第一部 第二章「バケモノと仮面の男」
第6話 転校生
ルナと契約を交わした次の日。
俺は教室の机にうつ伏せになっていた。
あぁ。頭が痛い。しんどい。
親戚のおっさん達が二日酔いで頭抱えている所を見たことがあるけど、今ならわかる気がする。
『零、大丈夫?』
ルナの声が頭の中を響く。
そういや、ルナが連絡魔術で話しかけるって言っていたな。
確か頭の中で思ったことを伝える魔術だっけ?
「大丈夫そうに見えるか? 死ぬほどつらいんだが……」
しんどそうな顔をしながら独り言を呟く様な声のトーンで話す。
俺の席の近くで喋っていたクラスメイトがギョッとした顔をして離れていったが気にしない。
だって、これは必要なことだから……。
『プッ。零、口に出さなくても……いいよ? 私の魔術で伝わるから』
先に言えよ! 口に出しちゃったじゃんか。
先生にお母さんって言うくらいに恥ずいよ。今の。
羞恥で真っ赤に染まっているであろう顔を両手で隠していると、足音が聞こえてくる。
「零君。大丈夫?」
声のする方向に視線を向けると、心配そうな顔をした幼馴染様がいた。
「うん? 雫。どうした?」
「顔色悪いよ?」
「あ、ああ。ちょっとなぁ。昨日……まあ、いろいろあってなぁ」
「いろいろ?」
どう説明したらいいものか…。そういえば、あの後……。
心の中で頭を抱えながら、昨日のことを思い出す。
・・・
教室で激闘を終えた後、ルナに背負ってもらいながら家に帰っていた。
「零。こっちでいい?」
「ああ。うん。で、そこを右に……」
「右ね。了解」
ルナはそう言うと、曲がり角を右に曲がる。
そういえば、ルナはこれからどうするのだろう?
唐突にそんな疑問が頭の中に思い浮かんでくる。
俺が呼んでしまったから俺が悪いのだろうけれど、ルナにもやっぱりやりたいことがあるだろうし……。
ていうか。あれ? なんで、ルナは俺のことを助けてくれたんだろう?
様々な疑問が頭の中に思い浮かんでくる。
「なあ、ルナ。背負ってもらっている状態で聞くのはあれだけど。なんで、俺を助けてくれたの?」
その言葉を言った瞬間、ルナの足が止まった。
やばい。気を悪くさせたかな?
「ああ。ごめん。少し気になって」
「……から」
「え? なんて?」
「昔、ある人に“情けは人の為ならず”って言われたから」
“情けは人の為ならず”か……。
「俺も好きだな。その言葉」
「そう」
ルナはそう言うと、再び歩き出した。
ただ、さっきと違ってその足取りはどこか嬉しそうに見える。
なんか、嬉しかったんだろうか?
「あ、そうだ。ルナ。もう一つ……」
聞きたいことがある。そう言いかけた時、ルナの足が止まった。
「多分。着いたよ。ここで合ってる?」
「ああ。うん。合ってる。ここが俺の家だ」
「そう。じゃあ、『
ルナは呪文のようなものを口にすると、そのまま玄関まで近づいていく。
「ちょっ⁉ ルナさん⁉」
「何? どうしたの?」
「俺、妹がいるんだよね。だからさ。ルナの事なんて説明すればいいか……」
ただでさえ嫌われているのに。ロリコンって思われて、さらに嫌われた後、犯罪者扱いされる未来はさすがに嫌だ。
「零。今、失礼なことを考えたでしょ。私。17歳。多分あなたと同い年。あと、それに、魔術をかけているから、ほら。私の姿見えないでしょ」
ルナは俺を下ろすと、近くでジャンプしたりしているのか、足音だけが聴こえてくる。
「確かに見えな……って、それよりも! ルナって同い年だったの?」
・・・
そうそう。確か、この驚愕の事実を知ってしまったせいで、結局ルナにやりたいことを聞けなかったんだよなぁ。
いや、でも待てよ。これってそもそもルナが合法ロリなのが悪くないか?
うん。ルナが合法ロリなのが悪……。
ゴンッ!
開き直ろうとした瞬間、頭に鈍い痛みが走る。
「ふごおぉぉぉ!」
頭が…。頭が~!
頭を押さえながら机に倒れ込む。
「零君⁉」
「いや、何でもない。ちょっと頭痛がしただけだ」
あまりの痛さに涙が少し出そうになるが、気合で抑える。
「そう。……あっ、もう時間だから戻るね。じゃあね」
「あ、うん。じゃあね」
雫が自分の席に戻っていくのを見送った後、再び机にうつ伏せになる。
はあ、絶対、雫に変に思われた。
『元気出しなよ。零』
クスクスと笑うルナの声が頭に響く。
ルナ。急に叩くんじゃねえよ!
