第七十一話 治療師ギルドが起こした問題


 そう言えば前回、なにか大きな問題が起こったってことを軽く聞いたから、そのことかな?

 大きな問題があって、ブランドンが王都に行った……まではおばあさんから聞いていたけど、それからまたなにかあったのだろうか。


「実はこの間ね、久しぶりに治療師ギルドに赴いて、薬草を卸しに行ってきたんだよ」

「ええ。去り際の話で、それらしいことを言っていましたもんね」

「そうそう。その時に治療師ギルドで、治療師ギルドが起こした問題についての面白い噂話を耳にしてね。少し気になって色々と調べていたらかなり面白いことになっているみたいなんだよ」


 そう言うおばあさんの表情は、悪い笑顔へと変わっていた。

 面白いことになっている……か。

 治療師ギルドのことは気にしないようにと、意識して努めてきたけど流石に気になるな。


「あの、面倒ではなければお聞きしたいんですけど、大丈夫ですか?」

「もちろんさ。ワタシが呼び止めておいて、面倒だから内容は教えないよ……なんて言う訳ないさね」

「確かにそうですね。それじゃ、教えて頂けると幸いです」


 さて、どんな話が聞けるのだろうか。

 大きな問題を起こしたって時点で、俺はあまり想像がついていないのだよなぁ。

 俺が治療師ギルドに在籍していた時は、一度も事件らしい事件はなかったし。


「前回、大きな事件を起こしたってのは教えただろう? その大きな事件ってのが新ポーション生成の失敗が原因らしく……ギルド長の奴、失敗した新ポーションを王族に納品しちまったらしいんだよ」


 くつくつと面白そうに笑いながらそう話すおばあさん。


 ……新ポーションは俺も知っている。

 俺がクビにされる少し前に完成したポーションで、最上級ポーションよりも回復量が高いポーションだと、ブランドンが珍しく諸手を上げて喜んでいた姿が今でも鮮明に記憶に残っている。


 確か、コニイン草と言う猛毒を持つ植物の‟最低品質”から、作られたポーションだったと思う。

 詳しいことは知らないのだが、低品質以上では消し去ることができない毒のため、最低品質のコニイン草の選別をさせられていたことを思い出した。

 俺はこのポーションの治験もやらされたから、新ポーションについては強く印象に残っている。


「王族に毒の残ったポーションを納品してしまったってことですか……? それってかなり一大事なんじゃ……」

「だから、大きな事件があったと教えただろう? 一応、前回は毒見役の人で問題が発覚したようだから、ギリギリなんとかなったみたいなんだけどね。ギルド長が王都に出向いた時に汚名返上のためか知らないが、失敗したのはたまたまですぐに新ポーションを納品すると、約束してしまったみたいなんだよ」


 でも……俺が在籍していた時は、確実に新ポーションは完成していたはず。

 その後の実用試験でも一度の失敗もなかったし、実用期間も問題なく突破していたと思うのだが。

 俺がブランドンの立場だったとしても、あの実用期間を知っているなら、失敗したのはたまたまだと思ってしまうし、絶対に納品できると言っていたと思う。


「その口ぶりですと、もしかしてですが……納品出来なかったのですか?」

「ああ、その通りだよ。抜き打ちで王族からの使いがグレゼスタにやってきたみたいでね。新ポーションの使用を促され、ギルド長が職員の一人に新ポーションを使用したところ、案の定副作用が起こってしまったみたいなのさ」

「それじゃ、ブラン……ギルド長はどうなったのですか?」

「さあね。王族の使いの前で失敗してしまったようだし、最悪捕まっている可能性もあるねぇ。とりあえずギルド長から降ろされることは確定だろうし、グレゼスタの治療師ギルドが存続出来るかもかなり怪しいと思うよ」


 衝撃の事実に言葉を失う。

 俺が治療師ギルドを辞めたのは約一ヵ月前。

 それまでの治療師ギルドは、まさに順風満帆と言った具合だったはず。


 もしかしたら俺がクビにされたタイミングは、本当にいいタイミングだったのかもしれない。

 新ポーションの生成が成功していない期間、ブランドンが怒り狂っている姿を容易に想像できるし、もし俺がいたとしたら全責任を押し付けられていた可能性だってある。

 ブランドンに対してざまぁみろって気持ちよりも、安堵の気持ちの方が大きいな。

 

「そうなんですね。つい最近までお世話になっていましたので……これからどうなるのかは少し気になりますね」

「顔を出しに行ってもいいかもしれないよ。ルインは今、順風満帆な生活を送れているのだし、落ちぶれた治療師ギルドを見れば、少しは勤めていた時の気晴らしになると思うからね」

「…………いや。直接行くのは辞めておきます。もし、治療師ギルドが生まれ変わったのなら、行ってみたいとは思いますが」

「くっくっく。ルインは優しい子だねぇ。……ワタシなら大笑いしに行くけどね。と言うか、近々ギルド長を大笑いしに行く予定だよ」


 そのおばあさんの言葉に苦笑いしてしまう。

 おばあさんは相当ブランドンの事が嫌いなようだ。

 なにか確執でもあったのかな?


「仕返しされないようにくれぐれも気をつけてくださいね。それじゃ俺はもう行きます! 治療師ギルドのことを教えて頂き、ありがとうございました!」

「ワタシが勝手に教えたことだから、お礼なんていらないよ。また植物を売りたいときやなにか物を買いたいときは寄っとくれ。その時にまた治療師ギルドに進展があったら教えてあげるからね」

「ありがとうございます! また是非、利用させてもらいます! 今日も色々とお世話になりました!」


 カウンターで、笑顔で手を振ってくれているおばあさんにお礼をした後、俺は『エルフの涙』を後にした。

 色々とタメになることを聞けたが、一番の衝撃は治療師ギルドについてだったな。

 高額で買い取ってもらったことが、頭から吹き飛ぶような衝撃的な内容だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る