第百十二話 対戦相手決め

 

「三人共、おかえり!」

「それより、凄い良い匂いだな!」

「匂いだけじゃなくて、味も美味しいから期待して! ……ねぇルイン、約束思い出した?」


 俺達を出迎えてくれたライラが、ドヤっとした顔で俺に訪ねてきた。

 むむ。この表情で言われて認めるのは悔しいが、俺が忘れていたのは事実だからな。


「…………うん。クライブさんのお店の帰りにした約束だよね?」

「そうっ! ルインが色々なカレーを食べたいって言ったから、材料を買い集めて作ったのに……忘れてるんだもんっ!」

「いや、かなり前のことだったからさ。でも、ライラもニーナもありがとう! 覚えていてくれた上に、こうしてしっかりと作ってくれてさ!」


 俺が素直にお礼を言うと、ライラは太陽のようにニカッと笑った。

 

「にへへ。お礼を言ってくれるなら、私も約束を忘れずに作って良かったと思えるよ! さあ、料理は出来てるからみんなで食べよう! 野菜カレーがニーナ作でお肉カレーが私作だから!」

「いやぁ、楽しみですね! 僕、初めて食べる料理です!」

「俺も初めてだな。さあ、早く食べようぜ!」


 こうして、【鉄の歯車】さん達とテーブルを囲んでカレーを食べた。

 ダンベル草カレーで慣れすぎていたと言うのもあるかもしれないが、ライラ作のお肉のたくさん入ったカレーも、ニーナ作の野菜カレーもどちらも非常に美味しかった。

 ダンベル草カレーもグルタミン草のお陰で多少は苦みを消せたとは言え、やはり雑味のないカレーほど美味しいものはないな。


 この美味しいカレーを食べてしまったら、つい先ほどまで考えていた、ダンベル草カレーを振舞うと言う考えは綺麗さっぱりなくなった。

 明日の朝、舌の記憶が薄れかけた頃に振舞うのはいいかもしれないけど。

 そんなことを考えながら二種類の極上カレーに舌鼓を打ち、自然に囲まれながらカレーを食べたのだった。



「いやぁ、美味しかった。どっちの料理も同じなのに、味は大分違って良かったな!」

「そうですね。肉の旨味も野菜の旨味もどっちも感じることが出来ました」

「ライラもニーナも改めてありがとう! 本当に大満足だったよ」


 料理を作ってくれた二人に、男三人で感想とお礼を伝える。

 本当にお腹もいっぱいになったし、大満足の晩御飯だった。


「不慣れな場所での料理だったからどうなるかと思ったけど、ちゃんと作れてよかったよ! キャンプ地でのカレーは向いてるって分かったし、次回からもカレーでいこうかな」

「……そうですね。割と作りやすいのでアリかもしれません」


 ライラとニーナがそんなことを話している。

 次からもカレーなら、俺としては相当嬉しいな。

 

「よーし。カレーでお腹も満たしたところで……模擬戦大会といこうか」


 一息ついたところで、珍しく笑顔のバーンがそう告げた。

 理解していないライラとニーナは首を傾げていて、ポルタは苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 さっきも言ったけど、ポルタに関しては不参加でもいいと思うんだけどなぁ。


「えっ、なに? 模擬戦大会って!?」

「採取に行ってる時にルインから模擬戦がしたいと言う提案があってな。そこから模擬戦大会をやろうってなったんだよ」

「なにそれっ!! めちゃくちゃ面白そうじゃん! 私も参加するよ!」


 バーンの話を聞いたライラも表情を笑顔にさせて、ノリノリな様子。

 あとはニーナなのだが……意外なことに、ニーナも少し嬉しそうな表情に見えた。

 ポルタと同様に後衛に回っているから、嫌がるかなとも思ったんだけどな。


「よしっ。それじゃあ、全員参加ってことでいいよな! 総当たり方式かトーナメント方式どっちにする?」

「五人だし総当たりでいいと思うけど……。もう日が落ちかけてるし、トーナメントでいいかもね! それで四日後に成績から総合順位を決めようよ!」

「あー、それいいな。それじゃ1位が3ポイントで2位が2ポイント、3位以下が1ポイントで最終的にポイント保持数で順位を決めようか」


 こうして。あっという間にルールも決まった。

 総合的に順位が決まるとなると、しっかりと勝ちにいきたいな。

 俺の場合は基本的に胸を借りる立場だけど、勝利もしっかりと狙いにいこう。


「おっいいねぇ。なんかワクワクしてきたよ! ……でもさ、ルインはどうして急に模擬戦なんかやりたいって思ったの?」

「剣の指導をつけて貰ってる人から、色々な人と試合をこなすといいってアドバイスを受けたからだよ」

「へー! ルインって師匠がいたんだ! 誰なの?その師匠さんって」

「王国騎士…………。じゃなくて……えーっと、ほらっ! 日が落ちちゃうから試合始めよう」


 ライラからの質問に対し、キルティさんの名前を言いかけたところで、俺は何とか踏みとどまった。

 あれだけ身元を隠したいと言っていたから、俺が師事していることも口外はしない方がいいのだと思う。

 そのことを考えずに、危うく喋りかけたが誤魔化せたみたいで良かった。


「なーんか怪しい……けど、まあいっか! それじゃ対戦相手決めしよう! グーチョキパーで分れた人と試合で良いよね?」

「いいんじゃないか? それじゃみんなどれかの手を出してくれよ。グーチョキパーで分れましょう」


 バーンの掛け声に合わせて手を出し……どうやら一発でバラバラに分れたようだ。

 俺はグーを出したから相手は——ポルタだ。

 ポルタも俺を見ていたようで視線がぶつかった瞬間に、顔がドンドンと真っ青になっていくポルタ。


「あぁ……。ルインさんとだけは嫌だったのに……」

「うわぁ……。俺も初戦からニーナかよ……」


 対戦相手が決まって悲観の声を上げたのは、ポルタとバーン。

 ポルタが悲観的な声を上げるのは、先ほどのやり取りから分かっていたのだが、意外なことにバーンも悲観的な声を上げている。

 バーンのこの態度から察するに、ニーナって強いのか……?


「うわぁ! 私が一人余っちゃった! ……けど、シードだしラッキーなのか!」

「んじゃ、ライラは審判を頼むわ。さて、どっちから先に戦るか?」

「僕たちからでいいですか? 嫌なことは早めに終わらせたいので」


 バーンにそう宣言したのはポルタ。

 流石にここまで嫌がられると、やらせるのが申し訳なくなってきたけど、ポルタの自分ルールではやらないよりかやった方がいいんだもんな。


「了解。それじゃ、初戦はルインとポルタからいこう」


 こうして俺はポルタと模擬戦を行うことが決まった。

 恐らく、【鉄の歯車】内では一番弱い相手だとは思うけど、俺からしたら決して油断出来る相手ではない。


 ここ一ヵ月でキルティさんから習った上段からの斬り下ろし。

 そして、昨日の模擬戦で培ったことを全て生かして全力で勝ちにいこう!



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