第47話
如紀ちゃんと、現地についてからもしばらく会話はなかった。それぞれ思考を巡らすのに精一杯でありきたりな会話をする気にはなれなかった。しかし、行き先を決めるのには、会話が必要だった。
「まず、どこに行く?」
急に声を出したものだから、彼女は少し驚いていた。駅を出ると商店街の反対側にバス乗り場がある。どのバスに乗るかは行き先が定まっていないと決められない。
「そうね。一番行きそうなところ。とりあえず、別荘に行ってみる?」
頷いた。しかし、別荘は駅から割と時間がかかる。それに、車ではないため、小回りが効かない。でも、他に案がなかったので、向かうことにした。
心地よいバスの揺れが思考を巡らす。しばらくすると森林が広がった。窓は緑で埋め尽くされている。今皐奈ちゃんは何を思っているのだろうか。いや、昔から彼女は何を考えてきたのだろうか。皐奈ちゃんは、純粋で素直で優しい妹だ。そう断言できる、つもりだった。しかし、睦空のことがあってから、彼女の信用もなんとなく薄まってきている。緋弥の影に隠れて、少しずつ私を追い詰めていた。もしかしたら、皐奈ちゃんに対するこのイメージも、私の理想だったのかもしれない。睦空と同じように。そう考えたら怖くなった。自分だけが別のものを見ているような、ワードウルフでウルフになった時と同じ感覚を覚えた。それと同時に自分の記憶や感情さえも信じられなくなっていた。あれは夢だったのかもしれない。あれは自分の感情が書き換えた記憶だったのかもしれない。そんな憶測ばかりが広がる。それは恐怖しかもたらさない。でも、幻を信じ続けるよりは、怖くない。
誰にも裏切られないような人になりたい。でも、その人は裏切ったつもりはないのかもしれない。ただ単に本能のままに行動しただけで。私のその人に対する理想が、その人の現実に敵わなかっただけなのかもしれない。それで、私は裏切られたとか言って、惨めな気持ちになっているのなら、なんて馬鹿らしい。情けない。
でも、それが私なのだから、せめて自分は認めてあげるしかない。
「もうすぐつくね。」
如紀ちゃんのその言葉が私の思考を中断させた。ちょうどいいタイミングだった。
「いますように。」
バスを降り、二、三分歩いた。
「外見は何も変わってないね。」
「だね。」
緋弥によると、皐奈ちゃんの車は東京に残っているらしい。おそらく、私たちと同じように電車で移動しているのだろう。だから、別荘に車が止まっていないのも、自然なことだった。
鍵を開けて、中に入る。窓にはカーテンがかかっていて、中の様子はあまり見えなかった。でも、光が漏れていないので、ここにはいないのかもしれない。その予想は当たってしまった。人が来た気配は全くなく、家の中も外も、前回私たちが訪れたときの何の変わりもなかった。とても、人が過ごしたようには見えなかった。
「残念。次はどうする?」
如紀ちゃんが聞いた。思い出の場所を考える。
「ビーチとかは?皐奈ちゃん、好きだったよね。」
一番に海に飛び込む皐奈ちゃんの姿が頭に浮かんだ。怖がりなのに、いつも一番乗りで入っていた。
「確かに、いるかもね。」
とりあえず、どんどん場所を回るしか方法がないので、再び、バスに乗り目的地へ向かった。車がないと、お金も時間もかかるので、かなり不便に感じた。スーツケースも持ち歩かなくてはいけない。
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