第二十六話 冒険者ギルドでの査定額

 

 おばあさんと長話をしたため、時間的には査定が終わっていてもおかしくない時間だ。

 買取結果を聞きに、このままの足で冒険者ギルドへと行こうか。


 『エルフの涙』で高額買取をしてもらったため、多少冒険者ギルドでボッタくられたとしても、許せるくらいの額は既に手にしている。

 今回は取引金額にはこだわらず、今後の冒険者ギルドで買取を行うかどうかの判断の見極めに使っても良さそうだ。

 流石にあまりにも買いたたかれたら、売るのを断るけれど。


 もう手慣れた様子で、冒険者たちを掻き分けて受付へと目指す。

 治療師ギルドで働いていたときも感じていたが、人間と言うのは慣れる生き物だと改めて思う。

 あれだけ怖かった冒険者たちが、既にそこまで怖く感じていないことに恐怖を覚えるくらいだ。


 早速、受付嬢に買取番号札を見せ、後ろの部屋へと向かって行った受付嬢の帰りを待つ。

 しばらく待っていると、買取案内の際に俺の対応をしてくれたスキンヘッドの職員さんが、俺が渡した麻袋を持って後ろの部屋から出てきた。


「おう、待たせたな坊主! 鑑定は終わっているから、俺と一緒に確認してくれ!」

「はい、もちろんです。よろしくお願いします」


 麻袋を受付のテーブルに置くと、一枚の紙を取り出し俺に見せてきた。

 すぐに受け取り、買取額が書かれた紙にザっと目を通す。


 やはり思った通り品質では分けられておらず、種類ごとにしか鑑定されていない。

 今回は中品質も一緒に買取をお願いしたのだが、一律の値段となっているな。

 値段も——うーん、低品質のものだけの買取と考えれば……手数料がかなり痛いが許容できるレベルって感じか。


 俺が持ち込んだ植物の合計査定額は銅貨636枚分で、手数料として銅貨63枚分が引かれている。

 結果、俺の手元に入ってくるお金は金貨5枚と銀貨7枚だ。

 冒険者ギルドの買取に関しては予定よりも少なかったが、『エルフの涙』で買い取ってもらった金額と合わせれば金貨7枚と銀貨5枚。

 

 魔力草を一切売らずにこの金額ならば十分すぎる結果。

 今回採取した全ての魔力草を自分用として使えるのだからな。

 やっぱり『エルフの涙』で高値で買い取ってもらえたのが大きかったと、身に染みて感じている。


「どうだ? これで買取で大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。買取の方、よろしくお願いします!」

「よっし! それじゃこれで取引成立だ! いやぁ植物だけの買取でこの額は業者以外では久しぶりだな!」


 やっぱり植物だけで、この額での買取は早々ないのか。

 薬草の需要が高いと言っても、魔物が狩れるならば非効率極まりないもんな。

 薬草農家と言う、強いライバルもいるし。


「それじゃ買取証明として、この紙に指印を頼む」

「えーっと、これで大丈夫ですかね?」

「うしっ、バッチリだな! それじゃこれが今回の買取額の金貨5枚と銀貨が7枚。間違いはないよな?」

「はい。確かに頂きました!」

「これで取引完了だ。また売りたいものが出来たらいつでも持ってきてくれ。……俺は出来れば、魔物の素材の方がいいんだけどな!」

「魔物の素材は……しばらくは難しいかもしれませんが、植物はまた持ってくるかもしれません。その時はよろしくお願いします!」


 スキンヘッドの職員さんにお礼を伝えてから、俺は冒険者ギルドを後にする。

 今日の目的の一つであった、買取作業がこれにて終わった。

 後はボロ宿に帰って魔力草の摂取を行うだけだが……ちょっと色々と買い物をしようか。

 

 流石にあの量の魔力草を素の状態で食べるのは難しい。

 ……と言うか、絶対に無理だ。


 ダンベル草ほどでは決してないが、魔力草も相応には苦いからな。

 俺は口直しの食材を買うべく、市場へと向かう。


 市場を歩いて思うが、財布が温かいと心まで温かくなるなぁ。

 コルネロ山に向かう前の買い物は、本当に身が削れる思いでお金を使っていたからな。


 今は残っていた金貨2枚分の全財産も含めて、金貨9枚と銀貨5枚分も手元にある。

 まあそれよりも、お金を稼ごうと思えば稼ぐことが可能という認識ができたことの方が、気持ち的には大きいか。


 懐と気持ちの温かさにルンルン気分で市場を歩いていると——。急に物凄い勢いで背中をぶっ叩かれた。

 思わず吹っ飛びそうになるが、なんとか両足で踏ん張り堪える。

 ……背後を見なくても、誰だか分かってしまうのが嬉しいことなのか、悲しいことなのか分からない。


「アーメッドさん、いきなり背中を叩くのは止めてください!」

「おっ? ルインッ! なんで俺の方見てないのに、俺だって分かったんだ!?」


 そう言葉を発してから振り向くと、本気で驚いた様子のアーメッドさんが立っていた。


「そりゃ、いきなり背後から背中を叩くなんて、アーメッドさんぐらいしかしませんからね。それでなんで叩いたんですか?」


 俺が驚いているアーメッドさんにそう尋ねると、後ろからディオンさんとスマッシュさんが現れた。

 依頼帰りなのか、三人ともフル装備且つ所々汚れているのが目に付いた。

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