、ジメジメとした嫌な空気感が更に増している。

 ……これはソロでの攻略はかなり難しいかもしれない。

 今日が初めてのダンジョンだが、予想以上のダンジョンでの戦いにくさにそう感じてしまっている。


 10階層からは木々の生い茂ったエリアへと変わり、魔物は強くなるが比較的明るくなるため、視界は良くなり戦いやすくはなると思うんだけど……。

 1階層を攻略した疲労から考えると、10階層までなんて到底到達することは出来ない。

 そんな現実に額から汗が滲んでくる。


 …………ふぅー。

 宝箱はおろか、まだドロップ品も入手出来ていないが、2階層を軽く見回ってからとりあえず今日は帰還しようか。

 ダンジョン初心者講座に記載されていた通り、ダンジョン内では体力管理には十分に気をつけないといけない。

 ダンジョンで死亡する者の多くは帰還している最中のようで、まだ体力が残っているからといってギリギリまで攻略してしまうと、帰りのアクシデントに対応出来ずに命を落とすことが多いと書いてあったしね。


 戦闘回数はまだ五回だし、初戦のオーガがダンジョン内では一番強い敵だったため、余裕があるといえばあるのだが……『一冊で分かるランダウストのダンジョン』を信じるなら、ここら辺が攻略の辞め時だと思う。

 目に見える収穫はゼロに等しいが、経験は少しずつだが積み上げられていく。

 宝箱が頭をちらついて欲が溢れ出そうになるが、何度か戒めることで押さえ込み、俺はダンジョンからの帰還を始めた。


 

 その後、二階層でホブゴブリン。

 帰還途中の一階層で、ゴブリンの数匹の群れとワイルドウルフを討伐し、俺は無事にダンジョンの入口まで戻ってくることに成功した。

 帰りの道中も結局何も入手出来なかったが、初ダンジョンにしては上々の立ち回りだと思う。


 ソロ攻略の危険性についても分かったし、ダンジョンの空気も知ることが出来た。

 あと何十回か、安全性重視で攻略を繰り返していけば、ソロでも7階層までは潜れると思う。


 初心者冒険者の最大の壁である7階層のボスフロアの攻略は、流石にソロでは無理そうだから、このボスについては【青の同盟】さん達と合流してから攻略すればいい。

 だから俺の当面の目標は、【青の同盟】さん達が帰還する前に6階層までソロ攻略すること。


 冒険者ギルドでパーティを募れるらしいし、何ならお金を支払うことで冒険者ギルドの職員が、臨時パーティとして10階層までは加わってくれるため、【青の同盟】さん達が帰還するまでの間だけ、慣れるといった意味でもパーティを組むのもありかとも思ったが……。

 ダンジョンの危険性を知っただけに生半可なパーティは組みたくないのだ。

 俺の気持ち的にも乗らないだろうし、そんな中途半端なパーティでは連携が取れずに上手くいかないのが目に見えているからな。


 俺はパーティについて考えながら、ダンジョンの入口から冒険者ギルドへと出ると、俺の見知った人物が冒険者ギルドにいるのが見えた。

 昨日、食堂で俺に情報をくれた記者のおじさんだ。

 

 向こうが俺を覚えているか分からないが、俺からしてみれば命の恩人に近しいため、受付で手続きを早急に終わらせてから、声を掛けようとしたその時。

 ダンジョン前で待っていたであろう、複数の人に俺は囲まれた。


「『ダンジョンペンデント社』のラスボーンと申します。先ほどの攻略の様子をモニターで見てたのですが、少しお話よろしいでしょうか?」

「『デイリーダンジョン社』のハリスと言います! オーガとの戦いを見てお声かけさせて頂きました! 少しお話させてください!」

「『ダンジョンタイムズ社』のリードです。お時間があるのであれば、お話を伺いたいのですが如何がでしょうか?」


 話を聞く限り、三者三様で違う新聞社の方のようだ。

 とりあえず突然の出来事すぎて、俺は全く話についていけない。

 

「えーっと、その……。ちょっと急すぎて言っている意味が……」


 俺が詰め寄ってきた三人の記者さんに戸惑っていると、少し離れて見ていた『ラウダンジョン社』の記者のおじさんが、俺に気が付いた様子を見せて近づいてきた。

 そのまま三人の間に割って入ると、食堂で見せた笑顔で俺に話しかけて来た。


「へっへ。食堂の少年じゃないか。なぁ、俺のこと覚えているか?」

「もちろんです! あの時はありが——」


 俺がそこまで言いかけたその時、『ラウダンジョン社』の記者のおじさんは横の三人に視線を向けてから、俺の手を引っ張りギルドの外へと連れ出した。

 何が何だか分からないが、三人の記者さん達は悔しそうにしつつも、外へと向かう俺達を追ってくることはなかった。


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