第27話
実家から何か見つかったらしい。もう何も発覚しないで欲しい。しかし、このゲームを始めた限り終わりまで、辿り着かなくてはいけない。それは力を尽くせば辿り着けるゴールではなさそうだ。
「台所の棚の奥の奥に見たかったのが、これだ。」
緋弥はそう言いながら、大量の紙を指し示した。どうやら手紙のようだった。
「みんなで手分けして、一つ一つ読もう。」
「勝手に手紙を読んでいいの?」
素直な皐奈ちゃんが聞く。
「家族だから大丈夫。」
どんな理論だ、と思ったのだけれど、手紙の内容は確かに気になるため、黙っていた。丘ができるほどの量があるこの手紙を、一つ一つ読んでいくのだと考えると気が遠くなる。しかし、どんな内容なのか気になる。
手紙は一言だけ添えられたものから、文字で埋め尽くされているものまで、多様なものがあった。出来るだけ短いのを選び、読み始める。
元気ですか?私は元気です。
それだけの簡潔な内容だった。ほとんどが葉書なので、裏に住所が書いてある。しかし、宛先しか書かれていなかった。郵便屋さんも大変だっただろう。
他のものも見てみる。
紫苑さんへ。
ちゃんと規則正しい生活をしてる?私が作るのと同じくらい美味しい食事をとってる?日々に生きがいを感じてますか?
不安でいっぱいです。ちゃんと家事ができていればいいけど。呼ばれたらいつでも飛んで行くからね。そんな日は多分来ないな。
さて、すっかりと寒くなりましたね。そろそろ庭のサザンカが咲く時期です。ちゃんと水やりをしてあげてね。この季節には、毎年軽井沢のスキー場に行ってましたね。覚えてますか?今年は、というか、しばらく行ってませんが、下手になってないと良いです。家で練習しておきます。あ、適度な運動もしていますか?よかったら、家でできる筋トレ器具送ろっか?返事ください。
近所だけど、遠いところからあなたの幸せを願っています。
茜
茜というのは、母の名前で、紫苑、というのが父の名前だ。この手紙はおそらく離婚後に送られたものだろう。
手紙を読み進めていくうちに、そのほとんどが、母から父に送られたものだと気がついた。文字や用いる言葉が母を表していた。この時代にも電子機器は何かしらあったはずだ。わざわざ手紙でやりとりするのは、なぜだろうか。
「なんか内容なくない?」
如紀ちゃんが飽きた様子でそう言った。
「だね。」
共感した。生存確認のような手紙もあった。一般的な夫婦のやり取りとは、かけ離れているように感じた。
全然終わらない。いつまで続くのだろうか。皆、ため息が増えてきた。気がついたら目を閉じてしまっている。一度閉じるともう一度開くのに相当の気力を使った。
「お酒開けていい?」
単純な作業に飽きた如紀ちゃんが、にやりと笑いながら問いかけた。
「自己責任でどうぞ。」
緋弥は人事のように言った。
らんらんと歩きながら、姉は冷蔵庫の方へ向かう。簡単なおつまみも持ってきているようだった。初めから飲む気満々じゃない。
みんな一人戦力が減ることを覚悟していた。このまま酔い潰れてしまうだろう。
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