第38話

 今まで毎日のように更新されていたグループメールは、全てが終わったように黙り込んだ。後悔をしていない、そんな自分に後悔する日がいつか来るのだろうか。そこまで私の気持ちを変える何かが起こることを願うべき、なのだろう。

 割れたグラスは他のものを互いを傷つける。そして完全に修復することはない。元々分かれていた破片。修復してもまだ割れた。そして再び接着剤をつけたところで、元通りになることはない。私たちがグラスなのだとしたら。


 皐奈ちゃんから電話があった。

「このままで良いのかな。」

 しばらくの間、答えが思い出せなかった。

「最初の目的は父を探すこと。それは達成された。達成するまでもないことだったけど。私たちが二つ目に行ったことは、義務じゃない。緊急性もない。必要性もない。」

 ただただ根拠を並べた。おそらく、作文の試験だったらバツをもらうだろう。結論を口に出す勇気はなかった。

 なぜだろう。彼女がその結論を拒むと思ったからだろうか。まだその結論に自信がなかったからだろうか。それとも、その結論を口にすることを、私が拒むからだろうか。結論は出なかった。

「何のために始めたんだっけ?」

 また答え難い疑問を投げかけられた。

 思い返してみれば、目的は無いに等しかった。もしかしたら、私たちは何も知らずに、緋弥に誘導されていたのかもしれない。彼の目的のために動いていただけなのだろうか。そう考えると恐ろしかった。

「ただの興味本位じゃない?」

 どうでもいい、とでも言うかのように答えた。その答えに興味がないかのように。

「誰か真相を知りたい人はいるのかな?」

 緋弥の顔が頭に浮かんだ。彼ならきっと真相を知るまで、続けるだろう。

 逆に真相を知りたくない人は大勢いるかもしれない。

「四捨五入したらいない。」

 自分でもよくわからない回答だった。でも彼女は受諾してくれたようだった。

「じゃあ答えが出たね。興味本位で始めて、義務ではなく、必要性のないもの。それに誰も知りたくない真相。これ以上進める必要はないね。」

 彼女はわざとらしい明るさを纏い、そう言った。

「そうだね。」

 同意した自分の声に震えを感じた。震える自分にも震えた。

 ある物事を実行するかどうか、いくつかの基準がある。それを実行して幸福になる人はいるか。経験値を得られるか。簡単に言えば、自分や誰かのためになるかどうか。その条件を満たさないもの、ましてや、害を与えるものは無駄だと考えている。今回の件は後者に当たる。誰がどう見てもやらなくていいこと。

 色々と根拠を持ち出して、自分を説得させようとする自分に疑念を抱いた。

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