第15話

「望卯、父さんの財布知らないか?」

 突然そんなことを言われた。お父さんには、少し抜けている部分がある。ものを無くすのはいつものことなので、あまり重大だとは思わなかった。

「知らないけど。無くしたの?」

「無くしてわけじゃないけど、見つからない。」

 とうとうぼけてしまったのだろうか。これからが心配だ。ただ妙に引っ掛かるのは、無くなったものが財布だということ。この間の事件があったものだから、変な想像をしてしまう。恐る恐る視線を上げる。お父さんはそんなことを気にしていなさそうだった。

「お母さんに相談したの?」

「いやまだしてない。」

 お父さんはなんだか気まずそうに答えた。母に相談することを拒んでいるのだろうか。

「お母さんなら知ってるかもよ。」

 なぜ?って思うようなものも全て位置を把握しているお母さんなら、きっと居場所を見つけられると思う。

「そうだね。」

 それは相槌だった。絶対に母には話さないだろう、と確信した。

 母が悲しむからだろうか。脳裏に横切るのは、この間の事件。彼女は酷く落胆しているように見受けられた。それも無理はない。今までは、変哲のない普通で平和な家庭だったから。

 友達に事件のことを話すと、大したことないと笑った。私だってやったことある、なんて当たり前のような笑みを見せながら言うのだ。真面目だね。そうも言われた。自分では、これが普通のことだとは思えなかった。でも、自分が真面目なわけでないと思う。

 信じられなさすぎて、夢なんじゃないか、と思うくらいだ。もしくは、お母さんが嘘をついていたずらしているだけなのだと、思い込む。しかし、四月一日はほど遠い。今年の分なら遅すぎるし、来年の分なら早すぎる。

 何事もなく全てが思い通りに収まれば、悩むこともないのに。そんなのは無理に決まってるけど。

 また見張り係を頼まれるかもと思った矢先、その予想は見事に当たってしまった。次は父から、見張りを頼まれてしまった。私が力になれる自信はないが、頼まれた限り最善を尽くしたいとは思った。しかし、その役はあまり良いものではない。喜んで受けることができる役ではない。

 父は財布を二つ持っているため、生活に困ることはなかった。不必要、という部分がさらに想像を膨らませた。お金を盗むことが犯人の目的なのだとしたら、これは好都合だ。不必要であれば、髪を荒らして探す必要がない。発覚されない可能性が高まるから。

 ちなみに二つ目の財布の場所は誰も知らない。きっと大金が隠されているのだろう。

 

 まずは、兄に相談した。前回よりも驚き、悲しそうな表情を見せていた。確かに、今回は財布だ。誰かの元にあったとしたら、意図的に盗んだと考えないことはできない。

 受験勉強で忙しいらしく、力にはなれない、と言われた。なので、しょうがなく一人で捜査を行うことにした。

 

 一番初めはやはり、皐奈ちゃんだ。理由は簡単。話しやすいから。

 浮き彫りになるような異常は言動は見られなかった。前回より緊張していたような気がするが。

 次に聞いたのは、如紀ちゃんだった。どうせ彼女も知らないと言うのだろう。そう思ったのだが、まさかのまさか、姉は再び犯人だと自白した。なんと反応していいのか分からず、へー、とよそよそしい対応で誤魔化した。しかし、前回のことがあるので、彼女の自白を間に受けて飲み込むことはできない。とりあえず、様子見とするか。

 部屋に戻り考える。お気に入りのクッションを抱きながら。これで解決なのだろうか。全くすっきりとしない。姉は、罪に問われるようなことをしたというのに、その重大さを知らないような顔を見せていた。姉には聞こえの悪い言い方をすると、前科がある。前回も嘘をついた。彼女は善意でその嘘をついたのかもしれない。しかし、それは善行とは呼べない。前回の件に関して、まだ公表していないけど、私は嘘だということを確信している。しかし、今回は半分ではない。だから疑う余地がないのだ。解決したことにしておくべきだろうか。

 そもそも、彼女はなぜ嘘をついたのだろうか。家族が分裂するのが嫌い、だとか心優しい気持ちからだとは思えない。いつも無関心そうにしているから。彼女の真意がわからない。誰にも本心を明かそうとしない彼女は私にとって、一番近寄り難い人物だった。

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