涙が出るところだったじゃねえか!
『零が悪いでしょ? 聴こえてなかったわけじゃないからね?』
うっ! すみませんでした。ごめんなさい。
『それで? さっきの人は零の彼女?』
え、いや? まだ幼馴染だよ?
『フフッ。“まだ”ね』
うっ。揶揄うなよ。ルナ。
『わかったよ』
そういえば、ルナ。聞いてみたかったんだけど。この身体のしんどさ。なんとなく予想はつくけどさ。なんでこんなにしんどいの?
そう聞いた途端、頭の中で考え込むような唸り声が響いてくる。
『うーん。多分、魔力切れ』
魔力切れ?
『そう。魔力切れ。しかも、過度な方。原因としては多分、私を召喚したから?』
なんで、クエスチョンなんだよ。もっと自信とかないの?
『うーん? 無い!』
じゃあ、この倦怠感どうにか出来る方法はないの?
『無い!』
即答かよ。
「はあ」
「ため息なんてついて、どうしたんだ? 零」
体を起こしてため息を吐いていると、隼がやって来る。
「あ、隼。おはよう」
「おう。おはよう。零。そう言えば聞いたか? あの話」
「あの話?」
何かあったっけと俺が聞くと、隼はワクワクしながら話し始める。
「実はなあ、うちのクラスのやつが職員室前で転校生らしきやつを見たって言ってたんだよ」
「へえー。でも、うちのクラスに来るかわかんないだろ?」
「それがなあ、零。聞いて驚け! 何と、他のやつがその話を聞いてすぐに、盗……ゲフンゲフン。耳にしたらしいんだ」
「今、盗聴って言わなかったか?」
「細かいことは気にするな!」
隼は俺の突っ込みに対し、笑っていた。
転校生か……。
「そういえば……」
キーンコーンカーンコーン
俺が話を切り出そうとしたところで、チャイムが鳴った。
「また後でな。零」
「ああ。また後で」
先生が教室に入ってきたので、隼と別れる。
「よし! まず皆にいい話があるぞ! 何と!」
先生がニヤニヤしながら、テンション高めに言い始めるが、
「転校生ですよね。先生」
クラスメイトの誰かが先生より先に口にしてしまった。
「なあ、せめて言わせてくれよぉー! って、その前に何でお前ら知っているんだ⁉」
「あのー。もう入ってもいいでしょうか」
先生が半泣きになっていると、教室の扉の向こうから凜と透き通るような声が聞こえてきた。
「あっ、ああ、もう入ってきてもいいぞ」
先生の合図とともに教室の扉が開き、金髪翡翠眼の女の子が入ってきた。
「「「おおおおおお! 金髪美女だ!」」」
金髪美女が登場するや否や教室内の男子が騒ぎ始める。
「はい。落ち着け! 男子ども! 転校生はもう一人いるからな!」
先生がそう言うと、開いた扉からオドオドとした前髪で目が隠れた地味な感じの男の子が入って来た。
「「「……」」」
その瞬間、皆の興奮が一気に冷めた。
「えーと。僕。帰った方がいいですかね」
男の転校生もさすがに気まずかったのかそんなことを言い始める。
「えー。いや、帰らないでね! うーん。零! なんとかしろ!」
先生はどうにかしないといけないとさすがに思ったのか悩み始め、何故か俺に振ってきた。
「えー!? なんで、俺なんですか?」
「お前。今日の日直じゃん。それに俺、今から職員会議なんだ。じゃ」
先生はそう言うと、そそくさと逃げていく。
「え、ちょっ⁉」
あのクソ担任!
内心毒づきながらも、教壇に立って転校生の自己紹介へと持っていくことにする。
「じゃあ、ごめん。2人とも自己紹介してくれるかな? どっちが先でもいいよ」
「じゃあ、僕から。えっと、僕は
男の子が自己紹介を終えると、女の子の方が前に出て自己紹介をし始める。
「私は、アイリス=イグナートと申します。気軽にアリスと呼んで下さい」
「「「おおおおおお!」」」
転校生の女の子の方が自己紹介を終えると同時に、男子たちの歓声が波となって教室内に響く。
「アハハ、では、俺は先生を呼んできますんで、後は勝手にどうぞ」
そう言い残して、教室を後にする。
教室を出る直前、アリスがこちらをじっと見ていたような気がするが勘違いだろう。
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