第百十話 月に一回のリフレッシュ
模擬戦の翌日。
対人戦と言う初めてのことで変な筋肉を使ったから、全身が満遍なく筋肉痛となっていた。
起き上がるのも億劫な中、なんとか踏ん張ってベッドから体を起こす。
これからコルネロ山に行くと言うのに、筋肉痛で動きが鈍いとなると【鉄の歯車】さん達に迷惑がかかるため、俺は寝起きですぐに回復ポーションを飲み干した。
さらに薬草を漬けたスライム瓶を取り出し、ヌルヌルの回復スライムを全身に塗りたくる。
ミントの葉も一緒に漬けておいたため、スースーしてかなり気持ちが良いな。
筋肉痛の対処を行ってから、毎朝恒例のダンベル草カレーを食べ、着替えを行う。
着替えを終えたら、最後に昨日準備した荷物の忘れ物チェックを行い、準備は万端。
時間的にはかなり早いが、もう【鉄の歯車】さん達との集合場所である、冒険者ギルドへと向かおう。
俺が冒険者ギルド前へと着くと、やはりいつものように先に着いて、俺を待っている【鉄の歯車】さん達の姿が見えた。
……今日も集合時間より、大分早くに到着したはずなんだけどな。
「おはよう、ルイン! 今回も依頼してくれてありがとうね!」
「おはよう、ライラ。こちらこそ今回も引き受けてくれてありがとう! それと聞いたよ。……もうDランクなんだってね! 採取依頼の報酬じゃ割りに合わないよね?」
そう。【鉄の歯車】さん達は、つい先日にDランクへと昇格したらしいのだ。
この間、Eランクに上がったばかりだと言うのに、とんでもない速度で高ランクの依頼をこなしているとスキンヘッドのギルド長さんから聞いた。
【タマゴ倶楽部】のエドワードさんとの修業期間で二ヵ月程は、依頼に身を入れていないと四人は言っていたのだが、そんな中でもしっかりと最低限以上の依頼をこなしていたようで、修業期間を終えた先月からは更に受ける依頼量を増やして、Cランク相当の依頼をバンバンとこなしていったみたいだ。
スキンヘッドのギルド長さんの話によると、近年で一番の成長速度らしく、このままの勢いでCランクまでは最速で駆け上っていくと、褒めちぎっていたぐらいだった。
「依頼料だけで見たらそうなのかもしれないけど、私達はルインと一緒に仕事がしたいからね!」
「そう。ライラの言う通りだ。俺らが頑張ろうと思えたのは、ルインがきっかけだから。この先どれだけランクを上げたとしても、ルインの依頼だけは断るつもりはないぞ」
「その通りですが……そろそろルインさんの方が、護衛を必要としなくなってきそうですけどね。日に日に更に引き締まった体に変化していっていますし」
ライラとバーンに同調しつつも、ポルタがそう言ってきた。
確かに、俺がこのままキルティさんの指導の下、強くなっていったら護衛はいらなくなるのか。
……ただ、それでも俺も【鉄の歯車】さん達と同じ様に、一緒に依頼をしていきたいと思っている。
本当は迷惑かもしれないけどグレゼスタにいる間は、【鉄の歯車】さん達から断られるまで依頼は出し続けていきたいな。
「俺も護衛がいらなくなるほど強くなったとしても、【鉄の歯車】さん達とは一緒に依頼を行って行きたいと思ってるよ!」
「……そう思って頂けているなら嬉しいですね。私達もその気持ちに答えられるように誠心誠意、頑張らせて頂きます」
俺のそんな言葉にニーナがそう言葉を返してくれた。
出発前に【鉄の歯車】さん達の気持ちを確認でき、ほっこりとしたところで俺達はコルネロ山に向けて出発した。
それから、【鉄の歯車】さん達と他愛もない話をしながら歩くこと数時間。
もう目の前には、お馴染みのコルネロ山が見えてきた。
ついこの間までは恐ろしかったこの山も、今ではワクワク感しか感じない。
俺がアングリーウルフを一撃で屠って以降、アングリーウルフの襲撃は本当に一度もないからな。
そろそろ襲撃されてみたいとすら思っているほどだ。
今の【鉄の歯車】さんと特訓を重ねた俺ならば、難なく討伐出来るだろうし、今度はまぐれじゃなく実力で倒したいと思っている。
まあ、そんな風に考えているときほど、襲撃なんてこないんだけどね。
俺がアングリーウルフの襲撃を心待ちにしながら、山を登っていくとあっと言う間に拠点にしている山の中腹まで辿り着いた。
道中の魔物をライラとニーナが瞬殺したから、殆ど立ち止まることなく歩き続けることが出来ている。
安定感で言えば、ディオンさんとスマッシュさんのコンビに匹敵するのではないかと思うほどだ。
「はい、とうちゃーくっ! コルネロ山も、もう慣れたものだね!」
「ああ。だが、この山にはアングリーウルフがいるんだ。気だけは抜くなよ」
「分かってるよ! アングリーウルフには散々、苦汁を舐めさせられたからね。油断なんて絶対しない!」
バーンとライラがお互いに注意し合い、気を引き締めた様子。
やはり【鉄の歯車】さん達にとってもアングリーウルフは、特別な敵と言う認識のようだ。
「それじゃいつも通りに僕とバーンさん、ルインさんの三人で採取。ライラさんとニーナさんで拠点整備で大丈夫でしょうか?」
「こっちは大丈夫! それと今日はね……この前、ルインと約束した‟アレ”のために、色々と食材を持ってきたから楽しみにしててよ!」
「ん? なんだ? ルインと約束したアレって」
「まだ内緒! ね? ルイン!」
「…………………?」
…………ん?
約束したアレってなんだろう。
ライラと何を約束したのか、全く覚えていない。
「…………おいっ、ルインも全くピンときてないじゃねぇか」
「えー、酷い!! 約束したから気合い入れて準備したのに!」
そうは言われてもな……。
なんのことだか、本当に覚えていない。
と言うか、約束なんかしてなかった気がするんだけど……。
「それじゃ約束については、拠点に戻ってきてからのお楽しみと言うことで。僕たちは採取に行きましょう」
「そうだな。……まあ、ライラの一方的な勘違いだと俺は思うけど」
「違うからっ! ルインがアホだから忘れてるだけ! ねっ?ニーナ!」
「……アホではないと思いますが、確かに約束はしましたね」
俺もライラの勘違いだと思っていたのだが、ニーナもそう言うなら本当に約束したのか。
全く覚えていないけど、この場では教えてはくれなさそうだし、ポルタの言う通り拠点に戻ってきてからのお楽しみと言うことで採取に行こうか。
うーん、本当に何の約束だっけ……。
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