第六十五話 グレゼスタに帰還


 アングリーウルフの解体終了後、俺たちは無事にグレゼスタの街へと戻ってこれた。

 アングリーウルフ襲撃のせいで、コルネロ山での採取は成功とまでは言えなかったが、様々な発見は出来たし、決して失敗ではなかったな。


 とにかくグルタミン草と香辛料の発見が余りにも大きかった。

 両方とも【プラントマスター】で生成も出来るだろうし、植物に対して更なる可能性が見えた気がする。


「色々あったけど、なんとかグレゼスタに帰ってこれたね!」

「ああ。無事で戻ってこれたのは良かったが、ルインには本当に申し訳ないな。折角、護衛依頼に専属契約まで提案してくれたのに、最初の依頼を失敗と言う形で終わってしまった」

「バーン、気にしなくて大丈夫だよ。アングリーウルフに追われ、傷一つなく無事に帰ってこれただけで、護衛の役目をしっかりと果たしてくれたと俺は思ってるから。四人共、俺を守ってくれてありがとう!」


 俺がそうお礼を告げると、【鉄の歯車】の四人は安堵した様子でほほ笑んだ。

 実際問題、あの状況下で置いて行かれなかっただけで、俺は全面的に感謝の気持ちしかないからな。

 

「それとアングリーウルフの素材、本当に牙と爪を一本ずつだけでいいんですか?」

「うん。討伐したのは【鉄の歯車】さんの四人だからね。依頼金の補填も出て、採取した鞄も戻ってくるなら全く問題ない。むしろ、一番良さそうな部分を貰っていいのかなって思ってるくらいだし」

「ルインがいいって言うなら、残りの素材はありがたく俺達の活動費に充てさせてもらうけど……本当に助かった」

「感謝される理由がよく分からないよ。俺は一番最初に、採取した物は【鉄の歯車】さん達で利用していいって言ってるんだから、討伐した魔物も同じだよ。俺一人で討伐した魔物や、討伐依頼をしたときはもちろん素材も貰うけど、今回は護衛依頼だし明らかに【鉄の歯車】さん達が狩っていたからね」


 俺が依頼したのは護衛だからな。

 道中の植物採取を許可出したんだし、狩った魔物の素材は当然狩った側に帰属する。

 【鉄の歯車】さん達からは、俺も討伐した一員だったからと言う理由で、牙と爪を一本ずつ分けて貰ったが、本来なら俺の取り分はないと俺自身は思ってるほど。


 それにしても、あのアングリーウルフの素材を譲って貰えたのは嬉しいな。

 丁度、植物採取用のナイフが欲しかったところだから、この牙でナイフを作ってもらうのもアリかもしれない。


「それじゃ、俺達はこれからギルドへの報告は行うから、ここで別れようか。ルインは明日、ギルドに行って手続きをして貰えれば、すぐに補填分と……もしかしたら鞄も届いていると思う」

「分かった。明日、冒険者ギルドに行ってみるよ。四人共、今日は本当に助かった。また、護衛依頼を頼むから、その時もよろしく頼みたい。……あと、ライラとニーナには、昨日見て貰った香辛料の売れるお店を紹介して貰えると助かる」

「そう言えば紹介するって約束してたね! 明日か明後日には紹介するから……夜、時間あるときに【ビーハウス】って宿屋に来てくれればいると思うよ!」

「【ビーハウス】だね。分かった、明日か明後日の夜空いた時間に行かせてもらう」


 ライラからお店を紹介してもらう約束と、泊っている宿屋の名前を教えて貰い、俺は【鉄の歯車】さん達と別れた。

 前回に引き続きアクシデントには見舞われたが、今回は【鉄の歯車】さんたちのお陰で、無事に切り抜けることが出来て良かった。

 


 まだ日は真上にも来ていないがもうヘトヘトだし、今日は宿屋に戻って体を休めようか。

 宿屋でゆっくりしながら、植物を使って色々と試してみよう。


 グルタミン草も生成できるはずだし、グルタミン草については詳しく調べたいな。

 俺はそんなことを考えながら、静かなことに少し寂しさを覚えながらも、一人ボロ宿へと戻った。


 ボロ宿に帰り、俺は早速グルタミン草を生成する。

 グルタミン草は素のレベルが高かったから、生成出来るのかが少し不安ではあったが、無事に生成することに成功し、ホッと一息。


 これでグルタミン草の生成魔力が14以下であることも分かったな。

 とりあえずグルタミン草を三分割にして、それぞれ違う使い方をしてみよう。


 一つはこの間やったように煮立たせてダシを取り、もう一つはグルタミン草を直接食べるために刻んで煮詰めてみる。

 そして最後はシンプルに乾燥させてみて、どうなるかの実験。


 思いつく調理方法がこの三つだけだったが、元が美味しいため、どの調理法でも美味しくなるのではと予想はしている。

 俺が知りたいのは、どの調理法がよりグルタミン草を引き立てることができるのか。

 

 このグルタミン草は売るだけでなく、俺の食生活にも大きく係わってくるものだと思っているからな。

 もしかしたら、ダンベル草の苦みも消し去る程の旨味を作り出せるのではと、密かに期待をしている。


 俺はおもむろに、出発前に作っておいた乾燥したダンベル草を取り出すと、それを細かく刻んで飲みやすくする準備を整える。

 今日はこの乾燥させたダンベル草の粉末を、グルタミン草スープで飲んでみることを決めていた。

 あの、旨さだったらダンベル草の苦みにも勝てると思うんだけどなぁ。

 

 そう考え付いたものは良いものの、俺は数分後にはダンベル草に勝てる食材などいないと——後悔することになるのだった。


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