第八十一話 ダンベル草の生成


 最低品質のポーションを全て飲んだ二日後。

 この二日間は剣の特訓と、中品質と高品質のポーションの魔力上昇値を計測していた。

 ちなみに各魔力ポーションの上昇値は、中品質の魔力ポーションは1本金貨1枚で魔力上昇値が2。

 高品質の魔力ポーションは、1本金貨2枚で魔力上昇値が3本で10と言う結果だった。

 

 この結果から、一番費用対効果が高いのは最低級魔力ポーションで、品質が上がるごとに費用対効果も下がっていくことが分かる。

 まあ、これはあくまでも金銭のみだけで考えた話だけど。


 一日で飲めるポーションが20本だとして、最低級魔力ポーションでは一日で12しか上がらないのに対して、高品質ポーションなら一日で60上がる計算となる。

 まさしく時間を取るか、お金を取るかなのだが……。


 将来、お金を捨てても困らないくらい稼いでいるぐらいじゃないと、高品質ポーションでの魔力上昇は色々と非効率だと俺は思う。

 しばらくは、おばあさんに最低品質か低品質のポーションを作ってもらうようにもお願いしつつ、自分で採取した魔力草で魔力ポーションの生成を頼むのがいいと俺は感じた。

 

 それにしても、この三日間で金貨30枚を使用したと思うと恐ろしく感じる。

 現在の俺の総魔力は79と、三日前と比べたら約5倍近くも上がっている訳だから、もちろんそれだけのメリットは得られたんだけども。

 

 ……ただ、問題なのはここからだな。

 はたして総魔力79で、ダンベル草は生成出来るのかと言う問題。

 これで生成出来なかったら、またすぐに植物採取に行かないといけなくなるため、絶対に生成出来てほしいところ。


 俺は心の中で必死にそう願うが……懸念があるとすれば、ダンベル草の異常な高レベルとその効能。

 それらを考えた場合、生成されない可能性も全然あると俺は思ってしまっている。


「……すぅー……はぁー」


 俺は一つ深呼吸を入れてから、ダンベル草の生成へと取り掛かることを決めた。

 ベッドに横になり、脱力症状が起こってもいいようにしてから生成を開始。

 左手に意識を集中させ、生成を行っていったのだが……いつもとは少し違う感覚が左手を襲う。

 

 魔力草とか薬草の場合はパッと生成されるのだが、ダンベル草は中々生成されず、左手から何か力が抜けていくような感覚があり、次第にその力が抜けていく感覚が大きくなっていく。

 左手がブルブルと震えだし……失敗したか? 


 ……俺が密かにそう思い始めたその瞬間。

 力が抜けていく感覚が急に治まり、力が抜けていく感覚が襲っていた左手にはダンベル草が握られていた。

 

「これは…………やったのか……?」


 初めて【プラントマスター】の生成スキルで、明確に‟魔力を消費した”と言う感覚を味わった気がする。

 ただ、体はまだ動くし、脱力症状は起こっていないようだ。

 あとはこれが本当にダンベル草なのかと言う疑心を、確信に変えるために俺は鑑定を行う。


【名 前】 ダンベル草

【レベル】 50

【効 能】 筋力上昇(小) 

【繁殖力】 極小

【自生地】 ???


 ……よし。――よっしっ!! 

 これは間違いなくダンベル草だ。

 鑑定したダンベル草を握りしめ、俺はダンベル草を生成出来た喜びを強く噛み締める。

 


 ここまで辿り着くのに、随分と掛かってしまったな。

 初めてダンベル草を採取したときから、ここまでの未来を考えて動いていたのだが…………本当に色々とあった。

 

 治療師ギルドを辞めてから、出会った人たちや起こった事件。

 良い人たちや悪い人たち。楽しかった日々や大変だった日々を思い出して、思わず感情が高まり涙が零れそうになったが……俺は必死に歯を食いしばって涙を堪える。

 ……まだだ。俺のゴールはダンベル草を生成することでは決してない。

 

 アーメッドさんに必ず追いつくと誓ったあの約束を守るために、俺はまだ満足してはいけないんだ。

 ダンベル草を生成したことで、俺はようやくスタートラインに立てたのだからな。

 これからやらねばならないことが山ほどある。


 頭を振って、感傷的な気分を振り払い、俺はすぐにダンベル草の生成魔力を調べるために薬草の生成を開始する。

 出来れば、ダンベル草の生成魔力は40以下であって欲しいんだけど……流石に高望みだろうか。


 俺は横になった体勢のまま、薬草を次々と生成していく。

 テンポ良く生成していき、4本目までは問題なく生成できたのだが——5本目を生成しようとしたところで脱力症状が起こってしまった。

 ……なるほど。ダンベル草の生成魔力は75か。


 流石に効能とレベルが高いだけあって、生成する魔力消費もエゲつないな。

 一日に2本は生成できないことが分かったが、1本生成出来るだけでも十分だと思うことにしようか。

 明日からは毎日1本ダンベル草を生成し、生成したダンベル草を乾燥させて、それを翌日に食べると言うルーティンを作っていこうと思う。


 そうなると毎日、カレーを作らないといけないため、香辛料代のお金には少し苦労しそうだが、明日は追加で生成を頼んだ魔力ポーションが手に入る。

 その魔力ポーションで魔力を上げれば、一日にダンベル草に加えてグルタミン草も追加で生成できると、俺は考えているから多分心配はないと思う。

 グルタミン草の買取額がどうなったのかはまだ分からないけど、低く見積もって毎日銀貨3枚程の収益は期待できるだろうしな。

 

 ようやくスタートすることが出来た、俺が強くなるための道にワクワクが止まらない。

 いち早くアーメッドさんに追いつくためにも、明日からも日々の努力を怠らないと俺は心に誓った。


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