第九話 筋力増強草


 未鑑定植物2種類目。

 こっちは独特な色合いをしている植物だ。

 口に入れたくはないが……目を瞑り、一気に口へと放り込む。


【名 前】 クレイム草

【レベル】 15

【効 能】 痺れ(極小)

【繁殖力】 低

【自生地】 コルネロ山


 例の如く瞬時に鑑定され、出た名前はクレイム草。

 こっちはボム草と違って、聞いたことも見たこともない植物だな。


 ……効能は痺れで効力は極小。

 痺れってだけを聞くと使えそうだが、効力が極小となると話は変わってくる。

 かなり迷ったけど極小効果の植物は、今は採取しないことに決めた。


 持てる荷物の量にも限りがあるし、初日は選んで採取しないとすぐに容量オーバーとなってしまう可能性も高い。

 もちろん採取して、荷物がいっぱいになってから整理してもいいのだが、面倒くさいし余計に時間を食ってしまうからな。

 取捨選択は出来る内にしたほうがいい。


 次がこの周辺に生えていた最後の未鑑定植物。

 一瞬、雑草と見間違えるほど見た目は雑草そのものなのだが、手をかざしても鑑定されなかったことから、ただの雑草ではないことが分かった。

 まあ、見た目は雑草なのであんまり期待していないが、使える植物の可能性もあるからな。

 適当に摘んでから、口へと入れる。


【名 前】 ダンベル草

【レベル】 89

【効 能】 筋力上昇(小)

【繁殖力】 極低

【自生地】 コルネロ山


 …………ん!?

 とんでもない情報が脳を駆け巡った。

 筋力上昇ってなんだ? それにレベル89?

 

 鑑定を行って五年は経つが、初めての経験だらけで脳みそが混乱する。

 ダンベル草なんて聞いたことがないし、俺はレベルが40を超えた植物ですら今までみたことがない。

 それだけじゃなく効能の筋力上昇もよく分からないし、繁殖力が極低な植物も初めて。


 ……これはもしかしたらなのだが、噂には聞いたことがあった食べるだけで筋肉がつくと言われている植物なのかもしれない。

 市場にも出回っていないし、正直そんな植物があるなんてこと半信半疑だったのだが、本当に実在したんだ。


 まあそりゃ、五年間常に植物を鑑定してきた俺が見ても雑草と見分けがつかないならば、一般的な冒険者が分かる訳がないよな。

 俺はすぐに近くに同じ植物が生えていないか確認したのだが、周辺には先ほどの一本しか生えていなかった。


 鑑定のデメリットは、初めて鑑定する植物は消えてしまうところだな。

 それと効果が得られないのもデメリットか。

 もちろん後者に関しては、圧倒的にメリットの方が大きいから文句は言えないのだが。


 ただ、これで魔力さえあればダンベル草を生成できるようになったのと、このコルネロ山にはダンベル草が生息している情報が手に入った。

 繁殖力が極低なことを考えると、すぐには見つからない希少な植物ではあるのだろうが。

 ……とりあえずここら一帯の採取も終わったし、場所移動の提案も兼ねて一度三人の下へ戻ろうか。



「ただいま戻ってきました」


 先ほど別れた場所に戻ると、先ほどと変わらずアーメッドさんは気持ち良さそうに寝ていて、ディオンさんとスマッシュさんはなにやらカードのようなものを広げていた。

 

「ルイン君。もう戻ってきたんですか?」

「はい。ここら辺での収穫は一通り終わりまして、出来れば移動したいのですが……無理ですかね?」


 訪ねながら俺は、ちらりと気持ちよさそうに眠っているアーメッドさんを見る。

 二人も俺と同じ様にアーメッドさんを見てから、同時に首を縦に振った。


「こうなるとまだまだ起きませんので厳しいですね。それに無理やり起こすとどうなるかは……もうルイン君ならば分かりますよね」


 ディオンさんの意味ありげな問いに全力で頷き、肯定する。

 なるほど。ここを拠点としてしまったから、アーメッドさんが起きるまで動けないのか。

 ……かと言って、もうこの辺りに目ぼしい植物は生えていないからな。

 これは正直困った。


「それならあっしが護衛するぜ? スキルで敵を感知できやすからね」

「あー、確かにそれは名案ですね。私がここに残りアーメッドさんを見張っていればいいのですから」

「えっ? スマッシュさんいいんですか? ありがとうございます!」


 思わぬ提案をスマッシュさんからしてくれた。

 少し話を聞くとなんでもスマッシュさんは元盗賊のようで、索敵能力に長けているところをアーメッドさんに評価され、この【青の同盟】へスカウトされたらしい。

 その実力は本物で、この周辺の魔物ならば確実に気づかれる前に探知できるため、戦闘にはならずに回避できるそうだ。


「それじゃディオンさん。行ってきます」

「ええ。アーメッドさんは任せてください」


 こうして、俺はスマッシュさんと共に再び薬草採取へと出かけた。

 ディオンさんはともかく、スマッシュさんは見た目が怖そうな割りに、俺に優しくしてくれる。

 今回の提案もそうだし、アーメッドさんはともかく、二人が融通を利かせてくれるため、【青の同盟】に依頼して本当に良かったと心から思った。

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