第31話
約束通り、土曜日の朝早く、皐奈ちゃんの家を訪れた。前、お邪魔したときと変わらず、太陽の光の中にある温かいおうちだった。
「何しよっか?」
緋弥が来ない限り私たちは暇なのだ。
「ゲームでもする?」
そう言って彼女はゲームソフトを指さした。話題になり気になっていたソフトだ。思わず首を縦に動かした。
その後、二人ともゲームに熱中していた。一言も喋らなくなるまでに集中していた。お昼ご飯はデリバリーを頼む。ピザを口に放り込みながら映画を見る。日光の中で目を閉じ、再び目を開いた頃には、太陽は消えていた。目を開けた瞬間とんでもない失敗をしてしまったかと、心が焦ったが、皐奈ちゃんは起きていたようで、安心した。彼女の手料理をご馳走になった。お母さんの味の面影が微かにあり、噛み締めるとなんとも言えないような心地よさを感じた。
子供の頃は許されなかった楽園のような一日を過ごした。
夜は二人で布団を敷き、横になった。いわゆる女子会のようなものに興味があったので、形だけでも女子会を開催することにした。
「大体、こういう場では、恋愛の話をするんだろうけど、私そういう人いないんだよね。皐奈ちゃん気になってる人いるの?」
ニヤッと視線を向ける。
「いないんだよねー。」
やっぱりまだそうだよね。大学生だもんね。
「私はともかく、望卯ちゃんもいないんだ。すっごい片思いしてそうなのに。」
ん?最後のはどういう意味?
思わず、え?と聞き返すと、彼女はクスッと笑って言った。
「いや、好きな人とか憧れな人がいそうな、目をしてるから。幸せなんだろうな、って伝わってくるくらい。」
それは褒めているのだろうか。それとも実らない恋を馬鹿にされているのだろうか。さすがに彼女のことだから、前者だと思うけど。
「ありがと、?」
なんて返したらいいのかわからなかった。彼女は再び愛らしい瞳を細めた。
しばらく、好きなタイプなんかの話が続いた。段々と夜が深まり、しんみりとしてきた頃に、彼女はこの暗闇のようなぼんやりとした悩みを打ち明けた。
「今、色々とうちの家庭のことについて調べてるでしょ?」
「うん。」
「なんか全部、明かされちゃうのが怖いって少し思うの。」
ほお、と納得した。そのような考えに至ったことはなかったけど、言われてみれば共感できるような考えだ。
「ほのめかすような言い方に聞こえたら、それは違うけど、なんかこれから晒される事実がとんでもない信じられないようなことだったりしたら、協力したことに後悔するかもしれないって思って。」
賢明なその意見に胸を打たれる。後悔するかもしれない、という思いが、怖いという感情に直結している。そういう彼女の意見は、納得させ、共感させる力があった。
私はその意見を尊重することができない。真実を知りたいというのが、私が自分の気持ちに向き合って出した結論だから。
でも、面と向かって否定することはできない。それに、これは同情ではなくて、私も彼女の意見に心を吸い寄せられる部分があるから。
「お兄ちゃんがずるいよ。」
彼女はボソッと呟いた。それが本音なのだろう、と思わせるような、投げ捨てるような言い方だった。
逃げた。そんな言葉が思い浮かぶ。でも、それは睦空だからこその思いがあるからであって、私たち以上に苦しみ、もがいてきたから、許されるべきことなのだろう。そう感じているのが、私だけだとしても、私は彼を尊重する。
「睦空には睦空なりの考え方があるんだよ。」
それが彼女の不安を軽減させてあげられるような言葉には思えなかった。これは、睦空を尊重する意見だ。
それに気がついたのか、彼女はムスッとしているようだった。暗闇でも伝わってくる。
「突き放すような言い方に聞こえたらごめん。」
先に謝っておいた。
「私は強制させるつもりはないし、他の人もないと思う。だけど、私はベールをかけたままにはしたくないから参加する。やりたくなければやらなくてもいい。でも、皐奈ちゃんも協力してくれたら嬉しいけどね。」
彼女は複雑な表情をしていた。二つものの境で迷っているようだった。
「じゃあおやすみ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます