第20話

「父さんが消えた。」

 翌日、兄弟のメールグループにその字面があった。緋弥からだ。

「今朝、昨日の様子をでも話そうかと家に行ったら、いなかったんだ。」

「捜索届出した方がいいんじゃ?」

 次は皐奈ちゃんからのものだった。

 同意をするスタンプを私も送った。

「あまり大事おおごとにしない方がいいだろう。俺らで探さない?」

 と、緋弥から。

 確かに警察まで関与させてしまうと、急に一大事になってしまう。

 姉からナイスのスタンプがきた。

「じゃあとりあえず明日集合。どこにするる?内密なことだから、公の場じゃない方がいいと思う。」

 明日の予定を確認した。休日であるため皆空いているようだった。

 しばらく誰も返事を送らなかった。自分の部屋を見渡す。片付けないと人を呼べるような状況ではない。

「私のところでいいよ。」

 皐奈ちゃんからだ。

 ぺこり、というスタンプを送った。ありがたい。

「じゃあお昼過ぎにそこで。皐奈、あとで住所送っといて。」

 彼女は、オッケーマークのスタンプを送った。それと同時に住所が送られてくる。意外にも近場だったため安心した。


 そのまた翌日。ちょっとしたおつまみを持って彼女の家へ向かった。

 私が一番乗りだった。続いて緋弥と睦空、姉が到着した。

 大学生が一人暮らしを十分な部屋だった。整頓されていて居心地が良い。

 ラフな格好で来てしまったが、皆とテイストが合っていたため一安心だ。

 机を囲み、会議が始まった。

「じゃあ、早速。最後に父さんに会ったのは、俺かな。」

 緋弥はそう言って皆の方を見た。私は七人で住んでいたとき以来会っていない。

「多分。私は家を出てから一回も会ってないから。」

 離婚後、一緒にいた姉が言った。

「じゃあ俺か。」

 うん、と頷いた。

「母さんが亡くなったときに、呼ばれたんだ。だから、四日前か。」

「そのあと連絡は?」

 彼は、スマホを取り出し確認する。

「してない。最後は、亡くなったことを伝えられたとき。」

 じゃあ四日前に彼が会ったのが最後だ。

「そのときの様子で何か気になったことは?」

 姉が聞く。

「特に、なかった思う。妻が死んだときの典型的な夫の様子って感じだった。」

 彼は思い出すように言う。

「手がかりになりそうなことが全くなくて悪い。難航しそうだ。」

 首を横に振った。

「ほんとよ。まあいいわ。その方がやりがいがあるんじゃない?」

 姉が清々しい顔で言った。

「それで具体的に何をするつもりなの?」

 それは私も気になっていた。具体的な策があるのだろうか。

「これはただの予想に過ぎないが、迷子になったり、遭難したり、というわけでは無いと思う。」

 それは同感だ。流石にそこまでボケてはないだろう。

「このタイミングでいなくなるのだから、何か意図があるはずだ。おそらく隠れ家のようなところにいるだろう。お金も十分にあるだろうし。」

 皆、頷きながら耳を傾けている。

「だから、隠れ家となりそうな場所を探すのが最適な方法だろう。それから実家で何か手がかりとなりそうなものを探すか。」

 最も合理的なやり方だと思った。皆が頷いた。ちなみに私たちが実家と呼んでいるのは、私たちが暮らした家で、離婚後、父の方が使っていた家だ。今は誰にも使われてない。空き家になっている。

「じゃあその二手に分かれてそれぞれ捜索すればいいんじゃない?」

「そうだな。」

「どう、分ける?」

 それは今後の関係性に関わる重大な分水嶺だと思った。直線的に考えれば、姉と緋弥そして私、妹と睦空という分け方が適切だろう。

「皐奈ちゃんは、隠れ家探しに回った方がいいんじゃない?移動多そうだから。」

 姉が言った。確かに、車なしでは大変だ。

「わかった。」

 皐奈ちゃんは笑みを浮かべて言った。役に立てることが嬉しいのだろう。なんて素直な子なのだ。

「じゃあ、俺と兄ちゃんで実家に行く。あとはそっちでやって。」

 緋弥はテキパキと振り分けた。仕事もできるんだろうな。

「めんどくさい方押し付けたな。」

 姉がニヤリと笑った。

「まあ。」

 これは押し付けたな。ただお兄ちゃんを選んだことには意図が隠されていそうだ。しかし、ここで公言するのは拒むと思ったので、問わなかった。

「何かわかったら、グループメールに連絡すれば良い?」

「それでいい。」

 そして解散した。兄が何も喋らなかったことに気になった。しかし、優しい視線を覗き見たら、見守っているように見えて、安心した。

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