第四十五話 『断鉄』


 その後、詳しい契約確認の話を受付嬢さんと話したあと、俺は冒険者ギルドを一度後にする。

 いつもの如く顔合わせまでは少し時間があるから、その間に旅での必需品を買いに行こうか。

 前回の一件で、より一層必要な物がなにか分かったからな。

 お目当ての品を買いに、早速市場に行こうか。


 グレゼスタの街の大通りにある市場へと着き、とりあえず前回必要と感じた物を次々と買っていく。

 携帯食料×10、ボロ布、水入りボトル、小瓶の油、魔力草×2、着火石、スライム入り瓶×10。

 とりあえず、大通りの市場で必需品であるこれらを購入した。

 

 魔力草と着火石とスライム入り瓶は、前回の経験から必需品一覧に新たに加わり購入。

 魔力草に関しては購入するかどうか迷ったのだが、もし明日出発だとしたら生成が間に合わないと考え、魔物除け用に最低限の数だけ購入を決めた。


 スライム入り瓶には以前生成していた薬草と、【エルフの涙】で買い取って貰えなかった高品質の毒草を漬ける予定。

 毒入りスライム瓶は非力な俺にも扱える、唯一の武器と言えるからね。

 瓶を敵に当てるのが難しいが、そこは工夫すれば大丈夫なはず。


 市場である程度の買い物を終えた俺はそのまま大通りにある、とあるお店を目指す。

 ……えーっと、ここか。俺の正面には【断鉄】と書かれた看板が掲げられたお店。

 

 このお店はアーメッドさんに教えてもらったお店で、【青の同盟】さんたちの武器やら防具はここで購入、整備をしていたらしい。

 今まではお金がなかったのもあるけど、護衛してもらっているんだしいいやと言う甘えがあり、防具にも武器にも一切のお金をかけてこなかったが、前回の経験から絶対に必要だと言う考えに至り、装備を整えることを決めた。


 早速、お店の扉に手を掛けて中へと入ると、鉄特有の血のような匂いが鼻をついてくる。

 お店の正面には乱雑に武器やら防具が置かれていて、店主の姿は今のところ見えない。

 乱雑に置かれた武器に目を惹かれた俺は、店主を呼ぶことを忘れて目の前の武器に飛びついた。


 どれも派手な武器ではないのだが、素人目にも質が高いことが分かる。

 刃先を見ていると変な好奇心が湧いてきて、ちょっとだけ刃の部分を触りたくなり、指を刃の部分にゆっくりと伸ばすと——その瞬間、店内に爆音が鳴り響く。


「オイッ!小僧ッ!! 俺の店の商品に何してんダアッ!!」


 咄嗟に音の方向を向くと、毛むくじゃらでムキムキの小さなおじさんが鬼の形相でハンマーを振り上げて、こっちへ向かってきている。

 俺は慌てて武器の場所から離れ、弁明するために距離を取った。


「すいません!! 武器を買いに来たんですけど、お店入ってすぐに良い武器が見えまして、好奇心からつい触ろうとしちゃいましたっ!」


 両手を上に上げて、何も盗っていないことを証明しつつ、大声で無実を伝える。

 俺の声が聞こえたのか毛むくじゃらの店主さんは立ち止まり、そして固まってしまった。

 頭の中で整理し、次第に状況が分かったのか、しかめっ面だった店主の表情は和らいでいき笑顔となった。


「がっはっは!! なんだっ! お客さまだったんか!! それなら先に言ってくれよお! てっきり泥棒かと思っちまったじゃねぇかァ!!」

「本当にすいません。まず最初に店主さんを呼ぶべきでした」

「まあ、泥棒じゃねぇんだったらいいんだ!! わりぃなぁ! 怒鳴ってよ!」


 ハンマーを下ろし近寄ってくると、俺の背中をバンバンと叩きながら、優しい言葉を掛けてくれる店主さん。

 見た目もごっついし、声もハチャメチャに大きいが、決して悪い人ではなさそうで一安心。


「それで! 坊主は一体何を買いに来たんだァ?」

「武器と防具一式を揃えたいなぁと思っていまして。……実は【青の同盟】と言う冒険者パーティの方から聞いたことがあったため、来てみただけで何がいいのかとかよく分かっていないんですよね」


 俺がそう告げると、再び固まった毛むくじゃらの店主さん。

 その瞬間。


「なんじゃ坊主ッ!! アーメッドの知り合いなのかッ!!!」


 怒鳴られたときと同じくらいの声量で、嬉しそうにそう言ってきた。

 声量にはビックリしたが、店主が嬉しそうなところを見ると……アーメッドさんは嫌われてたとかではないのかな。

 アーメッドさんは比較的どこに行っても、コソコソと噂されるくらいには嫌われていたからかなり珍しい。


「え、ええ。よくクエスト依頼をしてまして、その繋がりで良くしてもらっていました」

「そうかそうか!! それなら益々大歓迎だッ!!」

「店主さんはアーメッドさんとは仲が良かったんですか?」

「そりゃあもちろんッ!! アーメッドとはよく一緒に賭けをしながら酒を飲んでいてな!! 頭が悪いが勘が鋭でぇんだよ! アーメッドとのギャンブルは楽しかったぞ!!」


 本当に楽しそうにそう語る毛むくじゃらの店主さん。

 確かに、この店主さんとアーメッドさんは馬が合いそうだ。

 お酒も強そうだし、賭け事も好きってことで趣味も合っているし。

 ……と言うか、アーメッドさんの趣味がおっさんすぎるよなぁ。


「そうなんですね。私もアーメッドさんのことは好きなので、褒めて下さってるのはなんだか嬉しいです」

「がっはっは! アーメッドを褒めて、坊主が嬉しいと感じるって意味が分からんな!! ……まあでも気に入ったぞ! 良い武器を見繕ってやるから期待しておけッ!!」

「本当ですか! ありがとうございます!」


 そう言ってくれた店主さんにお礼を言い、俺はもじゃもじゃの店主さんと一緒に武器を選んで行った。

 最終的に決めたのは、俺でも扱える切れ味抜群の鋼製の剣と、ライトメタルと言う素材が使われた軽いプレート。

 見繕って貰ったにもかかわらず、割引までしてもらって、合計金貨10枚と値段は結構掛かってしまったものの、本当に満足のいく買い物が出来た。


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