第百四十四 気まずい褒め合い


 部屋に上がってライラについて行くと、バーンが寝ている寝室まで案内してくれた。

 その部屋には、先ほど顔を覗かせていたポルタとニーナもいて、肝心のバーンはベッドで横になりながら、二人と楽しそうに喋っていた。

 三日前は血の気のなかった顔も、すっかり良くなっているみたいで随分と元気そうだ。


「バーン。大分、元気そうで良かったよ」

「おおっ!ルイン。見舞いに来てくれたんだな。ルインの方も倒れて動けなくなったって聞いてたから、こうして元気そうな姿が見れて俺も良かった」

「こっちはもう完璧に治ったよ。バーンはまだ完治はしてないんだよね?」

「ああ、そうだな。俺の方はもうちょいかかりそうだ。痛みは薄れているんだけど傷口が塞がりきってないから、もう一週間くらいは安静にして過ごすことになりそうだわ」


 申し訳なさそうな表情をしながら頭をポリポリと掻いて、そう言ってきたバーン。

 そりゃ……俺は一瞬死んでしまったのかと思ったほど、出血していたからな。

 ヴェノムトロールに負わされた傷は、相当に深かったのだろう。


「うん。ダメージも大きいと思うから、安静にしてた方がいいよ」

「気遣ってくれてありがとな。……それと、今回も守ってくれてありがとよ。ルインがあの紫トロールを仕留めてくれていなければ、俺は確実に死んでいた。というか俺達全員、殺られていたと思う」


 バーンは寝転んだ状態からゆっくりと体を起こすと、俺に対して頭を下げてきた。

 そんなバーンに続くように、三人も頭を下げてくる。


「いやいやっ!頭は上げてよ! 俺が最後に倒したってだけで、みんなで倒したんだから!」

「それは違うよ。私達じゃ歯が立たなかったからさ。バタバタしてて言えてなかったけど、ルイン本当に助かったよ! いつも危ない時に私達を助けてくれてありがとう」


 ライラからも訂正された後にお礼を言われ、正直かなり戸惑ってしまう。

 二人はそう言うが、確実に俺一人の力で倒した訳ではなかったからな。

 でなければ俺は、グレゼスタを発つなんて選択はしていない。


「いや、本当に五人の内一人でも欠けていたら倒せていなかった。全員で弱らせて、俺が美味しいところを持っていった感じだったから」

「……でも、そこまでいけたのは確実にルインさんのお陰でしたよ。私は途中で、【アンチヒール】は効かないと判断してしまっていましたから」

「僕もルインさんのお陰だと思いますね。バーンさんが斬られた瞬間に僕たち三人共、完全に紫トロールに意識を向けれていなかったので。気づいた時には全員でバーンさんに駆け寄っていて、気づいた時にはルインさんが紫トロールを倒してくれていた——って感じでしたし」


 四人全員にそう言われると、流石に恥ずかしくなってくる。

 ……確かにバーンが斬られた後は、俺がいなかったらやられていたかもしれないけど、諸々を含めて全員の力が重なり合わなかったら、勝てなかったのは事実。

 それは倒した俺が言っているのだから、間違いないからな。


「いや、本当にみんなで力を合わせたお陰だから! ライラとバーンが俺に完璧に合わせてくれて、ニーナが【アンチヒール】で弱らせ、ポルタが俺達を強化してくれた。……それを言うなら俺も、みんなには感謝してるよ。俺をサポートしてくれてありがとう!」


 俺も四人に合わせるように、頭を下げてお礼を伝える。 


「むむむ。確かに……なんかモヤッとするね! 私からしたら、ルインが倒したのに!って感じなんだけど、ルインからしたら私達がサポートしたからってことだよね?」

「――そういうこと! だから、この件でお礼を言い合うのはやめよう。最初に言った通りみんなで勝ち取ったものだから」


 俺がそう言うと、四人は照れたような表情を見せた。

 この変な空気……なんか知り合ったばかりの頃を思い出してムズムズとするな。

 俺はこの気まずい空気を変えるべく、無理やり話題を本題へ変えることにした。


「……それでなんだけど、実は一つみんなに話さなきゃいけないことがあるんだ」

「えっ? 私達に話さなきゃいけないこと?」

「ルインから話したいことって珍しいな。というか……初めてな気がする」


 俺が無理やり話を切り出すと、少しピリっとした空気に変わった。

 確かに俺が相談するのって、基本的におばあさんだからな。

 おばあさんに相談すればなんでも解決してしまうため、キルティさんとか【鉄の歯車】さん達には相談とかをする機会がなかった。


「……変なことじゃなければいいんですけどね」

「んー。みんなからしたら、変なことかもしれない。実はさ……俺グレゼスタを発つことにしたんだ」


 俺がそう告げると、四人とも全く同じ様な表情で驚いた。 

 目玉が飛び出んばかり開かれ、そんな開かれた目と比例するかのように、口もぽかーんと開かれている。

 俺からそんなことを言われるとは想像していなかったのか、四人が心の底から驚いているのが伝わった。


「な、な、なんでっ!? 理由がないと私は納得できないよ!」

「そ、そうですね。僕も理由が聞きたいです。急にそんなことを言われるとは思わなかったので……」

「理由は紫トロールと戦って、俺はこのままでは駄目だと思ったから。さっきも散々言ったように、俺自身はみんなの力に頼り切りになったとしか思えなくて……そんな自分を成長させるために、俺はグレゼスタを発つことを決めたんだよ」


 俺は驚いた様子を見せている四人に、本日三度目となる何故グレゼスタを離れるのかを伝える。

 これじゃ説明が弱いかもしれないけどこの一年間、一緒に過ごしたみんななら、なんとなく理解してくれると俺は思う。


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