第百三十話 VSオーガ


 街外で行なわれている戦闘は無視し、セイコルの街の中を目指して走る。

 俺達は戦闘力のない市民を逃がすことを第一に、街中を目指して動いたのだが……既に目を覆いたくなるような悲惨な光景が、セイコルの街中には広がっていた。


 王国騎士団が送り出されているから勝手に無事だと考えていたが、思えば王国騎士団が出発したのは、俺達がグレゼスタの街に帰還してきたタイミング。

 早朝から襲撃されているのであれば、時間的に間に合う訳がないのか。

 

「これは……悲惨な状況だな」

「街中での戦いになっている時点で嫌な予感はしていましたが、やはり被害は大きそうですね。……皆さん、ここからどう動きますか?」

「当初の予定通り人命救助は王国兵士に任せて、魔物をとにかく狩る動きを取ろう。見る限り、王国兵士や王国騎士が押しているようだけど、魔物の数が断然多いようだからな」

「そうだね! 私も救助に回るよりも、一匹でも多くの魔物を狩る方が助けに繋がると思う!」

「……と言うことで、作戦は変えずに一気に蹴散らして行くぞ!」


 街の中に入った俺と【鉄の歯車】さんとで、とにかく目に見える魔物に向かって突撃していく。

 相手は外からも見えた通り、基本的に赤い体をしたオーガが暴れており、所々に緑色をしたトロールが見えた。


 俺はどちらの魔物も初戦闘なのだが、オーガはゴブリンを成人サイズにしたような見た目で、トロールはそのオーガの体躯を更に倍にしたような姿。

 見た目は両方とも筋骨隆々だが、どちらも人型の姿をしているため戦いやすいとは思う。


 前方に建物の扉を棍棒で叩いている、四匹のオーガを視認。

 すぐに一緒に前を走っているバーンとライラと目配せをしてから剣を引き抜き、まずは俺が速度を上げて突っ込んでいく。

 ライラとバーンは俺のすぐ後ろを追走し、カバーできる位置を取ってくれているのがありがたい。

 背後から襲われたとしても、ライラとバーンが食い止めてくれるという信頼があるため、目の前のオーガだけに集中して戦える。


 ……相手は魔物。模擬戦の時のような手加減はせずに、全力の一撃を叩き込める。


 背後から飛んできたポルタの【ブレイブ】が俺に当たったのを感じ取ってから、もう一段スピードを上げて、扉の前にいるオーガに突っ込む。

 ここでようやく、俺が突っ込んできていることに気が付いた四匹のオーガは、ゆっくりとこちらに向き直り、なにやらうめき声のような声を出し合ってから棍棒を構えた。

 

「ルインッ!一撃には気をつけろっ! オーガの一撃はガードの上からでも吹っ飛ばされるほど重いぞ!」


 背後で俺を追走しているバーンからアドバイスが飛んできたが……多分、心配はいらない。

 オーガの動きを見る限り、動き一つ取るにしても無駄が多すぎるからな。

 まるで一年前の俺のようで、今まで身体能力だけで戦ってきたのが手に取るように分かる。


 あのオーガがもしキルティさんに師事していたら、今頃キレ散らかされているだろうなぁ……なんてくだらないことを頭の中で考えながら、俺は地面に潜り込む勢いで上体を低くさせてから、無駄の一切ない動きでオーガの懐へと潜り込んだ。


 オーガからの視点だと、俺が一瞬にして消えたように見えているだろう。

 その証拠に懐に潜り込んでいる俺に、一切の視線が向けられていない。

 この状態を作り出せたら、あとは一撃でこのオーガを屠るだけの簡単な作業。


 両足で踏ん張り力を溜め、その溜めた力を無駄なく伝えるために、膝はバネを意識させる。

 更に、腰と上体に回転を上手く使って威力を上乗せし、全身の力を一瞬に注力し爆発させ——渾身の逆袈裟をオーガに叩きこむ。

 

 俺に一切の反応が出来ていないオーガの腰に、剣が入ったと思ったその瞬間には……何の抵抗もなく剣はオーガの肩口までを斬り裂いていた。

 一体、何が起こったのか――。斬られたことすら理解が出来ていないような表情をしながら、崩れ落ちるオーガの上半身。

 

 ワンテンポ遅れて斬り裂いたオーガの体から鮮血が飛び散るが、俺は飛び散る鮮血には一切目もくれず、二匹目のオーガの討伐に意識を向ける。

 目の前に俺という敵がいるのにも関わらず、二匹目のオーガの視線は裂かれたオーガに向けられていた。

 

 これもキルティさんがいたら、戦闘中に敵から視線を外すなと怒られるだろうな……なんて考えながら、またも一瞬の爆発力を意識しながら、袈裟斬りでオーガを真っ二つに斬り裂く。

 その流れで上段からの斬り下ろしで、三匹目のオーガの頭を流れ作業のように斬り裂いた。


 そして……ようやく初めて、俺に向かって攻撃しようと動き出した四匹目のオーガだったが、オーガ側が数的有利の状況を活かせなかった時点で、この戦闘は終わっている。

 俺は一歩引きながら納剣し、のっそのっそと棍棒を振りかぶって襲ってきているオーガを一閃。――居合斬りで仕留めた。


 最後のオーガが下半身はうつ伏せ、上半身は仰向けに倒れたところで……オーガ四匹との戦闘は終了。

 時間にして10秒も掛かっていなかったはずだ。

 

 ポルタの【ブレイブ】の後押しもあったと思うけど、過去一と言っていいほど完璧な立ち回りで魔物を屠ることが出来たな。

 この調子で次なる魔物を倒そうと、オーガの血を払ってから納剣し、振り返ると……そこには俺を見て、ドン引きした表情をしているライラとバーンが居たのだった。


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