第百十三話 一撃の決着


 昨日、【断鉄】で買った木剣を手にポルタと向かい合う。

 ポルタも俺が持ってきた木剣を手に構えているのだが……やはり、キルティさんと比べると全く威圧感がない。

 ただ、少なからず剣術に心得はあるようで、構え方や立ち振る舞いはしっかりとしていた。


「あの……やっぱり剣術習ってますよね? ルインさん?」

「うん。さっき言ったけど、先月辺りから剣術を習い始めたんだよ」

「……立ち振る舞いが、先月から習い始めた雰囲気じゃないんだよなぁ。とりあえず瞬殺だけはされないように頑張ろう」

「いや! 本当に習い始めてまだ一ヵ月くらいだから、いい勝負になると思うんだけど……」

「はい! 辛気臭い話はそこら辺で早速始めるからね! ルールは先に有効打を三発決めるか、相手を戦闘不能にさせた方の勝ちね! 二人共用意はいい?」


 ポルタの悲観的な言葉を無視し、割って入ってきたライラが無理やりルール説明をねじ込んできた。

 勝利条件は有効打三発か、戦闘不能にさせるか……か。

 木剣じゃ後者は無理だろうし、有効打三発を狙っての試合運びを進めていこう。


「俺はいつでも大丈夫だよ」

「……僕も、大丈夫です」

「よーし! それじゃ……第一回戦ルイン対ポルタの試合開始っ!」


 元気の良いライラの掛け声で試合が開始された。

 ポルタが木剣を構えながらゆっくりと距離を詰めてくるのに対し、俺もすり足でゆっくりと近づいて行く。

 そして俺が上段で構えているのに対して、ポルタは下段で構えている。


 下段で構えるのは防御に徹した構えではあるんだけど、キルティさんのように威力を完璧に殺すなんて芸当は出来ないだろうし、例えガードされたとしても、まずはポルタの度肝を抜くために、初手から上段からの斬り下ろしを行ってもいいかもしれない。

 初手の動きを心の中で決めた俺は斬り下ろしの間合いに入るまで、じっくりとポルタの様子を伺いながら、じりじりと距離を詰めていく。


 ……この動き出す前が一番緊張するな。

 昨日のキルティさんと違ってポルタは攻撃を仕掛けてくる訳だから、攻撃された時の対処も考えつつ、タイミングを見計らってこちらからの攻撃を行わないといけない。

 考えることはたくさんあるからこそ、上段からの斬り下ろしでいくと決めたのは好判断だった。


 ……あと二歩、あと一歩。

 距離を心の中で数え、ポルタが俺の間合いに入った瞬間に、すかさず上段からの斬り下ろしを放つ。

 ――踏み込み完璧。振り下ろしも完璧。

 

 急なタイミングで放った俺の上段斬りに、ポルタが慌てて下段の構えからガードに入る姿を目で捉えているのだが……。

 あれ、これって……もしかしてガードが間に合わないんじゃ。


 てっきりガードされる前提で放った一撃だったため、俺は本気で振り下ろしている。

 このままでは頭に直撃すると察した俺は、振りの勢いを緩めようとしたのだが、体に染みついたこの動作を途中で緩めることは出来なかった。


 俺の放った渾身の斬り下ろしは、とてつもなくいい音を鳴らしてポルタの通天を叩いた。

 余りにも綺麗に決まり、俺が内心で焦っていると……すぐにニーナから【ヒール】が飛んでくる。


「はーい! ポルタの負け!」


 俺の一撃が直撃した後、後ろ向きに倒れたポルタに軽いノリで負けを宣告したライラ。

 俺は一瞬呆けたあと、すぐに倒れたポルタに駆け寄りに向かう。


「ポルタッ! 大丈夫か!?」

「え、ええ。ルインさんの木剣が直撃した瞬間は死んだと思いましたが、ニーナさんが即座に【ヒール】を掛けてくれたので、なんとか大丈夫でした」


 青ざめた表情でそう言ってきたポルタ。

 ふぅ……。とりあえず無事なようで良かった。

 一瞬、本気で人を殺してしまったかと思ったからな。


「ルイン! そんな心配しなくて大丈夫だよ! 武器は木だし、ニーナもいるからさ!」

「い、いやいや! 木だろうが、あの一撃は危なかったでしたって! アンクルベアに殴られた時よりも速度は速かったですから!」

「それは大げさだっての。とりあえずポルタの負けだからな。……次は俺とニーナか。ニーナ、今日こそは勝つからな」

「……バーンさん、今日も負けません」

 

 必死に訴えるポルタは無視されていて、バーンとニーナがバチバチに火花を散らしている。

 バーンの発言的に、やはりニーナは近距離戦も強いようだ。

 てっきり遠距離専門だと思っていたのだが……。


「ポルタ。ニーナって剣術もできるの?」

「……え? ええ、ニーナさんは【鉄の歯車】の中で一番の剣の使い手ですね」

「へぇ。そうだったんだ。俺はてっきり後衛専門だと思ってたよ」

「【ヒール】が使える上に、【アンチヒール】が強力すぎますからね。ニーナさんは前衛も出来るけど、後衛で支援に回った方が強いって理由なだけです」


 なるほど。

 確かに、【アンチヒール】は戦況をひっくり返すことが出来るほどのスキル。


 前衛にはバーンとライラの二人もいるし、前衛に困っている訳ではないもんな。

 圧倒的に近距離戦が強い……とかではない限りは、後衛に回った方が安定するってことなのか。


「それじゃニーナ対バーンを始めるよ! 二人共、位置について!」


 試合前からバチバチの二人が木剣を持って向かい合い、そして構えた。

 お互いに中段の構えで、ニーナはお手本のような静止した綺麗な構えなのに対し、バーンはしゃかしゃかと落ち着きのない感じ。

 ただ、バーンの方も隙があるとかではなく、一定のリズムで動かされているようで、傍から見る限りは一切隙がないように見える。


「それじゃいくよー。戦闘始めっ!!」


 ライラのその声と同時に飛び出したのはバーン。

 先手必勝と言わんばかりの好ダッシュを決めたのだが、そんなバーンにニーナは慌てる様子を見せずに、ジッとバーンの動きを観察している。


 そして距離を縮め、剣を振り上げて上段から斬りかかってきたバーンの攻撃を、ニーナは冷静に体捌きだけで躱すと、すかさずカウンターで小手を狙いで木剣を打ち込みにかかった。


 ――そんな一分の無駄もないニーナの攻撃に対し、手首を返しながらガードを完璧に決めたバーン。

 一連の攻防を終えた二人は、見つめ合ってニヤリと笑った。


 一撃で終わってしまった俺とポルタの試合と違ってハイレベルな戦い。

 遠巻きに見ている俺もテンションが上がって楽しくなってくる。


 こうして人対人が戦っているのを見るのは初めてだが、傍から見ることで得られる情報もたくさんあるんだな。

 第三者視点で試合を見ているだけでも、自身の成長に大きく繋がると俺は感じた。


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