Memory Seeker -Inherited memories-平凡少年の成長録
語り手ラプラス
第一部 第一章「始まりの夜」
第1話 始まりの夢
開けた森の中を日が差し込んでいる。
そこには、丸太が何個か置かれており、幼い頃の自分と男性が何か楽しげに話していた。
「零、君は将来の夢ってあるのかい?」
男性は幼いころの自分を見て、どこか楽しそうな声で聞いていた。
聞いていたというのも、男性の顔はモザイクが掛かっていてよく分からない。
ただ、分かっているのは幼いころに自分が男性と会っていたという事実だけだった。
「僕はね。皆を助けるヒーローになりたいんだ」
男性の問いに幼いころの自分はニッコリ笑顔で答えていた。
幼いころの夢だ。よくありきたりな夢だろう。
「ヒーローか。…いい夢だな」
ただ、男性はどこか悟ったような声でその答えを聴いていた。
その声は少し寂しそうでもあって、俺は…
・・・
「はっ!」
目が覚めて時計を見ると、もう起きないといけない時間だった。
ベッドから起き上がって、部屋の窓を開ける。
すると、開けた窓から風がスゥっと吸い込まれるようにして入って来た。
「すうぅ。はあ。今日もいい天気だな」
俺、
あの後、どうなったんだっけ?
どうしても思い出せない。
男性の顔も、あの後にした会話の内容も。
男性を探して聞けばいいのではないか?
普通ならそう思うかもしれないが、男性はこの会話の後、何故か消息を絶ってしまい。
それからというもの、会うことが出来ていない。
しかし、分からない事だけではない。
ただ一つわかるものがある。
俺は首にかけているペンダントを寝間着の中から取り出して見た。
そのペンダントは卍型の紋章のようなモノが入った水晶であり、夢の中で出てくる男性が自分に対してくれた物である。
こんな物まで貰っておいて、男性についての記憶が無いとか。失礼すぎるだろ。
ペンダントを見ながら自己嫌悪に陥っていく。
「はあ」
溜息を吐き、窓を閉めて洗面所に顔を洗いに向かっていると、
玄関前にいた俺の妹、
凜の足元に視線を向けると、竹刀用の入れ物が視界に入った。
凜は俺の一つ下で、竹刀からもわかるように剣道部に所属している。
「「・・・」」
お互いに沈黙する中、
「・・・おはよう。朝早いなぁ」
俺は凜に話しかけた。
「・・・」
凜は黙ったまま、荷物を持って玄関から、出ようとする。
やっぱり、こうなるか。
この会話からわかるように、俺は妹の凛と仲は良くない。
そもそも、凜は俺が5歳、あの夢で出てくる男性と会っていた頃にできた妹、いや違うな。義妹だった。
凜は俺が5歳の頃、今から12年前に起きた大災害で実の両親を失って、うちに引き取られた子だった。
初めて会った頃は、妹が出来て嬉しかったが、次第にその気持ちも薄くなってしまった。
凜はその時にはもう表情のない子供になっていたのだ。
昔は笑っていたのかもしれないが、今は泣くことも、笑うことも、怒ることもない。
それはまるで、人形のようで、成長していくにつれて会話が余計に出来なくなってしまった。
ドアノブに手をかけた凜がふと立ち止まる。
「……兄さんはもう剣道をしないんですか?」
凜は俺にそう聞いてきた。
なんで、そんなことを聞くのだろうか?
凛の考えている事がわからない。
ただ、答えはもう決まっている。
「ああ、もうしない。俺は向いてないからな」
「・・・そうですか」
俺がそう答えると凜は素っ気のない返事をすると、ドアを開けて出ていった。
凜を見送った後、洗面所に行って、顔を洗う。
まさか、妹との久しぶりの会話が剣道だとは……。
鏡に映る自分の顔を見ながら、先程の会話について考えていた。
俺は今、部活はしていない。
いわゆる、帰宅部というやつだ。
以前は剣道部に所属していたが、途中で向いていないことを悟り、すぐに辞めている。
それからというもの、いろんな部活に入ってみたが、どれもそれなりにはこなしてみせた。
……が、才能のある者には及ばないといった事が連続して、俺は帰宅部になった。
顔を洗い終わり、洗面所を出て朝食を食べる。
食べている途中、玄関のほうからインターホンの音が鳴った。
時計をふと見ると、かなりやばい時間である。
やばい。怒られるかも!
そう思いながら朝食を食べ終わり、急いで準備をして、玄関のドアを開け…
「ごめん。雫」
俺は扉の前にいた人物、幼馴染の
「もう! 遅いよ! 零君。おばさんとおじさんがいないからって、遅刻しちゃダメだよ」
雫はプンプンと可愛らしく怒ると、親が子供にするような説教をしてきた。
ただ、本当に自分の幼馴染なのか疑ってしまうほどの美人なので、怒っている姿も絵になっていた。
「もう! ちゃんと私の話聞いてよ!」
そんなしょうもない事を考えていると、目の前にいた雫が頬を膨らまして怒っていた。
「あっ、ごめん」
「ふんっだ。どうせ、私の話なんて零君にとっては面白くないんだ」
雫は俺が話を聞いてなかった事を根に持って、すね始めた。
「ごめんってば。本当にわざとじゃないんだよ。」
「・・・」
必死で謝っても口をきいてもらえない。
「分かった。何かおごるから。それでなんとか機嫌を直してください。お願いします!」
「・・・限定プリン(ボソッ)」
「へっ?」
「だから、購買で売ってある数量限定のプリンで許してあげる」
雫はニコッと笑いながらそう言った。
「わかりました。必ず手に入れてきます!」
「よろしい!」
それから、あれこれ会話していると、学校に着いた。
下駄箱で靴を履き替えていると、ダダダッと誰かがこちらに向かって走っている音が聞こえて来た。
音のする方向を見ると、親友の
な、なんだ! すげえ怖い。俺なんかしたっけ?
あまりに怖いので、隼から逃げるように走り出した。
「なーんーで、逃げるんだよー!れーい!」
後ろからそう叫ぶ声が聞こえてくる。
お前が怖いからだよ!
後ろを振り向いてそう突っ込んでやりたい気持ちになったが、後ろを振り向く勇気も無く、ただただ走り続ける。
学校の中を3周くらいしたのだろうか。
途中、先生から注意をされた気がするが分からない。
俺と隼は屋上まで来ると、
疲れて床に横たわった。
「はあ、はあ。零、お前帰宅部なのに体力あるなぁ」
「はあ、はあ。一応、鍛えてるからな。で、俺を追っかけた理由は何なんだ?」
「あ? ああ、零、お前今日暇か?」
「暇じゃない」
「今日、陸上部のマネージャー手伝ってくれないか?」
「だから、暇じゃ・・」
「頼むよ」
「分かった」
隼に必死に頼み込まれ、了承してしまった。
「じゃあ、放課後頼むな!」
話が終わり、立ち上がって教室に行こうとした時、前を歩いていた隼が振り返った。
「あっ、そうそう。零、お前先生に呼ばれていたぞ。うん。これでほかに伝えないといけないことはないな!」
隼がそう口にした時、
キーンコーンカーンコーン♪
学校のチャイムが鳴った。
「「あっ」」
2人で顔を見合わせる。
「はあ」
マジかよ。
「あー。なんか……」
起きてくれないかな。
大の字に寝っ転がりながら、雲一つない青空を見ながらそう呟いた。
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