第34話

 実家にいつものメンバーが集まる。どうやら何か証拠となるようなものが出てきたようだ。

「結論から言うと、母さんの警察手帳のようなものが出てきた。」

 本当に結論過ぎて驚く。皆、え?と声を上げた。如紀ちゃんは、忘れ物を思い出した時のように口を結び、頬を歪める。皐奈ちゃんは絶句しているようだった。

 緋弥が実物を持ってくると、皆駆け寄った。確かに本物のようだった。本物を知らない私は、確かめようがないのだけれど。

「どうゆうこと?これって。」

 皐奈ちゃんが首を傾げる。

 確かにご近所さんの証言が正しければ、両親は犯罪者だ。しかし、この手帳を見る限り、犯罪者とは真反対の位置にいる人間のようだ。

「わからない。」

 沈黙が広がる。

「前、情報提供をしてくれた、近所の人にまた聞いてみる。」

 親が犯罪者、と言った人だろう。事実を確かめたいが、確かめたくない。

 構図がわからなかった。父と母の関係は一体どのようなものだったのだろう。

「誰か明日空いてる人いない?」

 しーん。無視しているわけではない。ただ考えているのだ。

「空いてるよ。私。」

 嘘をつくのは、悪いと思ったので、正直に言った。

「じゃあ、一緒に来て。」

 コクリと頷く。明日は暇だったので、ちょうど良い。他の二人は決まり悪そうに下を向いていた。予定があるのか、行きたくないのか。どちらでも私には関係ないか。

「それから、黙ってたことがある。」

 皆が振り向いた。私も気になり、視線を向ける。

「父さんは言ってた。母さんは誰かに殺されたって。」

 ドミノを倒したときのように、みんなの気持ちが一気に動転していくのを感じた。

 緋弥と視線が交わる。やっとか。

 皐奈ちゃんは戦慄していた。私もそうなった。気持ちを共有できる。如紀ちゃんは静かに目を瞑り頬を歪める。

「なにそれ。」

 驚と哀が混ざり、涙となって現した皐奈ちゃんが言った。

「父さんの出鱈目かもしれないから、確定したわけじゃないけど、そう言ってたってだけ。」

 そう確定していないからといって、傷が浅くなるわけではない。

 もし、本当に父さんの出鱈目だったら、流石に私も怒る。これだけ気持ちを動かしたのだから、気力もだいぶ使った。

「あまり驚いてないけど、望卯は知ってたの?」

 如紀ちゃんが聞く。緋弥に視線を向けると彼は話し始めた。

「独りで抱えるのには重すぎるから、共有したんだ。俺の勝手で迷惑かけたけど。」

 何も言わなかった。ただ頷いた。如紀ちゃんは納得のいかないようだった。

「つまり、私たちを疑ってるから黙ってたのね。」

 そう言い切る彼女の声は泣いていた。誰よりも長く時間を共有した緋弥に疑われていたことが、虚しいのだろう。如紀ちゃんは私を睨んだ。でも、私は選ばれてしまっただけで何も悪いことはしていない。困ったように緋弥に視線を向けた。これでは、私も被害者だ。

 何も言わない緋弥を見て、彼女は声を張り上げた。

「信じられない。」

 そう言って、部屋を後にする彼女が目に映る。悪いことをした気分だ。恨まれるようなことを、自分からしたわけではないのに。

 緋弥だって、如紀ちゃんを傷つけようとしたわけではない。でも、緋弥が我慢していれば、こうなることはなかった。なんて、自分勝手すぎるかな。誰も憎めるようなことをしていないからこそ、もやもやを投げつける場所がなかった。

 頭を抱え後悔に浸る緋弥。涙が溢れてもおかしくないくらい、ぐちゃぐちゃになっているはずだ。そしてその言葉を信じられずに座り込む皐奈ちゃん。その気持ちはよくわかる。私ただ一人を除いて時が止まったように見えた。何もできない私を残して。

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